“人間ジョブ”に高い賃金払い生産性上がる欧州、単純労働者を輸入してまで“機械ジョブ”を低賃金で人間にやらせ続ける日本
バーガーキングの自動注文機。支払いまで無人で完了。番号が表示されたら商品をとりに行くだけ。こうした最低限の機械化を進めていない段階で、外食業界の経営者は「人手不足」と虚偽の事実を主張し、マスコミは検証せずにフェイクニュースをそのまま垂れ流している。 |
- Digest
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- 日本の1.5倍!総じて高い欧州の最低賃金
- 機械化できるプロセスは機械化
- 現金決済というボトルネック
- 機械化努力ない「人手不足」が、なぜかまかり通る日本
- 有期契約24か月で永久契約に
- 実際の賃金相場――業務委託と直接雇用の2形態
- コンビニバイト仕事の相場が時給1700~1800円
- 日本人メリットはあるのか
- 「営業権」というハードル
日本の1.5倍!総じて高い欧州の最低賃金
EU主要国で一番高いオランダの最低賃金。日本の1.5倍。 |
日本の最低賃金は、他の主要国と比べるとかなり安く、時給874円(2018年、全国平均)、東京で985円だ。1か月に換算すると1,165ユーロ(計算式=874円×週40時間×年52週/12か月/130円=1,165)となる。左記グラフのとおり、ちょうど、「スペイン・ポルトガル」と、「蘭英独仏」の、中間くらいにあたる。
欧州では英独仏蘭が高く、オランダで月1,594ユーロ(2018年7月~)、時給換算では約10.2ユーロ、約1,328円である(※計算式=1594×12か月/52週/36時間×130円=1,328)。
実に、日本の52%増し、1.5倍だ。人為的な日銀の円安誘導政策の分を考慮してもなお、日本は安い。
最低賃金ではなく、実勢相場はどうなのか。現在、日本の外食・小売店の、いわゆるノースキル&ノーキャリアの単純労働採用(=マック・ジョブ)における時給相場は、東京・横浜で1000~1200円くらいである(※横浜駅のセブンイレブンが全時間帯で、時給1千円で募集していた)。
現地の日本人に最新の相場を調べて貰ったところ、オランダで上位3位に入るスーパー「Dirk」で現在、募集がかかっているのが、時給14.15ユーロ(22歳)から、だという。日本円で、1,840円だ。若者の時給が激安なのもオランダの特徴で、15歳で4.56ユーロ、18歳で6.6ユーロ、などと年齢が若いとまともな時給は貰えない。
大手スーパー「Dirk」の求人条件 |
ただ、22歳以上でバイトの時給1,840円と言っても、ビックマックセットが8.85ユーロ(1,150円)と物価のほうも高いうえに、確定申告で納める税率も日本より高い(最低でも課税所得の36.55%)ため、労働者が生活するうえでの購買力という点では、デフレで何でも毎日がバーゲンセールな日本と、いい勝負かもしれない。
欧州主要国(英独仏蘭)のなかで一番高いオランダは、時給制による「同一労働同一賃金」を徹底することによって、短時間勤務でも不当な扱いを受けず、“働き方改革”にもっとも成功した国として知られる。日本の「労使で合意して36協定を結べば青天井で残業可能」といった、ブラック企業のために国が用意した抜け道など、もちろん存在せず、週36~40時間を上限に、従業員の長時間労働は厳しく禁じられているという。
機械化できるプロセスは機械化
人間の労働コストが高いと、経営者にとっては、機械化を進めるインセンティブになる。実際、マクドナルドやバーガーキングの注文&決済は機械化されていた。普通に人間に注文するより、トッピング(ピクルス、レタス、チーズ…のアリ/ナシ)まで細かく正確に指定できるので、満足度も高い。PIN(デビット)かクレジットで決済すると番号が記されたシートが出てきて、あとはその番号が電光掲示板に表示されたら、商品を取りに行くだけ。合理的だ。
アムステルダムのマクドナルド。店内に10台ほど設置。トッピングを細かく選択できる。人件費も高いが、ビックマックセット8.85ユーロ(1150円)と、外食相場も高い。なおイタリア(ローマ)は6.9ユーロ(900円)、日本は690円。 |
自動化によって、注文を受けて決済を行うカウンタースタッフの工数(人数)を減らせる。人間が注文を受ける場合は、マニュアル通りに店員が客から聞き取った内容をもとに、レジのタッチパネルに打ち込み、決済方法を客に聞いて決済する。それと同じ作業を、客が1人で、自分のペースでやるだけ。これまでは、「注文」「決済」のプロセスが、客と店員の双方の時間を同時に消費する無駄な「重複業務」だったわけである。
残された“人間ジョブ”は、注文の通りにハンバーガー類を制作してポテトを揚げ、ジュースを入れ、トレイに乗せる…というバックヤード作業のみ。この工程がどこまで自動化されているのかは見えないのでわからない。全体として機械化が必要人員数を減らしているのは間違いない。
オランダ独特の、ハンバーガー自販機。こちらは全自動につき、価格もマクドナルドより安い。 |
実はオランダには、ハンバーガーの自動販売機も街中に普及している。「FEBO」という店をはじめ、こちらは古くからオランダ中にあるそうだが、2.5ユーロの現金を入れると、ガチャっと開いて、保温室から、温かいハンバーガー(やコロッケ、ホットドック等)を取り出せる。
売れると、店員がバックヤードで完成させたハンバーガーをまた入れに来る。この作業はアナログである。決済が非接触デビット(PIN)でできる店もあった。
この自販機の支払いはデビット決済も可 |
「注文を受ける」「決済する」というプロセスを自動化している点はマックと同じだが、さらに「商品を渡す」というプロセスまで自動化されている。店員は、黙々とバーガー制作に専念し、客とは一切、接点を持たず、全員の待ち時間がゼロ。
人件費を最小限にしている分、価格はマクドナルドよりも多少、安い。つまり、人件費が高いオランダだからこそ、成り立っているビジネスモデルとも理解できる。
現金決済というボトルネック
デビット(PIN)決済が6割と、オランダでキャッシュレスが進んだ背景にも、人件費の高さがあると考えてよい。完全キャッシュレスのバーガー店「veganjunkfoodbar」を観察すると、テラス含め40席ほどの店だったが、注文受けから机へのデリバリーまで、ホール全体を従業員1人だけで回していた。
これができるのは、現金を一切受け取らないことで、決済に手間取らないからだ。日本のスーパーのレジ業務でも、一番時間がかかるのは「決済」プロセスであることがわかってきている。客が小銭を数えたり札を用意したりカードを探したり財布に釣りを戻したり…という時間が、人によって異なり、長いのだ。その結果、現在は、商品読み取りプロセスを分離し、「決済のみセルフ化方式」が主流となりつつある。
つまり、ピッ、ピッ…という、商品のバーコードを読ませてカゴに入れていく作業のみを店員が手作業で行い、その1つのレーンに、3つほどの決済専用自動レジが後工程で設置されている。電子マネーやカード決済の客は後工程がないが、現金払いの客には「〇番レジでお支払いください」と伝え、そこでゆっくり決済だけをセルフサービスでやって貰う、というハイブリッド方式だ。これは、行列のボトルネックになっていたのが「現金決済」であったことを示している。現金払いという行為が、いかに客自身だけでなく店員の時間(つまり人件費)をも奪い、生産性を下げてきたか、がわかるだろう。
ビーガンジャンクのキャッシュレスレジ。決済端末、レシートプリンター、タブレット画面のみで省スペース化。 |
閉店後に、レジの数字と実際のキャッシュが合っているかを数えたり、現金を保管して銀行に人間が輸送する時間も、すべて人件費がかかっている。
ビーガンジャンクフードバーでは、これがキャッシュレス化で、全くかからなくなり、レジスペースもこれだけ(右記参照)で済み、強盗に遭うリスクもなく、店員がキャッシュをちょろまかす可能性もない。実にクールだ。
機械化努力ない「人手不足」が、なぜかまかり通る日本
ファストフード店の機械化は、ここ数年で一気に導入が進み、他の欧州各国(ドイツ、イギリス、フランス、イタリア…)でも同様に、空港や中心街にある店から普及しつつあるが、日本では実験だけ済ませて、導入は全く進めていない。人件費が安いと、機械の設備投資をする必要がないので、そのまま人間に機械ジョブをやらせておくほうが合理的な判断となる。こうして日本は、人間が機械ジョブをやり続けている。人間の価値が低い途上国なのだ。
それで、外食業は「(安い給料でも働く人材の)人手不足」だから、国際的な経済格差を利用して、海外から安い労働力を輸入する、と政府が言っている。その人数は、外食業で「5万3千人」と公表されており、介護(6万人)に次ぐ規模となっている。
機械化を進めてもいないのに「人手不足」と言うのが、いかに論理的におかしなことか、欧州の店を見ればすぐにわかる。正しくは、「機械化すれば人手不足を補えるし技術的にも既に100%クリアされているが、時給相場が欧州よりも激安なため、設備投資がペイしない」という途上国状態なのが現状で、「従業員の給料を欧州並みに上げたくない」「機械化投資もしたくない」という、怠慢な外食経営者のエゴで、外国人単純労働者が導入されようとしているわけである。合理性のかけらもない政策だ。
人手が足りなくなると、「売り手市場」となり、時給相場は少しずつ上がっていく。だが、給料が上がりかけると、外国人を輸入してまで上昇を抑え込み、非正規を徹底的に搾取するのが、日本政府の方針である。これは、外食の経営者集団に比べ、非正規社員たちに政治力がないためだ。ご存知の通り、ワタミ創業者・渡邉美樹は政権与党・自民党の現職国会議員である。
有期契約24か月で永久契約に
一方で、オランダは日本とは対照的に、従業員の権利が手厚く保護されている。単に時給が1.5倍と高いだけではない。
アルバート・ハインのレジ。欧州のスーパーでは、店員は座って作業をするのが一般的。 |
欧州では一般的だが、スーパーのレジで店員が座ったまま無言で作業しているのは、日本人には新鮮な風景である(右記写真はアルバート・ハインのレジ)。客のほうは立って列を待っているわけで、何やら店員のほうがエラそうだ。そして、レジ労働者に、日本のような「いらっしゃいませ」感はない。ウェルカムな態度を求めてはいけないようだ。労働者の権利をわかりやすく象徴している。
実際に、従業員と雇い主との関係は、どのようなものなのか。30代の日本人オーナー経営者に、匿名を条件に実態と本音を聞いた(※実際に2ケタの従業員が働いているため)。業態としては世界中にある“和食系居酒屋”の一種である。
「こちらでは、日本に比べ、従業員の権利が強くて、守られているな、と感じます。
たとえば、同じ人をパートで2年間雇用し続けたら、3年目に『永久契約』の義務が課されるんです。日本でいう正社員みたいなものです。
永久契約になった社員が、たとえばちょっとした怪我をすると、それが(日本では休む理由にならないような)軽いものでも、有給で長期間(※最大104週間)、休む権利が発生して、その間、経営者は、給料を払い続けなきゃいけないんです(※1日あたり賃金の70%)。これは経営側としては、かなりのリスクです」
つまり、通常の有休とは別に、プライベートで打撲・捻挫・風邪などを患い、働けません、と傷病休暇が申請される。それは働く者の権利なので、従業員にとっては助かる。一方で、実はたいしたことない軽い怪我でも、悪用されかねない可能性もあり、1年の有期契約なら契約期間内で賃金支払い義務は終わるが、永久契約社員だと104週(2年間)に及ぶ可能性がある。
詳細は、「Buren N.V.」(世界5都市に事務所を構えるオランダの総合法律事務所)労働法グループがまとめた文書『オランダ労働法概説』に詳しい。以下が、その該当箇所だ。
民法典第 7 巻 668a 条に、契約の連鎖(chain of contracts)に関する規定があり、有期労働契約が連続して延長され、(i) 合計連続契約期間が24ヶ月を超える場合、または、(ii) 連続した契約が 3 つを超える場合、自動的に無期雇用契約に移行します。
民法典第 7 巻 629 条によると、労働者は傷病により就労不能となった場合、労働契約の契約期間に限り、104 週の間、原則として、少なくとも一日あたりの賃金の 70%を、使用者から受領する権利があります。また、病気になった最初の 1 年間については、当該金額が、法定の最低賃金額を下回ることがあってはなりません。
Buren N.V.『オランダ労働法概説』より |
この継続雇用2年で永久契約に移行する権利については、日本でも遅ればせながら2013年から、「非正規雇用5年連続」で無期限雇用に転換する権利が発生するようになり、5年たった2018年4月から最初の転換が始まったばかり。オランダは、わずか24か月(2年)だ。いかに日本の非正規が、労働者として大事にされていないか、がわかる。
実際の賃金相場――業務委託と直接雇用の2形態
オランダでは、実際の時給は、どのくらいの相場で、経営者の総人件費負担はどの程度の重さなのか。
「フリーのシェフ経験者だと、時給15~16ユーロくらいから、が採用できる相場で、日本に比べると、かなり高いと感じます。ウチの場合、ありがたいことに、日本びいきな現地のオランダ人が応募してくれるので、相場よりも安い時給で、パートのスタッフを採用できています。直雇用の場合だとこの先は会員限定です。
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人工知能を含む無人化技術、省力化技術などが進歩していけば、昨今の人手不足問題も徐々に改善し、逆に今度は人手余りの時代が到来すると思う。人間が働かなくとも必要最低限のインフラ網が維持できるようになれば、ベーシックインカム導入も日本国内で真剣に検討されて来るんじゃないかな。
記者からの追加情報
→日本の貧弱なジュース事情はどうにかならないのか
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