いじめ抜いた挙句に精神病棟送りにして使い捨て――自殺寸前に追い詰められた現職海曹が告発する「絶望の自衛隊」
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高校を中退して16歳で海上自衛隊に入ったAさん。殴られる、竹刀で叩かれる、執拗に退職強要を受けるといった肉体的・精神的虐待を受け、後に精神疾患を発症する。何度も自殺を考えたという。公務災害の認定を求めたが受理されていないという。 |
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- 江田島の海上自衛隊生徒隊
- 教官室で退職強要
- 消灯後の集団暴力
- 不問にされた私的制裁
- 脅迫メール
- 脅迫偽メール事件も不問
江田島の海上自衛隊生徒隊
Aさんが海上自衛隊に入隊したのは10年前、若干16歳だった。「生徒部」という高校教育を兼ねたコースである。予定どおり4年間で卒業すれば3等海曹になれる。「一般隊員」という通常の入隊では、2士、1士、士長と任期制隊員を経て、厳しい試験に受かってやっと3曹になる。これに対して生徒部は3曹昇任が保証されている。3曹以上の階級は定年制だ。つまり生活が安定している。
入隊する前、Aさんは一般の高校に通っていた。それを中退して自衛隊に入る決心をしたのは経済的な理由が大きい。母子家庭で貧しく、弟もいる。早く自立する必要に迫られて選んだ道だった。15万5000円の給料をもらいながら勉強できるという条件は魅力的だった。
入隊すると広島県の江田島に赴任した。隊舎に住みながらの勉強と訓練だ。朝6時(冬は6時半)の起床から夜10時の消灯まで分刻みの多忙な毎日だった。食事をする時間もままならず、ご飯に味噌汁をかけて流し込んだ。ついていこうと一所懸命だったが、ことあるごとに上司に怒鳴られた。
腕立て伏せでも怒鳴られた。起床するとすぐに分隊ごとに整列し、号令に合わせて腕立て伏せをやらされる。アゴが地面につくまで深く体を下ろすやり方で50回。Aさんはとてもできなかった。せいぜい半分が限度だ。すると分隊長が容赦なく罵倒した。
「お前腕立てもできんのか!」
理不尽だと感じた。50回の腕立てができない隊員はほかにもいる。だが、なぜかAさんばかりが叱られた。号令訓練の際もそうだった。声が小さいといって怒鳴られる。ただこのときはまだ「いじめられている」とまでは思わなかった。
状況が悪化したのは生徒部2年生になってからだ。過酷な生活を続けているうちに持病のアトピー性皮膚炎が悪化して、ときおり訓練を休むようになった。それとともに周囲の目が冷淡になった。「でくの棒」と罵られたこともある。
そして事件が起きた。隊舎で就寝しているとき、同室にいた同期の隊員が突然腹を殴ってきたのだ。原因は「アトピー」。Aさんは痒くてつい皮膚をかいてしまう。それが隊員の気に障ったのだ。
以後、暴力は毎日のように繰り返された。たまらず上司に相談した。
「毎日殴られる。ひどいんです」
上司はまるで取り合ってくれなかった。Aさんは落ち込んだ。それでも、この程度は序の口だった。
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精神疾患を発症してAさんは自衛隊病院への通院と入院を繰り返している。病院には精神を病んだ隊員が大勢いた。パワハラや過労でうつ病を発症した人もいたという(写真は参考)。![]() |
教官室で退職強要
生徒部2年目の11月ごろ、Aさんは教官室に呼ばれた。周囲の隊員がゲラゲラ笑っていた。理由はわからなかったが、よくないことだろうとは予想がついた。
部屋に入ると教官や上司4人くらいに取り囲まれた。分隊長のK(1尉)、分隊士のH(3尉)、班長C(1曹)とその後輩のS(3曹)だった。やがて罵声が響いた。
「お前、退職しろ!」
Aさんはおののいた
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Aさんが16歳で入隊した海上自衛隊の生徒部(広島県江田島)。教官による暴力や嫌がらせが横行していたという。4年生のときには昼休みに1人で号令訓練をさせられた(防衛省HPより)。
長年にわたって不問にされてきた上司や先輩によるイジメについて、Aさんは今年、公益通報した。現在調査が行なわれている。
イジメが横行し、周囲も見過ごした結果新人隊員が自殺した護衛艦「たちかぜ」。遺族が起こした国賠訴訟で東京高裁は国の責任を全面的に認める判決を下した。文書隠蔽についても賠償を認めた。こうした不正と隠蔽は氷山の一角だとAさんはいう。
たびかさなる退職強要をAさんは拒否した。すると匿名の不審なメールが送りつけられた。内容はデララメだったが、Aさんは不安におびえた。自衛隊内部の者の仕業である可能性が高かった。上司に報告したがうやむやにされたという。
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人間を最大限に侮辱する行為が閉じられた世界で公然と行われいる。さらに自浄能力のない組織であることが明白でそれが未だに公にされないことに、怒りをおぼえる。
公務員に個人的な責任を問うような法律にしないとサディスティックな確信犯はいなくならない。
若者をパワーハラスメントで消耗する社会は明らかにおかしい。いびつな構造を見える化するためにもマイニュースジャパンには頑張って欲しい。
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