最新のCMでは、「日本人間ドッグ学会推薦」「厚生労働省認可のトクホ」をアピール
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発ガン促進作用の疑いがあるエコナ。「安全性は試験で確認している」と花王は主張するが、肝心の花王自身による研究結果も、グレーであることが分かった。この研究結果は、食品安全委員会でも「閲覧は可能だがコピーはダメ」という奇妙な扱いになっている。
花王にデータ公開を要求したところ「出せない」の一本やり。他所の研究には「まだ中間発表」と文句を付け、自社研究は公開せず、それで「安全と信じよ」と言う花王に、情報公開を迫った。
【Digest】
◇結論と食い違う、実際の実験データ
◇そもそも差が出にくい実験条件
◇閲覧はいいがコピーはダメ
◇記事にするなら事前に報告してほしい?
◇国には提出したが、消費者には出せない
◇出せない理由は、勝手に解釈してくれ
◇論文化は、いつになるか分からない
◇情報は出さないが、正確に報道しろ
◇勝手に記事にすれば良い
◇結論と食い違う、実際の実験データ
現在、エコナの発ガン促進作用を調べた試験は、3件ある。うち2つは国立がんセンター研究所が2005年に公表した、舌ガンと大腸ガンの試験で、舌ガンの試験で発ガン促進の疑いが出て再調査中であることは、前回、報告したとおりだ。
その同時期(2004年1月から2005年1月)に、花王は独自に民間の「DIMS医科学研究所」という発ガン試験の専門会社に委託して、発ガン促進作用を確認するための試験を行なっている。
この試験報告書は、食品安全委員会に提出され、「ジアシルグリセロール(DAG エコナの主成分)の安全性資料」の添付資料となっている。
しかし報告書の全文は委員会のメンバーのみに配布されただけで、傍聴した我々には様々な試験結果を要約した一覧表だけしか配布されなかった。その一覧表の説明では、エコナの主成分であるDAGで発ガン促進作用はなかった、と書いてある。(注1)
注1、「DAG投与に起因すると考えられる腫瘍発生の増加はみられず、DAGは全身諸器官への発ガン修飾作用を有さないことが示された。DAGの発ガン修飾作用を検討した結果、TG(トリアシルグリセロール 普通の食用油の主成分 注著者)群との比較において、DAGによる発ガン促進作用は無いと判断した。」(発ガン修飾作用とは発ガン促進作用と同じ)
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しかし、筆者が入手したその報告書の試験データでは、腎臓や膀胱などの一部の腫瘍が、エコナの主成分であるDAGを投与したグループで増えているのだ。
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発ガン2段階モデル(出典:「発ガンとがん細胞」黒木登志夫編 ガンのバイオサイエンス3 東京大学出版会1991)
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このデータを理解するために、まず発ガンの仕組みと試験方法について簡単に説明させていただきたい。
ガンの発生には2段階あると考えられている(右記参照)。
まず普通の細胞の遺伝子が傷つき突然変異が起きてガン細胞に変わる段階。そこに作用するのが「発ガンイニシエーター」と呼ばれる物質だ。
2段階目は体内でできたガン細胞が、腫瘍に増殖する段階だ。そこでガン細胞の増殖を助けるのが「発ガンプロモーター(促進させるもの)」という物質。今回のエコナのDAGは、発ガンプロモーター作用が疑われているのだ。
発ガンプロモーターの働きを確認するための試験では、まず発ガンイニシエーターの化学物質をラットに投与することで、ガンの芽を造る。その後、発ガンプロモーターと疑われる物質(今回はエコナの主成分のDAG)を投与する。また比較のため別のグループには、普通の油であるTGを投与して、DAGを投与したラットがどれくらい腫瘍が多くできるかを比較するわけだ。
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花王が委託したDAGの中期多臓器発がん試験(2005)データの一部。
著者作成
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図2をごらんいただきたい。筆者が入手したその報告書の試験データの一部だ。
この試験では、餌に含まれるDAGの濃度を変えて低用量、中用量、高用量の3つに分けている。まず大腸で、結節(ガンの前段階と考えられる小さな粒状の隆起のこと)が発生した個体数を比べると、対照群であるTGを与えたグループで19匹中12匹なのに対して、エコナのDAG低用量と中用量で19匹。この差は統計的有意な差になっている。
(※「統計的有意差」とは、もし同じ実験を100回繰り返したら95回(もしくは99回)は差が出ると判断されるほどの差があるという意味。偶然による差ではないと判断される)
腎臓では、ガンの一種である腎芽細胞種で、TAG群が19匹中12匹なのに対して、DAG低用量、高用量で20匹中19匹。また膀胱の尿路にできる移行上皮ガンでもTAG群が0匹なのに対してDAG低用量で5匹、高用量6匹と有意差が出ている。
ただ、DAGの用量が増えるほどガンが増えるといった関連性がはっきり現れていないので、このデータだけで、DAGが原因と結論は下せない。しかしこのデータで安全性を証明できていないことは確かだ。
◇そもそも差が出にくい実験条件 食品安全委員会でも指摘
この花王の実験データの問題点については、食品安全委員会のワーキンググループでも指摘されている。
「この17 の実験(この報告書を指す 筆者注)で、イニシエーションをやってからプロモーションを行った実験が報告されておりますが、それにつきましては、一応ネガティブと報告されておりますが、たくさん問題点があると思うんです。例えばDAG が0% のときに、インシデンスが例えば70% とか60% あって、それに更にプロモーション効果を見るとすると、20 匹使った動物の全例に出ないと有意差が出ないという実験条件でやっております。
例えば大腸などはそうですし、腎芽細胞腫の場合も、ほぼそれに近いように、そういう条件下で行われた実験です。しかもコントロールが事故で1 匹死んでおりまして、有意差が非常に出にくい条件になっているのです。そういう条件で出ないという結果が出ていることに十分留意して、評価しなくてはいけないと思います。」(2005年11月2日の食品安全委員会新開発食品・添加物専門調査会合同ワーキンググループ第1 回会合での長尾美奈子専門委員の発言)
また、同じ会合で池上幸江委員も「この中ではやはりDAGがそれなりに線腫とか甲状腺ろ胞線腫で有意なデータが出ているんです。(中略)使われた匹数の問題とか、いろいろ考えると、これはもう一度厳密に精査する必要があるのではないかというのが私の1点目の意見です。この実験データだけから、がんに関して問題がないという結論を出していいのかどうかというところに私自身は疑義を感じました」とコメントしている。
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長尾委員の指摘は実験条件の問題だ。比較する対照である普通の油(TAG)を投与した群で、すでにガンやその前症状が多数発生しているのだ。これではエコナのDAGの群で増えても統計的に有意な差が出にくい。つまり、できるだけエコナは危険だという結論が出にくい実験条件になっているのだ。
さらにこの試験でおもしろいのは、高リノレン酸、高オレイン酸、中鎖脂肪酸など他の油も一緒に試験している点だ。発ガン促進作用が指摘されていないこれらの油でも、なぜか腫瘍が増えている。
それが何を意味しているのかは、今のところ不明だ。可能性は二つある。他の油も危険性があるということなのか、それとも安全な油でも片っ端からガンを起こしてしまう、いいかげんな試験だということなのか。
花王は頼まれもしないのに、何故、他の油も試験しているのか?「エコナが問題にされるとすれば、他社の製品も道連れだ」という花王の殺気も感じられるデータだ。しかし少なくともエコナは、「健康に良い」という宣伝が許可されている、特定保健用食品(トクホ)。他の油は、中鎖脂肪酸以外はトクホではない。
このデータから我々が判断できることは、少なくとも、何か特定の成分を高濃度にしたものには気をつけたほうがいいな、という程度である。これで「安全」といわれても困ってしまう。
◇閲覧はいいがコピーはダメ
このデータを入手するに当たっては、実は別の問題も浮上している。食品安全委員会に行き、データの閲覧を申し込んだところ、閲覧は可能だがコピーや写真撮影などは禁止だ、というのだ。理由を尋ねたところ「著作権の侵害になるから」という。
おかげで、食品安全委員会で約2時間、報告書の中のデータや、めぼしい箇所を、ノートに手書きで書き写した。またそれを再びパソコンに打ち直して表にする作業で2時間。合計4時間の時間をかけてしまった。とても全文は書き写せなかった。
しかし、なぜコピーができないのだろうか?食品安全委員会にすでに提出されているデータについて、我々市民が調べようとしても十分にアクセスできないのは問題ではないのか?少なくとも食品安全委員会は著作権者である花王に対して、一般公開できるように求めてほしいものだ。
とりあえずもっと詳しく調べたいので、花王からコピーをもらおうと、再度、花王のお客様相談センターに電話することにした。
そこで7月28日に、前回対応してくれた「消費者相談センター」のフカザワさんに、電話をした。
◇記事にするなら事前に報告してほしい?
--今日お電話したのは、返品についてはデパートの方に問い合わせてくれという話だったですが、やはり返品は受け付けないということでした。それでどうしようかという点が1点です。
もう一点は、「花王は独自の試験で安全性を確認している」と言われたので、私も調べたんですが、花王が研究委託された「DAGの中期多臓器発がん性試験」というのがありますね。食品安全委員会ではコピーはダメと言われました。著作権は花王でお持ちだとおもったので、そのコピーを一部いただけますか?
「その前にご確認させていただきたいのですが。先日マイニュースジャパンというウェブを見たんですが、ここで私たちの対応についての記事を書かれた植田さまですか」
--はい、その記事を書いた植田です。
「そうですか。私どもとしましては、.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
