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東芝 「原発は、最後まで残すところだから大丈夫」――国策事業は“ペーパー技術者”でも安泰!影響はボーナス2~3割減だけ

情報提供
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社員の名刺には「電力システム社」と表記。正式名称は「エネルギーシステムソリューション社」。原発、火力、水力、地熱、太陽光、燃料電池、送変電設備、スマートメーターなど幅広く電力全般を手掛ける、半国策会社
 売れるものがなかったら“シャープ化”しかねなかった東芝。子会社ウエスチングハウス(WH)を含むグループ全体の粉飾決算発覚で債務超過の恐れが出て、泣く泣くキヤノンに売却されたのが、成長部門の東芝メディカルシステムズだった。その社長も務めた医療畑出身の綱川智副社長が、“我が子”を高値で売り飛ばして本体を救った功労者として、2016年6月、東芝社長の椅子につく。PC・TV・白物家電といった不採算事業の分離・売却、希望退職募集、来季(17年4月入社)の新卒採用中止と、応急措置に追われているが、今後、もっとも業績を左右しそうなのが、3.11事故後の5年間も新規受注ゼロでWHの巨額減損処理に追い込まれた原発事業だ。東芝最大の売上規模を誇る社内カンパニー「電力システム社」の中核事業・原発部門に在籍する若手社員に、社内から見た東芝の実情について聞いた。
Digest
  • 脱「サザエさん」戦略も“ペーパー原発設計者”増殖中
  • 3,449人が希望退職に応募
  • 10年間、新規建設なしで…
  • 「チャレンジ」と不正会計
  • 「被ばくしてもいいから、廃炉の仕事を」
  • 浜岡原発停止は「英断」と社内で高評価
  • 各事業部に2~3人ずつ配属された外国人
  • 外国人は数年で辞めるパターンが多い
  • 若手はTOEIC 500点でもウエスチングハウスに出向
  • 府中市「東芝町」お湯の使用制限つき独身寮
  • 社割よりヤマダ電機のが安い

脱「サザエさん」戦略も“ペーパー原発設計者”増殖中

PC『ダイナブック』、TV『レグザ』、そして洗濯機やエアコンなどの家電メーカーとして一般家庭でも馴染み深い東芝。だが、粉飾決算による本当の業績悪化を受けた構造改革で、ほぼ消費者向けの事業からは姿を消すことになった。

今後は電力(原発、火力、水力…)、産業インフラ(鉄道、エレベータ、空調…)、半導体(フラッシュメモリ)の3本柱に集中し、長年スポンサーだったアニメ『サザエさん』一家の、ほのぼの生活シーンからは遠ざかり、産業向けの国策依存会社として地味に生き残りを図る。消費者が直接お金を払って買うものは、もう作らない。

なかでも最大の売上規模は電力システム部門であり、その中核事業が、ウエスチングハウス買収で世界展開を加速しようと思ったら3.11でつまづくという「間の悪さ」で東芝に運のないことを見せつけた原発事業だ。それも、自社が建設に深く関与している(福島第一原子力発電所1号機~3号機、1971年~1976年)だけに、自業自得というほかない。

事故の影響もあり、2005年を最後に10年以上も自社での新規建設を行えておらず、傘下のウエスチングハウスも事故後、新規受注はゼロ。中堅以下は完全に“ペーパー原発設計者”と化しているが、それでも未経験者が年功序列で役職に就いていくという日本的な組織上の問題が発生しているという。


3,449人が希望退職に応募

巨額の粉飾決算から4300億円の営業赤字(2016年3月期)に転落する見通しとなった東芝は、経営再建のために年明けから早期退職優遇制度(人数定めず)を走らせ、募集をかけた。2016年4月15日発表によると、応募者は3,449人となり、4月末までに退職する。3,234人(2015年9月退職)のシャープを上回る大規模リストラとなった。

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希望退職への応募結果内訳

対象は、指定した部署に在籍する「40歳以上」で「勤続年数10年以上」の社員。

応募者の内訳は、多い順に、システムLSI(大規模集積回路)などを手がける電子デバイス部門が2058人、家電事業やパソコン事業などのライフスタイル部門が1086人、コーポレート(管理・間接部門)が246人、ヘルスケアが59人だった(左記の通り)。

退職金の加算額が最も多いのは46歳~53歳で、基準賃金の40カ月分が一律で上積みされた。ソニーが2014年度に行った早期退職支援プログラム(満40歳以上55歳未満で36か月分の割増し)と肩を並べる、まずまずの条件といえる。概算で、役職者で4千万円、非管理職で2千万円強が、額面の支払い総額となった模様である。

とはいえこの早期退職制度は、子会社社員も対象であり、東芝には連結で19万8,741人(2015年3月期)もの従業員がいた。生クビが飛んだのは、実は全体の1.7%にすぎず、甘い「調整」の範囲内といえ、大胆で厳しいリストラとは全く呼べない内容だ。(つまり、いざとなったら、まだまだ、いくらでも膿を吐き出して生き延びる余地はたくさん残っている)

最大の退職者が出る「システムLSI事業およびディスクリート半導体事業」(1,877人)は、ソニーへのイメージセンサー事業売却に伴う事業撤退で、生産設備等と一緒にソニーグループに転籍(約1100人が転籍決定)できなかった大分工場など子会社の従業員が中心である。

2番目に多い家電事業(510人退職)は、中国企業「美的集団」への白物家電事業売却・撤退に伴うもの、3番目に多いパソコン事業(401人退職)は、パソコン自社生産からの全面撤退(今後は法人向けに特化し、バイオ・富士通との事業統合を検討中)に伴うもの。

この家電とパソコンを含むライフスタイル部門は、2015年3月時点の本体社員数が既に829人しかいなかったが、今回の応募者は1086人。つまり、退職者の多くはグループ会社の社員ということだ(グループ全体では2015年3月時点で24,216人いた)。

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東芝のセグメント別売上高(単位:兆円、各年3月期)

3大主力部門のうちの2つ、「電力・インフラ部門」と「コミュニティ・ソリューション部門」については希望退職の対象外とされ、もう1つの「電子デバイス部門」も稼ぎ頭のNANDフラッシュメモリ(スマートフォンなどに使われる記憶装置)は対象外だ。選択と集中を明確にしたため、主力部門に在籍する大半の社員にとっては無関係だった。

超巨大グループだけに、現場の温度差は大きい。東芝の場合、相互に、ほぼ関係がない3つの主力事業を持ち社内カンパニーに分かれる。それぞれにグループ3万~5万人の従業員を抱え、カンパニーをまたいだ異動がほとんどない。リストラ対象外の部門では、ほとんど他人事に近い感覚があるようだ。

最もリストラと無縁なのが、社運をかけて経営資源を投入してきた電力システム社(エネルギーシステムソリューション社)。過去には、原発の安全性にお墨つきを与える判決を下した最高裁判事の味村治氏を監査役に迎え、「天下り受け入れによる司法との癒着」といった批判を受けつつも、東芝をあげて推進してきたコア事業だ。

 この裁判の審理(福島地裁)で、原告はこう訴えていた。
 <もしもこのまま進行するならば福島は現在の産業公害と同様、あるいはそれ以上ものとして、放射能公害の一大実験場に化することは明らかである>

そして約20年後、その通りとなってしまった。

 その原発部門に在籍する総合職社員に、話を聞いた。新卒で入社後、10年未満の若手技術者である。(※以下、インタビュイー)

10年間、新規建設なしで…

「原発部門は、最後まで残すところだから大丈夫だよ」――うちのカンパニーでは、上層部からそういうメッセージが折に触れて伝わってきますので、危機感はあまりないです。実際、うちは希望退職募集の対象外でしたし、大丈夫なんだろうな、とは思っています。

同期で、事業売却にともなってソニー(イメージセンサー事業)や美的集団(白物家電)に転籍になったという話も聞きません。そういった不採算事業には、もともと我々の世代以降に入社した若手の配属がほとんどなかったからだと思います。

他カンパニーでのリストラも、本体ではなくて、ほとんど子会社が対象ですし、多くの人は、会社が傾いてヤバいというよりは、「何とかなるだろう」と思っている印象です。特にうちのカンパニーだと、このタイミングで自分から辞めていく人も、100人いて1人だけとか、ほとんど見ません。寄らば大樹で、すがっていたいタイプの人が多いです。

原発事業の問題は、東芝本体が最後に原発を作ってからもう10年たっており(※東北電力向けに「東通原子力発電所1号機」の発電設備一式を2005年12月に納入したのが直近)、若手はほぼ未経験で、アラフォー世代でも建設未経験者が多いことです。

40歳前後の世代は、歳だけとっていて、スキルがない。それでも年功序列なので、労せずオイシイとこだけみてきた人が役職に就いている。40歳前後の方は、自分たちで動いていくチカラが弱いと感じます。下の者としてはやりにくいですし、組織の癌がたまっている感じがします。

50歳前後から上の技術者は、自分たちで切り開いて仕事を得てきた先輩方で、原発の建設も経験していますし、現場で苦労してきているから、言うことにも説得力があり、役に立つんです。経験に裏打ちされた技術を、どうやって我々以降の若い世代に継承していくか、が問題です。

そういうわけで、希望退職で辞めていく人は1人も見ていないのですが、定年を迎えて辞めていく人は、ふつうに見ます。

いわゆる「定年式」(最終出社日の儀式)は記事のとおりですが、檀上に上がってスピーチして、みんなが「おめでとうございます」と祝福し、ハイヤーが迎えに来て、昼休みごろに「おつかれさまでした」とみんなから言われて、自宅に帰っていきます。うちの部署では、3か月に1回くらいのペースでやっています。

東芝は55歳で役職定年となって役職手当分の給料は下がりますが、多くの退職者は副参事級(管理職クラス)以上のまま、「定期昇給」によって上がり続けた1千万円程度の年収は維持し、「部付」社員のまま50代を過ごして60歳の「定年式」を迎えます。

「チャレンジ」と不正会計

 東芝の労使は2016年3月16日、ボーナスを前年より最大約50%減額することで春闘を妥結した、と発表した。不正会計問題を受けた業績悪化からの経営再建中でもあり、労働組合は賃金体系を底上げするベースアップ要求は見送ったが、定昇(定期昇給)の維持は求め、会社側は定昇維持を受け入れた。

不正会計問題の影響と言えば、今年のボーナスが一時的にカットされること。「最大50%減」と報道されていましたが、僕のクラスだと、2~3割減になる計算でした。

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東芝若手の給与明細。残業代は月によって5~10万円超。ボーナスカット分は残業が増えればカバーできる水準。サービス残業はないという。

僕よりも下の代だと

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2016/04/30 20:49
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