花王ブローネヘアマニキュア損害賠償裁判 記者クラブへの便宜供与、“一般の人”は受けられず
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9月11日に奈良地裁を訪れた。 |
- Digest
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- 花王を相手に闘っている人がいた
- 奈良地裁に電話で問い合わせ
- 花王「ブローネヘアマニキュア」裁判傍聴へ
- 記者クラブにだけ便宜供与をする
- 閲覧申請用紙に記入
- いざ、裁判を傍聴
- 当日、裁判所に行かないと何が起きているか分からない
- 閲覧で、ひたすらメモること2時間半
- 画像も、録音もダメ
- 裁判所ごとに基準が違う?
花王を相手に闘っている人がいた
先月、ネットサーフィンをしていたら、以下のような『毎日新聞』の記事を見つけた。〈毛髪着色料を使用した直後に、頭髪がほとんど抜け落ちたとして、奈良市の50代の男性会社員が21日までに、製造元の「花王」(東京都中央区)を相手取り、治療費や慰謝料など計約440万円の支払いを求める損害賠償訴訟を奈良地裁に起こした。
訴状などによると、会社員は04年秋、白髪を染めるため、同社の製品「ブローネヘアマニキュア」を初めて使用。昨年2月中旬ごろに再び使ったところ、翌日に顔全体がはれ上がり、約1カ月後に頭髪が脱毛してほとんどなくなり、まゆ毛も抜けて薄くなった。頭髪はその後生えつつあるが、元の状態には戻っていないという。
原告側は「皮膚科の医師は頭皮に毛髪着色料による皮膚炎を生じたと診断している。 症状が出る直前に会社員が使ったのはこの製品だけ。外箱には危険性に関する指示・警告も記載されていなかった」と主張。これに対し、花王広報部は「因果関係がないという立証も含め、裁判で明らかにしたい」とコメントした。〉
東京地区では2006年04月21日の夕刊に小さく掲載されただけなので、眼にした人は少ないだろう(大阪では朝刊)。他の主要新聞は「スポーツニッポン」を除き、すべて掲載しなかった。花王は日本で第4位の広告宣伝費を投じる巨大スポンサーなので書けない事情もある。
あの花王を相手に裁判で闘っている人がいたとは・・・。どういった裁判なのかくわしいことを知りたくなった。
奈良地裁に電話で問い合わせ
奈良地方裁判所に電話をしてみた。民事担当の書記官に電話をまわされた。
--4月に花王を訴えた記事を読んだんですが、次回の裁判はいつですか?
「事件番号わかりますか?」
--そういうのはわかりません。
「ちょっと待ってください」と言われ、保留のまま電話口で待つこと数分。
「原告が○×さんの裁判ですね」と、原告の名前が出てきた。(○×さんと言うんだ!)
裁判の事件番号は「18(ワ)165号」。今後はこの番号で問い合わせをすればいいとのこと。次回の裁判期日は9月11日(月)13:10~で、4回目だと教えてもらった。
--すみません。訴状とか裁判資料を見たいんです。それで、わたし東京からなんですが、そちらに行かないと資料は見れないですか?
「そうですね。こちらに来ていただかないと難しいですね」
奈良地裁に行き、収入印紙150円を払うと裁判資料を見ることができる、と教えてもらった。東京で手軽に見ることはできないようだ。
--原告側の弁護士さんのお名前、教えていただけませんか?
代理人は、奈良の弁護士で川崎祥記さんだ、と教えてもらった。
奈良地裁だからだろうか。丁寧な対応だ、と思った。
花王「ブローネヘアマニキュア」裁判傍聴へ
9月11日、奈良地裁に出向いた。1Fの受付で、法廷は203号だと教えてもらった。13時10分まで1時間近くあったので、裁判資料を先に見せてもらおうと、2Fの民事書記官室に行き、窓口近くにいた女性に聞いてみた。
--裁判資料を見たいんですが・・・。
「どの裁判ですか?」
--今日これからの裁判で、事件番号が18(ワ)165号なんですが、コピーできますか?
「コピー? それはできません」
--150円払ったら、見れると聞いたんですけど。
「持ち出しはできません」
--なんでですか?
「一般の方ですか?」
--一般ってなんですか?
「(原告と被告と)利害関係はありませんか?」
(そんな利害関係なんてあるわけないじゃない。たとえあってもそんなの関係ないと思うのだが、へんな質問をしてくるものだ。)
--利害関係? そんなのありませんよ。記事を書こうとは思っているんですけど、まだどうするかわかりません。
記者クラブにだけ便宜供与をする
「お名刺いただけますか?」
--なんでですか?(そんな「一般の人」で名刺を持っている人も少ないだろうに)
「規則でそうなっています」
--規則なんですか。
名刺を渡すかどうしようか、ちょっと迷いつつ、メディアとはぜんぜん関係ない名刺を手渡した。
「ちょっと外のいすでかけて、お待ちください」
部屋の外の長いすに座っていたら、裁判資料のファイルと六法全書を抱えた、今度は男性の担当者が、「山中さん?」と声をかけてきた。
「閲覧はできますが、コピーはできません」と言って、六法全書を開いて該当個所を指しながら、その理由の説明をはじめた。
--でも、新聞記者には(コピー)渡しているじゃないですか。記者クラブには出していますよね。
「要請があれば、便宜供与で」
--要請があれば、すべて出すんですか?
「判決文は出していますが、訴状はあまり出さないですね」
テレビのニュースで「警視庁記者クラブからです」と言っているのをよく聞く。長野県知事だった田中康夫氏が「脱・記者クラブ宣言」を2001年に発表し、記者室を閉鎖してプレスセンターを設置したとき、「記者クラブ」問題がかなり話題になった。
インターネットメディアとして初めてライブドアが2005年3月、気象庁記者クラブに加盟を申請したが、堀江貴文前社長が証券取引法違反で起訴されたことを理由に、申請は却下された。
「記者クラブ」なんて(さっきわたしに最初に聞いてきたような)「一般の人」に言われてもピンとこないのではないか。まして「便宜供与」なんて四字熟語を言われて、すぐに飲み込める人がどれくらいいるだろうか。
閲覧申請用紙に記入
新聞記事にしても、記者クラブでの記者会見の内容、「便宜供与」で出された資料に基づくものが多いことを知っている新聞購読者も少ないはず。新聞を横並びに比較することはなかったが、インターネットのYahooをはじめとしたニュースを見ると、配信されている新聞記事は似たり寄ったりの内容が多いことに気づく。これも、足で取材をせず、記者クラブからの発表モノだから。だから、新聞は読まれなくなっているのだ。
(記者クラブから要請があって判決文を出しても、ビックスポンサーの花王に都合が悪いことなんて大手マスコミは書くのかしら。いや、それ以前に、この裁判について判決文の要請すらしないかもしれない。)
閲覧申請用紙に名前と住所を書くように言われたので、記入した。
「はんこがここに必要なんですけど」
--はんこなんて、いつも持っていないですよ。
「だったらそこはいいです」
日時、名前、住所を書いた。あとは、売店で150円の収入印紙を買ってくれば、閲覧できる。
--13時10分から裁判で、いまから見ていても途中で抜けて裁判の傍聴に行くことになるんですが、その後、裁判が終わってから引き続き見てもいいですか?
「だったら(裁判が)終わってから来てください」
--メモとかはしてもいいんですよね。
「ええ」
わたしが見たのは『毎日新聞』の記事だった。書記官の話だと、記者クラブから訴状は要請していないようだ。奈良地裁の総合受付で聞いてみた。
--記者クラブはどこにありますか?
「(奈良には)司法記者クラブはないですね。県庁に記者クラブはありますよ」
いざ、裁判を傍聴
13時10分、別の裁判後、花王への損害賠償の裁判がはじまった。原告側の弁護士はふたり。花王側の弁護士はひとり。花王代理人(弁護士)が、「反論させてもらいたい」と発言した。また、裁判官が原告の弁護人に「アレルギー体質の中身を明らかにする必要があるか」と聞いていた。
花王の弁護士には、「ヘアマニキュアはどれくらい売れているか?」「(ほかの人にも)症状が出てくることがどれくらいあったのか」と聞いていた。花王側は、「販売の公表は、企業秘密もあるかもしれないので、検討する」と答え、症状についても、「難しいが検討する」と言っていた。
10分もかからず終了。次回は11月6日(月)13:10~。10月23日までに書類を提出するようだ。
『毎日新聞』の記事を読んだだけのわたしには、この裁判でのやりとりでは何が起きているのか、まったくわからなかった。
傍聴が終わった後、原告の弁護士に声をかけた。あらかじめ裁判に傍聴に行くこと、その折りに挨拶をしたい、と先週伝えていた。
--ここ(奈良地裁)にこないと裁判資料も見れないし、傍聴聞いていても、どういった経緯なのかわからないです。さっき書記官の人に、判決文などのコピーを記者クラブに出すのは「便宜供与」だと言われたんですね。わたしは記者クラブに入れるわけではないし、この先は会員限定です。
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閲覧でひたすらメモしたノート
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読者コメント
私もブローネヘアマニキュアを使用し、液が肌についてしまい何ヶ月もたちますが液が消えませんでした。花王の消費者センターに問い合わせしても、そんなことはありえないので・・と最初から私が嘘をいってるかのような対応でした。
大企業相手だと結局、被害の事例が少なければ泣き寝入りするしかないんですよね。医者も診断書すら責任逃れで書いてくれませんでした・・
養毛剤じゃないけどいいもの知ってます産毛が生えてきましたふさふさも夢じゃないかも・・・これから楽しみでー!もち、安全性は証明されてます。
石鹸はドンキで買った香料の入ってない安いものです。薬はリアップ。スカスカだった生え際から濃い産毛が生えてきました。石鹸はよく泡立てて使うのをお勧めします。
んがっさん何処の石鹸と何処の養毛剤ですか?詳しく教えて下さい。お願いします。
先週、花王のブローネヘアマニキュアを使って白髪を染めたところ、翌日から頭痛がひどくて困っています。今まで頭痛の経験が無く 原因が判りませんでしたが 前日のヘアマニキュアしか思い当たりません。検索でこのHPを知り記事を見てびっくりしました。これから病院に行って診察して貰います。
最近石鹸で洗髪して、養毛剤を塗り始めました。正直恐ろしいほど毛が増えてきました。20年で2cm後退した生え際がどこまで回復するか楽しみです。
好きで裁判をする人はいないと思う。当然だけど。被害者になんてなりたくないし、その現実を受け入れるだけでも大変なことではないでしょうか。誰一人切り捨てられる人はいて欲しくないし、不幸にも被害が起こったのなら、一刻も早く、せめてもの回復が図られて欲しいです。この男性がこれから何年裁判を闘って、更に勝てるのかなんて考えたら、本当にお気の毒。他人事にはしない世論があって欲しいですね。。。
PL法の範疇だと思いますが、被害者が多数出れば別ですが、こういった特異なケースでは「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いている」という観点からすると、なかなか難しいですね(私が被害者でも)。メーカー側も一般論的な事(安全性)しか言えないし、正直科学的な因果関係は、分からないケースがほとんどではないかと。
花王ではないのですがラックスを使っていて、頭の髪が薄くなっています。損害賠償はいくら請求できるでしょうか?
大事件でもない限り、提訴或いは判決結果だけをメディアは取り上げがちですが、判決結果も報道頂ければと思います。以上、記事の焦点から少し外れて、私の経験談を連続して述べさせて頂きまして恐縮です。ところで、山中さんは、食料品や化粧品の安全性を得意とされているようですが、健康全般を取扱われたら如何でしょうか? ニュースではなく企画ものになってしまいそうですが、健康に関するニュースも良いのでは?と思います。
裁判所は、敢えてそれを見逃しているような状況です。日本の賠償額は最低限ですので、それだけの相当な手間や時間、お金を掛けるだけのメリットは得られない場合がほとんどではないかと思います。司法制度改革が行われますが、市民の常識を反映させるべく、裁判員制を導入するのは一部の凶悪な刑事事件に限られ、民事の改善は手付かずで、問題点が改善されたとは言えず、まだまだ残っています。
正義が勝つとは限らない。と指摘されるように、証拠主義や裁判官の自由心象主義が採用されており、結果、強者に都合の良い仕組みが出来ています。素人では勝てず、法曹関係者らのゲームと化している面も感じます。青色発光ダイオードを開発した元日亜化学工業研究者で現カルフォルニア大学教授の方も、「個人では、絶対に企業に勝てない仕組みになっている。」と憤っておられました。
市民に近い地裁ではある程度勝てても、被告企業は必ず控訴してきます。上級裁になる程、権力寄りの傾向があり、上訴審で覆されるパターンが多く見られます。結果、地裁の判決は意味を持ちません。最高裁への上訴に至っては、憲法違反があった場合に限られ、ごく一部を除いて、上訴自体を却下します。法改正により、事実上、三審制ではなく二審制に変わりました。
民事事件の裁判は、原告側に立証責任があり、裁判所が争点に関わる事実関係を調査し確認してくれる訳ではありません。被告側は、通常、都合の悪い点を偽証したり認めなかったりしますが、いかなる民事事件であっても、警察も民事不介入の立場を取る為、原則的に調査には協力してくれません。偽証があった場合でも、刑法違反に該当しますが及び腰で対応しようとしません。別途、弁護士に依頼し検察に告訴する必要あります。
しかし、この裁判は、原告側が因果関係を立証するのは難しいでしょうし、被告側が躍起になって実験結果等を基に化学理論的に反論してくることは間違いないので、原告側が勝つのは難しいかもしれませんね。診断書は得られても、それ以上、花王を相手に協力してやろうという専門家がいるかどうかは疑問です。
裁判所は審理中でも自由に出入りできます。扉にも覗き小窓があり、中の様子が判ります。物音を立てず、裁判官に軽く会釈したのち着席し傍聴できます 再犯・愚犯相手の裁判官は かなり嫌気がさしている様子がありありとして、語気を強め諫めることが多いですね。勉強になるのは詐欺罪、。しかしサラ金の取立て審議室が、一昨年の3倍になっているのには驚いた。
裁判所に行くと、社会で起きている事件を身近に肌身を持って知ることが出来ますよね。裁判の傍聴は、無料で誰でも受け付けてくれますので、一度は見に行かれると良い経験になると思います。記事に書かれてあるのは、恐らく争点を整理する為の準備手続きと呼ばれるもので、通常、書面の交換をしてすぐに終わります。傍聴されるなら、証人尋問(証拠調べ)の方が適当でしょうね。
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