「選挙直前に配布したチラシの経費を政務活動費で全額支出」は違法 自民党杉並区議めぐる裁判で田中区長3連敗の苦境
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自民党の杉並区議8人が2015年の選挙3ヶ月前に政務活動費を支出して作成・配布した「区政報告」。選挙目的を併せ有することは明らかだとして経費の2分の1を超えた支出を違法とする住民訴訟判決が、2件の訴訟で相次いで3件下された。しかし当該の議員らは返金していない(2019年4月17日現在)。 |
- Digest
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- 選挙3ヶ月前にチラシを政務活動費で大量配布
- 紙面の半分は議員の名前と顔写真
- 区政報告に名を借りた選挙PR
- 「4年間」の総括をチラシに書いているワケ
- 「選挙のためではない」と釈明するが
- 裁判でぼろ負けの大熊議員
選挙3ヶ月前にチラシを政務活動費で大量配布
主文――
1、控訴人(杉並区長)は、大熊昌己に対し、5万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
2、控訴人が大熊昌己に対し5万円の不当利得返還請求をすることを怠る事実が違法であることを確認する。
4月16日午後1時30分、東京高裁808号法廷で、萩原秀紀裁判長は淡々と判決文を読み上げた。被告田中良杉並区長は、自民党杉並区議の大熊昌己氏(本稿執筆現在、杉並区議選に立候補中)に対して、2014年度政務活動費として支出した5万円を区に返還させよ――という意味の判決である。
筆者ほか杉並区民3人の原告(被控訴人)が勝訴し、被告田中杉並区長が敗訴した。敗訴を予想していたのだろう、被告(控訴人)杉並区長側の席にはだれもいなかった。傍聴席には5~6人の区職員がいたが、さえない表情で法廷を後にした。自民党会派が選挙直前に顔写真を大きく配置したチラシを大量に作成・配布し、その経費の全額を政務活動費で支出したことの是非を問う住民訴訟で、被告杉並区長は3度目の敗訴を喫した。
紙面の半分は議員の名前と顔写真
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問題のチラシを政務活動費で支出した自民党会派の議員(杉並区議会発行の冊子より。富本卓氏は2019年3月で議員を辞職し政治家を引退。小泉靖男議員は裁判中に死去したため訴訟を取り下げた)。![]() |
ことは4年前の2015年1月末にさかのぼる。3ヶ月足らず先に杉並区議会議員選挙を控えたこの時期に、自民党区議でつくる会派「杉並区議会自由民主党」は、所属議員12人全員の顔写真が入ったチラシを15万枚つくり新聞折り込みなどで区内に配布した。かかった経費は120万円。12人いる議員がそれぞれ10万円を分担して払った。
問題となったのは、各議員が負担した「10万円」の工面の仕方にあった。12人のうち4人は公費以外のなんらかの費用でまかったが、残る8人は10万円全額を政務活動費で払ったのだ。政務活動費とはいうまでもなく杉並区の公費である。
政務活動費で選挙前のチラシ代10万円を払った自民党議員は次の8人。
1 大熊昌己2 大和田伸
3 吉田愛
4 葉梨俊郎
5 今井洋
6 脇坂達也
7 富本卓(2019年3月末で議員引退)
8 小泉靖男(2017年6月に死去)
(敬称略)
政務活動費は地方自治法100条に規定された地方議員に支給される補助金の一種である。使途は「政務活動」と定義された議員活動に限られ、選挙や政党活動、後援会活動などの政治活動に使ってはならない。もちろん私的な用途にも使えない。
大熊議員をはじめとする8人の議員は、選挙直前のチラシ代を政務活動費で出した理由について「純粋な区政報告である。選挙目的はいっさい含まれていない」(趣旨)と説明してきた。
これに対して「チラシには明らかに選挙目的が含まれている。50%を超えた部分は違法な支出だ」と筆者は疑問を覚えた。そして、区民有志と協力し、違法支出の返還を求める住民訴訟を2016年の6月~7月にかけて東京地裁に起こした。
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選挙前に作成・配布したチラシの経費を政務活動費で支出した際の請求書と領収書(大熊昌己議員分)。大熊議員は立候補中(2019年4月現在)
選挙前に作成・配布したチラシの経費を政務活動費で支出した際の請求書領収書(大和田伸・吉田愛・葉梨俊郎・今井洋・脇坂達也・富本卓各議員分)。富本議員は引退にともなって辞職。立候補中(2019年4月現在)
自民党杉並区議会の議員が政務活動費でチラシを作成・配布したのは選挙の3ヶ月前の2015年1月末。すでに自民党は統一地方選挙に向けて活動を本格化させていた。自民党東京都連の機関紙より。
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読者コメント
文中「大泉時男」氏との記述は「小泉靖男」氏の誤りでした。死去された時期は2017年6月です。現在訂正作業中です。取り急ぎ、この場を借りてお詫びのうえ訂正します。
記者からの追加情報
三宅勝久
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