パワハラで精神不安定になった新人警察官への拳銃貸与は違法 横浜地裁が神奈川県に5400万円支払い命令
横浜地裁の勝訴判決後、元神奈川県警巡査の故古関耕成さん(享年25)の遺影とともに記者会見に臨む両親(2022年7月29日、横浜市内) |
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全面勝訴に涙する遺族
7月29日午後3時、横浜地裁503号法廷に小西洋裁判長の張りのある声が響く。
「主文。一、被告(神奈川県)は原告(亡くなった警察官の父親)に対し、2757万4497円及びこれに対する平成28年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え…」
弁護団(笹山尚人弁護団長)の後ろで原告席に座る父親(69歳)は微動だにせず宙を見つめている。その隣で同じく原告の母親(62歳)が体を震わせながら嗚咽を漏らす。両親合わせて約5400万円、神奈川県に対して請求した賠償額をすべて認めた。完全勝訴判決である。
「泉署の拳銃の管理責任者が、耕成の生命及び健康等の危険が生じるおそれがないことを確認する義務を怠って拳銃を貸与し、自死を引き起こした。安全配慮義務違反にあたる」(趣旨)
主文に続き、判決理由の概要を小川裁判長は口頭で説明、事件に対する関心の強さを伺わせた。
神奈川県警の新人巡査だった息子・耕成さんは、2016年3月12日朝、泉警察署のトイレ内で、拳銃で自分を撃ち、自死した。25歳だった。県警に採用されて1年、警察官として働くようになって7ヶ月だった。
生前、耕成さんは家族に上司や先輩のパワーハラスメントを疑わせる話をしていた。事件から2年後の2018年3月、遺族は神奈川県を相手どった国家賠償請求訴訟を起こす。ところが被告・神奈川県は、一貫して責任を否定。4年以上にわたって全面的に争ってきたが、県の主張は完全に退けられた。
(亡くなった)耕成さんにどう報告したいか――判決後の記者会見で記者からそう問われ、両親はそれぞれ静かな口調で次のように答えた。
「親にも話せなかったつらいことが、少しはこうして表に出て…私たち家族が寄り添ってあげられるかなと…わが子に伝えたいと思います」(母親)
「提訴のときの記者会見で、私は息子の名誉を取り戻してやりたい、と言った。いままさにこういう判決をいただいて、少し息子の名誉がむくわれたのかなと。感じるのは息子の執念です」(父親)
新人巡査が命をかけて勝ち取った名誉、父親の言葉どおり「執念の勝訴」だった。
神奈川県警本部。横浜地裁が和解勧告をしたが、和解に応じなかった。 |
新人いじめの「体育会」文化
遺族の証言や訴訟記録によれば、事件の経緯は以下のとおりである。
耕成さんは大学の法学部を卒業後、いったん民間企業に就職。その後2015年3月に神奈川県警の警察官に、転職した。「警察官A」(ノンキャリアの大卒枠=地方公務員)の試験を受けて合格、採用となった。両親によれば、「法律を勉強したので、そういう道(司法関係)をやってみたい」と話していたという。自分で選んだやりたい道ならいいじゃないか、と両親は背中を押した。よもやパワハラの横行する腐敗した組織だとは、当時は想像だにしていなかった。
採用後はまず警察学校に入校し、
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古関元巡査の勤務地のひとつである交番。先輩巡査長から「お前が嫌いだ」などと暴言を浴びせられ、2人組で仕事をするはずが、交番にひとり置き去りにされた。「落ち込んだ様子」が別の警察官によって目撃されている。
勝訴判決を受けて記者会見に臨む弁護団(2022年7月29日、横浜市。右が笹山尚人弁護団長)。
古関耕成さんが拳銃を使って自死した神奈川県警泉署。精神不安定が原因で5日間の休みをとり、復帰後、なんら心身の調子を確認することなく拳銃を貸与、その直後に自死した。
退勤する泉警察署員。
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警察官は謎の拳銃自殺事件が本当に多い。そしてその追跡取材も圧倒的に少ない。これからの警察官への不当なパワーハラスメントが減る事を祈っている。
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