インタビュイーに一級建築士免許証明書を提示してもらった
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一級建築士は、国内において、規模の制限なく建造物の設計を行える国家資格だ。いわゆる「建築家」が保有する資格でもある。その多くは、ゼネコンや組織設計事務所で実務を学び、資格を取得する。二級建築士は3階建て戸建住宅程度の規模までに制限されるため、積水ハウス等のハウスメーカー(具体的には積和建設)設計部門なら二級でOKだが、オフィスビルやタワーマンションなど大規模建築物の設計を行うには一級建築士が不可欠となる。大卒で準大手ゼネコンに入社、建築設計部門に配属され、26歳で資格取得した一級建築士(現在30歳前後の現役若手社員)に、仕事・生活・対価の実情についてじっくり聞いた。
【Digest】
◇実務経験必須の資格
◇学部選択&就活のほうが先、資格は後
◇ゼネコン、組織設計事務所、アトリエ系…
◇インフラ会社や官公庁も有力就職先
◇4択――あとからキャリアの修正がきかない
◇設計3部門(意匠、構造、設備)への配属が基本
◇コンセプト作りから関わることも
◇建設プロジェクト、設計の流れ
◇BIMへの移行中――CADオペさんは減るか
◇設計業務のやりがい、面白み
◇設計監理のフェーズ
◇客・社内・役所…様々な調整と葛藤
◇対社内のコミュニケーション
◇IT化、機械化による変化――AI「隈研吾風の設計で」
◇対役所業務の自動化余地
◇施工管理プロセスの機械化は…
◇ドローンで設計監理は…
◇有休、残業は会社次第
◇ゼネラリストを求められるストレス、建築士のジレンマ
◇女性は母数が少ない
◇平均年齢50歳、月収42万円…
◇実務経験必須の資格
一級建築士は、資格取得のための受験資格として大卒でも2年以上の実務経験が課されるため、公認会計士のように「10代で試験に合格」がない。大学をストレートで卒業して働き始め、新卒入社から2年間実務を経験してはじめて、試験を受けることが可能となる。つまり、最短で資格保有者になれるのは24歳からだ。
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1級建築士二次試験合格者の属性 |
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試験は、一次が「学科」、二次が「設計製図」。学科に受からないと設計製図には進めない。平成29年は4,946人が一次で合格、3,365人が二次で合格した。最終合格率は10.8%。合格者プロフィールをみると、学歴は「大学」が76%でトップ、職域は「設計事務所」と「建設業」がそれぞれ35%で並び、職務内容は「建設設計」が44%でトップだった。合格時年齢は20代が48%、30代が38%、残りが40代以上だ。
今回の中心的なインタビュイーは、一級建築士の標準的なプロフィールと言うことができる。
◇学部選択&就活のほうが先、資格は後
一級建築士の資格が必要となるのは、役所関係の建築申請時に、図面に主たる設計者として氏名を記すときである。病院、ホテル、マンション、ショッピングモールといった大規模な建造物は、実際にはチームで設計業務を担当するため、資格がない若手設計者も、ごく普通に建築士の実務(設計や施工管理)は経験できる。
「資格取得=それなりに高めの収入」となる弁護士や司法書士と異なり、一級建築士は、OJTで資格保有者の下で学びながら試験を受けて資格をとり、より責任ある一人前のポジションにステップアップする――そういう性格の資格である。
建築士の登録者数は、ただでさえ多い。一級建築士で、毎年3~4千人ずつ新規取得者が出る。単に資格を持っている、というだけでは、人並みの収入もままならない。会社組織に入り、その会社のブランド力や営業担当含めた組織力によって仕事を受注しなくては、そもそも仕事にありつけない。
一級建築士:36万6,755人
二級建築士:76万1,558人
木造建築士: 1万7,825人
(平成29年4月1日現在の登録者数)
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つまり、資格取得が先ではなく、就職活動のほうが先なのだ。もっと言えば、大学の学部選択の時点で、就職できる業種の方向性が決まってしまうのが建築学科だ、と言える。したがって、本稿は高校生またはその指導にあたる親や教師が読むべき内容である。
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日大・東京理科大・芝浦工業大がトップ3(平成29年二次試験合格者のプロフィールより) |
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建築学科がある大学に入り、大学院で建築設計(意匠、構造、設備)を専攻し、ゼネコンまたは組織設計事務所に入るのが、王道。
一番わかりやすい王道キャリアを歩んだのが隈研吾氏で、東大工学部建築学科卒業→東大院建築意匠専攻修了→「日本設計」と進み、ゼネコン勤務や海外留学を挟んで独立した。
なお、建築学科卒で最も一般的に知名度が高いのは東大工学部卒のタレント・菊川怜だと思われる。
2017年の資格取得者全体では、建築学科に入学できる母数が多いことから、日大・東京理科大・芝浦工業大がトップ3となっている。
◇ゼネコン、組織設計事務所、アトリエ系…
一級建築士のメイン業務である建築物の設計業務は、大きく3つの機能に分かれる。すなわち、.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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中学生がなりたい職業ランキングで男子の9位にランクインしている建築家(東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所が実施した「子どもの生活と学びに関する親子調査2015」より) |
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東大建築学科卒業後の進路(東京大学公式サイトより) |
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準大手ゼネコン30歳前後社員の源泉徴収票 |
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