私が残業代424万円を取り戻し、違法行為の責任を認めさせるまで――IT企業アンシス・ジャパンに勝訴した元社員が語る
原告女性(43歳)。メール、手書きノートなど、豊富な証拠を揃え、アンシス・ジャパンに完全勝訴した。 |
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- 原告全面勝訴の判決
- 面接時の約束はほとんどが反故に
- 「問題社員」の尻拭いに追われる日々
- 契約社員なのに、「正社員を指揮・指導しろ」
- Kからパワハラで訴えられる
- 改善要望、提案をことごとく無視
- 手書きのノートが残業代未払いを立証
- 労基法違反の刑事罰を避けるために請求認諾
- 不法行為の法的責任を認定
原告全面勝訴の判決
元エンジニアの女性から不払い残業代の支払いなどを求めて東京地裁に提訴されていたアメリカ系IT企業アンシス・ジャパン(本社東京都新宿区、大古俊輔代表取締役社長)が、結審直前の2015年2月21日に請求認諾し、同3月21日に原告女性に424万円の未払い残業代(遅延損害金含む)を支払った。民事裁判において、請求認諾、すなわち被告が原告からの請求受入れを表明すると、裁判所作成の調書に記載され、原告勝訴の確定判決と同様の効力を有することになる。
さらに6日後の3月27日には、この裁判のもう一つの争点だったアンシス・ジャパン(以下、アンシス)の不法行為の責任に関する判決が示され、東京地裁は、不法行為を認め、アンシスが慰謝料50万円を原告に対して支払うよう命じた。この判決は、同社が控訴しなかったことで確定している。
アンシス・ジャパンは、米国法人ANSYS Inc.の100%子会社として01年に設立されたのち、数社の買収を経て2010年8月に現社名で別途設立されたIT企業だ。CAE (計算機支援工学。コンピュータを活用して製品の設計・製造や工程設計の事前検討を支援する)ソフトの開発販売や、その保守サービスなどを行い、12年12月現在の従業員数は約140名。親会社の米国法人は、09年と10年にFORTUNE 誌の「100 Fastest-Growing Companies」(急成長企業100 社)に2 年連続で選出されている。
原告の長瀬美沙子さん(仮名・43歳)はもともと、アンシスの前身であるフルーエント・アジアパシフィックの正社員として、06年1月から1年5ヶ月勤めた経験がある。その後は別の会社で働いていたが、かねて元同僚たちから「戻ってきてほしい」と要望されていたこともあって、経験者募集の求人に応募。
10年10月1日に入社し、同社技術部に配属され、エンジニアとして、インストールサポート(アンシス製品を幅広く理解した上で、ユーザーである顧客に対し早急に問題解決、サポートを提供する業務)の担当者となった。11年7月1日以降は正社員となったものの、当初9か月間は、「一度退社している」との理由で、契約期間1年の契約社員待遇だった。
長瀬さんの労働実態がごまかされたニセの勤務表。すべての出勤日で、定時出社、定時退社したことになっている |
面接時の約束はほとんどが反故に
長瀬さんの入社にあたり、アンシスはいくつもの約束違反を犯している。雇用条件について話し合った2度目の採用面接で、「年俸は退職前の金額を基準にして欲しい」と要望した長瀬さんに対し、アンシスの平人事部長は、「直ちには無理だが年俸の10%程度の賞与と残業代でカバーする」と回答。これに長瀬さんが、「残業代は出るのですか?」と確認したところ、平人事部長は「残業代を支給しない企業は聞いたことがない」と述べたという。
だが、そう言われて入社した長瀬さんは、直後の11月17日には、配属先である技術部・王暁部長から、「技術部では基本的には残業は申請するな」と命じられる。面接時の人事部長発言に触れ、「残業代が出ないならフレックス制度を適用して欲しい」と申し出た長瀬さんに、王部長は「技術部は9時30分から18時までなのでダメだ」と言い、頑として認めなかった。
「アンシスでは、多くの技術者は残業申請もできずに遅くまで社内で残業し、帰宅後も自宅で業務を行うのが当たり前になっていました。私もこれ以降、他の技術部のエンジニアと同じく、残業の申請はできなくなりました」
「契約社員とは言っても、待遇は正社員だから」という、入社前の説明も、すべて嘘だった
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米国のアンシス本社(写真はアンシス・ジャパンのサイトより)
長瀬さんから提訴され、アンシス・ジャパンが提示してきた和解案。
残業代未払いを立証した手書きノートの一部。
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読者コメント
パワハラは悪用されるというのも驚きだ。しかしこの事実を口封じしようとする会社も驚きだ。よほど知られたくない事実だったんだと思う。転職する場合このような事実が報道されているとブラック企業の地雷を践まなくてすむのでありがたい。
客観的に見て明らかなパワーハラスメントを許していればこうなる。この判決を各企業は真摯に受け止めるべきだろう。それが出来なければ次報道されるのはお宅の企業だ。
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