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警察が死亡者宅から金品盗む事件多発 8百万円盗んでも微罪

死体のわきでカネを盗み風俗店で遊んでも警官なら求刑1年のカラクリ

情報提供
怪しい人がいたら
孤独死した男性宅に臨場した警察官によって現金800万円以上が盗まれる事件が起きた現場(三鷹市)。「あやしい人を見かけたら110番」の看板がむなしい。

今年5月、警視庁三鷹署の地域課・矢吹雄太巡査長(当時26歳)が、通報を受け駆け付けた孤独死宅から800万円もの多額の現金を盗み出す事件が起きた。現場に立ち会っていた親族をわざわざ帰宅させ密室にしたうえで金品を盗み、刑事が捜査を終え引き揚げた後、再び家に侵入し盗みを重ねた。計画的で、警察官の身分を存分に悪用した悪質な事件だが、捜査した警視庁や起訴した東京地検は、通常の横領罪や住居侵入罪に問わず、落とし物をネコババした場合などに適用される占有離脱物横領罪(1年以下の懲役または10万円以下罰金もしくは科料)のみで立件。「懲役1年2月、執行猶予3年」(求刑懲役1年)の大甘判決で幕引きに。3年間ふつうに生活していれば実態として何らの罰も受けず、もちろん罰金も納めなくてよい。刑罰が軽すぎて、類似犯増加のおそれがある。

Digest
  • 記者クラブ記者のいない警察犯罪法廷
  • 地域課で「変死体」取り扱った
  • 2度目の犯行
  • 落とし物盗むのと同じ罪?
  • 大変なことになるとは「考えなかった」
  • 親族に罪をなすりつけようとした?
  • 風俗代に使った
  • 警察庁通達は根絶に役立つのか
  • もみ消された住居侵入罪
  • 「孤独死宅からネコババ」全国で多発

※資料は末尾にてPDFダウンロード可

後述のとおり警察官による同種の犯罪が近年続発中であり、法改正により警察犯罪の厳罰化をはかるなど、根本的対策を取らない限り今後増えるのはまちがいない。警察官が社会を脅かす警察犯罪時代が到来しつつある。

通常の「単純横領」の法定刑は5年以下の懲役、「業務上横領」は同10年以下、「窃盗」は10年以下。だが、警察官が、一人暮らしの世帯主が死亡した場合に金品を奪うと、このいずれにもあたらず、「占有離脱物横領罪」で、法定刑は1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料。警察犯罪に甘い法律構成と解釈だ。業務上の権限で侵入し、死体という無抵抗の人物から生前の所有物を盗み取る行為に窃盗や横領罪、業務上横領罪が適用できるかについては、法律的には議論の余地がある。

水越裁判官は今回、求刑を上回る懲役「1年2月」、執行猶予3年を言い渡した。これは起訴された犯行事実が2件であることから併合罪加重をしたとみられる。別途、住居侵入(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)を2度やっているので、もし同罪で起訴していれば4年6月が最高刑となる。検察の求刑が「1年」だったことからも、警察・検察が身内にだけ甘いことがはっきりわかる事件であった。

記者クラブ記者のいない警察犯罪法廷

大沢交番
犯人の巡査長が勤務していた三鷹警察署地域課大沢交番。孤独死などの変死体案件の現場を10件以上経験していた。

7月26日午前、東京地裁531号法廷で、警視庁三鷹署地域課所属の男性・矢吹雄太巡査長(犯行当時26歳。懲戒免職)の刑事公判が開かれようとしていた。通報を受けて臨場した孤独死の現場から計約800万円を盗んだとして占有離脱物横領罪に問われた事件だ。

傍聴席を見わたしたところ記者らしい姿はない。夏休みを使って裁判所見学に訪れた中学生のグループが興味深そうな表情で開廷を待っている。

矢吹被告は保釈ずみで、一般の傍聴人が使う入口から法廷に入ると被告人席に座った。細身でこざっぱりと刈り上げた頭髪、半袖ワイシャツに黒スラックス、よくみがかれた黒革靴。一見するとごくふつうの今時の若者である。検察官が入廷すると軽く会釈した。矢吹被告にさほど深刻な様子は伺えない。あるいは検事から公判の見通しが楽観的であることを聞かされているのかもしれない。

国士舘大学柔道部出身。国士舘高校から柔道部に所属し、優秀な成績を残している。警察には通称「特練」と呼ばれる武道枠があるが、矢吹巡査長が特練で採用されたのかどうかはわからない。

やがて水越壮夫裁判官が法壇に現れ公判手続きがはじまった。本人確認に続いて、職業、住所を尋ねる。

――住所は?

矢吹 N市在住です。

――仕事は?

矢吹 やってません。

矢吹被告が無職なのは、警視庁を懲戒免職処分になったためである。人定の次は罪状認否だ。検察官が起訴事実を読み上げる。

1、令和5年5月20日、午後5時~7時にかけて、三鷹市内××、A宅において現金を発見し、395万円を持ち去り、横領した。

2、同日午後9時47分ごろ、前記A宅において現金433万円を持ち去り、横領した。

よって、占有を離れた他人の物を横領した。

裁判長が尋ねる。

「いま検察官が読み上げた起訴事実にまちがいはありませんか」

「まちがいないです」

小さな声で矢吹被告は答えた。手続きは淡々と進み、検察官の冒頭陳述と証拠請求に移る。事件の概要が次第に明らかになっていく。

地域課で「変死体」取り扱った

三鷹署
三鷹警察署。変死体現場から金品をネコババする事件は今年度に入って全国各地で続発している。三鷹署員の事件が被害額がもっとも大きいが、警視総監はおろか署長の謝罪記者会見すらない。記者クラブメディアの存在意義が問われている。

矢吹巡査長は大学を卒業した後の2021年に警視庁に入り、三鷹署地域課に配属。地域課では今回の犯行現場に近い大沢交番(三鷹市野崎)を担当した。変死体案件を取り扱うこともあり、その際に刑事課員とともに現金などを確認する業務を経験した。

2023年5月20日午後5時すぎ、交番勤務中だった矢吹巡査長は、変死体発見の一報を受け、現場の民家にひとりで向かう。交番のごく近くだった。到着すると、先に救急隊が来ていた。民家には主(あるじ)の男性Aさんがひとりで暮らしていた。救急隊はAさんの死亡を確認し、引き揚げるところだった。病死とみられた。家の中には通報者の親族がいた。

矢吹巡査長は三鷹署に無線連絡を入れ、刑事課員が来ることになった。30分ほどかかるというのでそれまで現場で待機することにしたが、矢吹巡査長はいっしょにいた通報者の親族に向かってこう指示する。

「いったん帰宅してください」

親族は矢吹巡査長の指示にしたがって帰宅する。家の中は、Aさんの遺体と矢吹巡査長だけになった。

矢吹巡査長は、刑事課員に情報提供する目的で、通帳や銀行カード、現金や貴金属など貴重品を探す作業にとりかかった。ほどなくしてAさんの遺体が横たわっているベッドの近くで黒色のポシェット(小型の鞄)を発見する。中には帯封つきの1万円札がたくさん入っていた。ざっとみて1400万円くらいあった。

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事件現場付近を歩く高齢者。

都内の地下鉄駅構内にはられた警視庁職員の募集案内。犯人の矢吹巡査長は公務員にあこがれて警視庁に入ったという。

事件現場の一戸建て住宅。矢吹巡査長は裏口の鍵が開いていることを知っており、そこから侵入したとみられる。住居侵入罪には問われていない。

警察庁から全国の都道府県警察にあてて発信された通達など。死体取扱い現場には2人以上で行くこと、などと注意を指示しているが、それだけで根絶できるのか不安がある。

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記者からの追加情報

【訂正と追記】文中、事件の発生日に誤りがありました(×5月2日 〇5月20日)。お詫びの上、訂正いたします(本文修正済み)。また、愛知県警一宮署刑事課の小口雄太巡査長(懲戒免職)による遺留品窃盗事件(計94万円の窃盗罪で起訴)で、名古屋地裁(須田健嗣裁判官)は10月24日、小口元巡査長に対して懲役2年執行猶予4年(求刑懲役2年)を言い渡しました。 (10月25日、筆者)

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