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ユナイテッドアローズ 「出戻る社員もいます」〝最賃正社員〟でも人が集まる〝ファッション系やりがい搾取企業〟の魔力と仕掛け

情報提供
掲載用:2本目サムネ本人写真
デキる販売員は、接客するお客さんを見れば『これ好きそうだな』がわかる人だという

令和の日本において、上場大企業が、手取り年収300万円以下という「ほぼ最低賃金」で正社員を3千人超も雇って利益をあげるのは、並大抵のマネジメント力ではできない。年500人規模が辞めていく一方、同数に近い正社員を採用できており、出戻る社員も珍しくないという。ビジネスとして回っている以上、〝やりがい搾取〟と言い切るわけにもいかない。それだけの人たちを惹きつける魅力なり魔力のようなものが、職場にあるということだ。社員にどうやりがいを与え、職場環境をどう整えれば、低賃金でも社員のモチベーションを維持できるのか。社員としては、どういうスキルがあれば満足度高く働けるのか。今年まで4年ほど働いた元社員に、現場目線から見えるアローズの裏側を聞いた。

Digest
  • 「ファンが多いカリスマ店員」がゴール
  • ARIGATOレポート
  • コミュ力、提案力が身につく
  • 必要ないモノも買わせるマシーン接客 VS 顧客第一主義
  • 新卒も中途も専門卒も大卒も「F1」から
  • 競合はビームス、トゥモロー、アーバン、フリークス…
  • 本社配属は1人だけ、まず店舗で4~5年やる
  • 1店舗に正社員10人超を抱える高コスト体質
  • 社内公募「機能していると思う」
  • 「課長を目標にしている人はヘンタイ」の世界
  • 「ユニクロでいいと思います」を言える環境
  • 仕入れは自動化、ディスプレイもマニュアル通り
  • アパレル販売員オワコン論
  • 家庭の事情による短時間勤務は可能
  • 有休はとれる
  • 店舗販売員の1日
  • 女性6割だが店長以上は26%だけ
  • スチューデント・エデュケーター制度で事前解決
  • 「360度評価多面観察」も歯止めに
  • 社内飲食費6千円支給/2ヵ月目標達成

厳しいノルマを課して「泳げない者は沈めばいい」と言ったユニクロ柳井氏に対して、同じアパレル業界のユナイテッドアローズは、もっとリベラルだ。政党にたとえると、ユニクロがタカ派(強硬、武力行使容認)なら、アローズはハト派(穏健、平和主義)で、米国の共和党と民主党くらいの違いがある。

アローズの人事政策をあえて要約するならば、《貧困に耐えられない者は辞めろ、無理強いはしない。社内競争を勝ち抜いて上位3%に入りセールスマスターを目指せ、這い上がってこい》――そんな、マイルドな「虎の穴」型。両社とも離職率は高いが、ブラックな労働環境に耐えるか、貧困に耐えるか、という違いがある。

「ファンが多いカリスマ店員」がゴール

「やりがいを感じるのは、お客さんとの関係が深まって感謝されるとき。ありがとう、という感謝のLINEやメールを貰ったりするときです」(20代元社員、以下同)

保険や車と違って、アパレルは買い物の頻度が多い。毎月ごと、季節ごとに訪れて買ってくれるリピーターが、販売員個人につくのが特徴だ。

感謝されれば、そのお客さんは、リピーターになって、また買ってくれる。会社も儲かる。お客さん、販売員、会社が、WIN-WIN-WINの関係になる。どういう才能とスキルを持っている人なら活躍できるのか。

「沢山のお客さんと個人的に仲良くなって、『ファンが多いカリスマ店員』みたいになるのがゴール。そのためには、お客さんに喜ばれる提案をできなければいけません。こまめに、心をつかむような一言を添えてセールの案内DM(紙)を自宅に送ったり、LINE交換して「〇〇さんに似合いそうなシャツが入りました!」と新作入荷のお知らせを送ったり。買って貰ったら、定型書式にお礼文を添えてハガキを送る。これを、営業時間中の暇なときに作成します。この作業を楽しめる人が向いています」

こうしたマメな気配り力に加え、よい提案をするためには、お客さんを深く理解しなければならない。才能と経験が必要だ。

「デキる販売員の典型的な才能としては、接客するお客さんを見てすぐに、『これ好きそうだな』というのがわかること。あとは、1回顔を見たら忘れない。会話の引き出しが多い。それで、提案した服を買って貰い、次回来店したときに、お客さんから『あの服、褒められたんです~』と言われるような販売員です」

掲載用:セールスマスター制度について(プラチナ1号の明石氏)
セールスマスター初のプラチナ認定者を紹介する『束矢通信』第41巻。束矢=united arrows、である。

このセンスは天性のものもあり、なかなか後天的な訓練だけで身につくものではない。社内で語り継がれたり、研修で共有されるようなエピソードは、こうしたお客さんから褒められました、というものが多いという。プラチナマスター明石氏の同社広報誌記事が典型だ。

結婚式の二次会に着ていく服をどうしようか迷っていたお客様にコーディネートのご提案をしました。しばらくしてから、二次会で出会った方と服装をきっかけに会話が弾んでお付き合いが始まり結婚することになったと、そのお客様がわざわざご来店くださったのです。思いを込めてお薦めしたものは、お客様の生活の中で多かれ少なかれお役に立つことができるのだと思います。

自己満足のセンスではなく、お客さんが自分でも気づいていない「本当に似合う服装」を、提案できるスキル。そして、似合うだけでなく、お客さんが「好きな服装」も理解するスキルだ。

似合っているかは別として、まずは「好きな服装」でないと買ってくれないから、会話のなかで、コミュニケーションをとって調整していく。もちろん、人間どうしなので、相性もある。こうした、好きなファッションを見抜く力、似合うファッションを提案する力、マメなコミュニケーション力、人当たりのよさ…参入障壁は低いものの、プロとしてダントツの成果を挙げるには、なかなか高度なスキルが必要で、難易度が高い仕事なのである。

ARIGATOレポート

制度としては、社内で、顧客対応のよいこと・悪いことに、しっかり対峙することで成長を促す仕組みがある。このあたりは、上場企業としてのガバナンスがきいている。

「ARIGATOレポート」=自分がお客さんから褒められたこと、LINEのメッセージやインスタ上でのやりとりなどを、上長に報告すると、社員で共有される。

「たとえば、スーツを買いに来たお客さんがいて、1点しか在庫がなく、ほつれがあったとき。お客さんは『明日、着たい』と言う場合は、『こちらの不備が原因なので、すぐに他店から取り寄せて、今日中に、おうちまでお持ちします』と言って、自宅にお届けにあがった。その結果、お客さんから感謝のお手紙を貰った——といったものです」

これが、美談として共有されるカルチャー。お客様第一主義だから、こちら側の問題でお客さんに迷惑をかけてはいけない。これは、ユニクロではまずありえない行動である。

「不満足クレーム対応」=顧客からのクレームを、カスタマーサービスデスク(メール・電話)で受けつけると、店長が対処する。

掲載用:クレーム対応
顧客第一主義の名に恥じず、クレームにはきっちり対応。

「たとえば、

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ユナイテッドアローズの現場組織

「令和のカリスマ店員」を決めるイベント『STAFFOFTHEYEAR2023』で、全国8万人の頂点に立ったユナイテッドアローズ新宿店の仲希望氏

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