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「父親の化学物質ばく露が子どもの性別に影響」のエコチル調査 兵庫医科大学・島正之教授に聞く

情報提供
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兵庫医科大学「エコチル調査」兵庫ユニットセンター長・島正之教授
 父親の化学物質へのばく露が、子どもの性比と関連することを示す研究論文が発表された。仕事上で殺虫剤と医療用消毒剤のばく露が多い父親では、男児の子どもが生まれる確率がやや低下し、女児が多くなる、という結果だ。この研究は全国10万組の親子を対象に化学物質のばく露(エコ=環境)と子どもへの影響(チルドレン)を調べる『エコチル調査』の一環で、統計的有意な差がみられた。これまで、子どもへの影響に関しては、母親のばく露だけが重視されてきたが、妊娠前の父親の化学物質のばく露も、子どもの性別と関連があることが分かった点が新しい。今後、子どもを持つ予定の父親諸兄への注意点などについて、調査を実施した兵庫医科大学・島正之教授に解説してもらった。
Digest
  • 全国10万人の親子を追跡するエコチル調査とは
  • 殺虫剤・医療用消毒剤の週一以上の使用で性比に関連が
  • 妊娠前の夫が気を付けること
  • その他の化学物質との関連は?
  • 子どもの発達への影響はこれから
  • 記者解説:父親も無関心ではいられない
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2020年1月22日に兵庫医科大学の島教授の研究室にて取材。

父親の化学物質ばく露が子どもの性別と関連することを示す研究が、環境保健分野で世界的な一流ジャーナルである「the Lancet Planetary Health」に、2019年12月20日、掲載された

兵庫医科大学のホームページにも、研究成果の紹介記事が掲載されている

そこで、兵庫医科大学の島正之教授の研究室にお伺いして、この研究の概要と意義について説明いただいたので、以下報告する。

全国10万人の親子を追跡するエコチル調査とは

――まず、今回、島先生たちが行われた研究の背景について教えてください。

「今回の研究は、環境省が2011年から進めている『子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)』の一環です。「エコロジー」と「チルドレン」を組み合わせて「エコチル調査」と名付けられています。

全国15地域(ユニットセンター)で、妊娠中の女性10万人をリクルートし、赤ちゃんがお母さんのお腹にいる時から13歳になるまで、定期的に健康状態を確認して、さまざまな環境要因が子どもの成長・発達にどのような影響を与えるのかを調べます。私たちは兵庫ユニットセンターで、私がそのセンター長です」

――かなり大規模な調査なのですね。

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エコチル調査とは(環境省HP)
「ええ、全国10万人の親子を13年間追跡するという規模では日本最大規模といえるでしょう。今回の調査の特徴は、母親や父親に化学物質ばく露などに関する質問を行うだけでなく、血液や尿、母乳などを採取し、化学物質の濃度を分析します。

また、生まれた子どもの血液や毛髪なども採取し分析します。化学物質のばく露の実態が、より詳細にわかるわけです」

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エコチル調査の研究課題(環境省HP)
「化学物質のばく露やその他の要因が、子どもへの身体発育と先天異常や、精神神経の発達障害、アレルギーなどの免疫異常、代謝・内分泌系の異常などに影響を及ぼしているかを調べていきます」

――今回の論文以外でも、すでに成果は発表されているのでしょうか?

「エコチル調査では、化学物質との関係をめぐる中心仮説がいくつかあって、その中には、血液や尿など生体試料の分析結果を使ったものと、質問票への回答をもとに分析したものがあります。生体試料の分析は、いろんな化学物質を分析する予定なのですが、まだ測定が終了したものは重金属と一部の化学物質に限られます。重金属のばく露については、出生時の体格や、早産と関連する結果が発表されています。

また、質問票を用いた結果もいくつか出てきていて、妊娠中の自宅内装工事が、子どもの先天性形態異常と関連していること、などが発表されています。今回の我々の論文もその一つにあたります」

――それぞれの研究者がどの仮説を検証するかは、どうやって決めているのですか?

「全国の各ユニットセンターから、こういう研究をしたいというテーマが申請され、それらをコアセンターで調整をして、採択されると、データが固定されてから1年以内に解析をして論文発表する優先権が与えられます。その間に結果が出せればいいんですが、出せなかったら優先権は消失して自由化され、早いもの勝ちになります」

殺虫剤・医療用消毒剤の週一以上の使用で性比に関連が

――今回、父親の化学物質ばく露と子どもの性比との関連に注目されたわけは。

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日本の厚労省人口動態統計による出生性比の変化 環境省「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)仮説集」より
「子どもが生まれた時の性比については、そもそも、世界的にみても男の子の方が5%~10%くらい多いんですが、近年の傾向として、日本を含めた先進国で、男の子の割合が減少してきています。

また、ダイオキシンや水銀がその原因として考えられる、という論文も出されています。

今回、エコチルの10万人という大規模なデータを使って検討する価値があるということです。生まれる子どもの性を決めるのは男性側の精子の影響だと考えられますので、父親側の化学物質のばく露との関連を見ようとしました」

――その結果、関連が見られたわけですね。

「全体の規模は10万人ですが、その中で父親の協力を得られたのは半分の約5万人でした。殺虫剤、医療用消毒薬、水銀、放射線など23種類について、パートナーの妊娠が判明するまでの3か月間に、父親が仕事中にばく露した頻度を回答してもらいました。

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研究結果のグラフ。兵庫医科大学ホームページの記事より

仕事で殺虫剤を使用することがない父親(42,185名)のパートナーから生まれた子どもの男児の割合は51.1%でしたが、月に1~3回使用する父親(4,551名)では50.7%、週1回以上使用する父親(659名)では44.5%と、使用頻度が高くなるほど男児の割合が低い、という結果でした。

医療用消毒剤についても、週1回以上使用する父親(2,428名)のパートナーから生まれた子どもの男児の割合は48.9%であり、使用することがない父親(43,214名)の51.1%よりも低くなっていました。

さらに、父親の職業分類、両親の年齢、飲酒歴、喫煙歴、社会経済状態について統計学的に調整したところ

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