ソフトバンクショップ社員・山本裕二(仮名)氏の名刺
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私は、携帯電話の誇大広告問題でいま大混乱の渦中にあるソフトバンクショップの社員だ。番号継続制度「MNP」が解禁された10月下旬から、「通話料0円!」「メール代0円!」といった広告表示が問題視され、公取も法的措置に向けて動き始めた。現場では、お客様から「詐欺ではないか?」「無料ではないよね?」と聞かれ、「お客様を欺いてしまったのでは」と思いながら売り場に立ち続けている。
問題は「他社より安い」と錯覚させる商法だけではない。新情報システムや商品についての一方的通達、研修なし、そして予測できたシステムダウン。店員は非常識な客集めで疲弊しきっている。
【Digest】
◇非常識な商法はソフトバンクの企業体質
◇はずし忘れれば「毎月5,000~1万円弱」プラス
◇販売実績ないのに「本来なら月9,600円」
◇免許証情報をデータ化する「ジニー」の不安
◇顧客情報登録を「ぶっつけ本番でやれ!」
◇ボーダフォン時代は新システム研修があったのに
◇身内ソフトバンクに手足をもがれた
◇システムダウンの本当の原因は家族回線解除手続き
◇昼間に登録、完了したのは夕方
◇マスコミ報道で露呈した事実は何もない
◇スタッフも理解していないケータイ本体の割賦契約
◇「問い合わせは全てお客様センターに回せ」
◇わたしたちは「孫正義」の奴隷なのか?
◇集団訴訟が起きれば証言台に立つ
◇非常識な商法はソフトバンクの企業体質
通信業界に身を置いて今年で10年ほどになる。
現在の私は、ソフトバンクや旧ボーダフォンとは資本関係がない別会社(代理店契約を結んでいる企業)が経営する会社の社員である。1販売スタッフとして働いている「ソフトバンクショップ」では、その前身のボーダフォン時代からの在籍組になる。
接客と販売が与えられた私の仕事で、具体的には、機種変更や情報変更、在庫の管理、お客様への説明というのが日々の業務である。
今回の混乱で、毎日2時間程度の残業が続き、レジのお金の精算、売上日報を作成する業務などを入れると夜10時くらいまで勤務している。休憩もなく、食事も取れないこともあったが、ここ数日は、落ち着いてきている。
私が今回、この場を借りて、内部告発という形でソフトバンクの内情と企業体質を世の中に告発することを決心したのは、「ソフトバンクの非常識な客集めの手法が社会的に問題視され、マスコミの記事でこんな騒ぎになったから」ではない。
非常識な客集めの手法を含めたソフトバンクのあざとい商法は、今回問題視される以前から、私たちショップの現場で不安やストレスの原因になっていた。その企業体質がもたらす社会的弊害は、もはや内側からの告発でしか是正されないと判断したからだ。
意外だと思われるかもしれないが、ソフトバンクという会社の方針とやり方に対して最も腹に据えかねているのは、私たち現場のスタッフだ。
お客様に、「¥0」の説明をきちんとしても、「詐欺ではないですか?」「無料ではないですよね?」「今日から0円ですよね?」と言われ、私の中では「お客様を欺いてしまったのでは……」「何と申し訳ないことをしてしまったのか……」との非常に強い葛藤があった。
当然、帰られたお客様も多くいた。
法と道義を踏み外した商行為に自分がこのまま加担し続けることは、あまりにも人の道に反することではないかと随分悩んだ末、一連の報道の真偽と、未だ隠された事実について、当事者の片割れである自分自身がまず明らかにしなければならないと思ったのである。
◇はずし忘れれば「毎月5,000~1万円弱」プラス
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「新料金体系セールストーク」マニュアル~ゴールドプラン獲得の4大キラートーク。マニュアルのなかでさえ、不利な前提条件は欄外に小さく記されている。店員をも欺こうとしているのか!? |
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まず、あまりにも酷いと感じたのは、「¥0」と宣伝している画像と実際の料金プランとのギャップである。
私が勤めるソフトバンクショップでプランを選ぶ際のお客様の選択肢には、「予想外割」として今回発表した「ゴールドプラン」、auの基本使用料を真似て200円安くした「オレンジプラン」、ドコモの基本使用料を真似て200円安くした「ブループラン」と大きく3つのプランがある。
それぞれに「スーパーボーナス」という携帯本体料金の割賦がセットになっている。
今回の目玉「ゴールドプラン」の「予想外割」とは、「通話料0円!」「メール代0円!」「月額基本使用料70%オフ」というサービスだ。
これは、来年(2007年)1月15日までのキャンペーン期間中に「ゴールドプラン」で契約すれば、来年1月16日以降に入って毎年減っていく「割引率」を一挙に11年目の割引率70%に「飛び級」できるため、本来なら月9,600円の基本使用料が月2,880円になるというものだ。
キャンペーン期間中の「スーパーボーナス」には、「携帯本体の最新機種最大1万500円オフ」や「基本料2ヶ月無料」とは別に、メールやWEBの「a.パケットし放題」、修理補償の「b.スーパー安心パック」、留守電・キャッチホンなどの「c.スーパー便利パック」が、「a.最大2ヶ月」「b.最大3ヶ月」「c.最大4ヶ月」と、それぞれ「無料」になっている。
この戦術は別に法に違反してはいないが、これらは期限がきたら自分で解除しなければならない。うっかりはずし忘れるとすぐに「毎月5,000~1万円弱」の請求書が届くことになる。
◇販売実績ないのに「本来なら月9,600円」
誇大広告ではないかと問題になったのは「通話料0円!」「メール代0円!」という広告表示が実態とは異なるため消費者の誤解を招くという点だ。
実際には、いずれの「0円」もソフトバンクの携帯電話同士を前提としているのに、広告表示ではその前提条件がわかりにくかったため、景品表示法上の「有利誤認」に該当すると指摘されたのである。
また、21時~24時59分までの使用が200分を超えた場合、超過分は有料とすることに関する表示についても不十分だと指摘されている。
さらに、販売実績もないのに「本来なら月9,600円」という表現で割引セールスを展開している点も問題視されてよいと思う。
パンフレットをよく見れば気づくと思うが、「ゴールドプランの1年目の割引率は37%」と記入されている。ゴールドプランはスーパーボーナス契約が必須条件だ。来年1月16日以降に加入した人は9,600円の37%引きで6,048円になる。
それでは9,600円という価格は一体何か。完全に存在しない価格だ。正しくは6,048円のプランと表記しなくてはいけないのではないか。
内部の社員として正直に言えば、「通話料0円!」「メール代0円!」は「分かりにくかった」のではなく「分からないように意図的に説明を小さく書いた」のだと思っている。そうすることでお客様に「他社より安い」と錯覚させる手口が今回、糾弾されているのだと理解している。
また、「ゴールドプラン」に入れば、携帯電話本体の割賦支払いが実質的に「0円」に近づくという割引も、実際には2年間の「縛り」が前提であり、途中解約すれば残金がローンとして毎月徴収され続ける。
そうした「前提」をお客様に伝えようとしないソフトバンクという会社に、私は今、強い違和感を覚えている。
考えてみれば、ボーダフォンがソフトバンクに買収されて以降、そういう違和感を覚える場面が激増した。お客様第一のショップにとって、伝えるべきことを伝えないで集客と販促を進めようとする商売の仕方は、とてもまともな商売とは思えない。それは、お客様を舐めているとしか思えないからだ。
しかし、舐められているのはお客様だけではないのである。
◇免許証情報をデータ化する「ジニー」の不安
一連の騒動の渦中で、お客様と接する最前線のショップに数日前、神経を逆撫でするようなFAXの通達が届いた。通達も、毎日ほぼシュレッダーにかけているので、日にちは定かではない。
その内容は、「積極的にジニーを使え」「不明な点はポータルサイトで確認して自分で解決しろ」というものだった。
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「新料金体系セールストーク」マニュアル~他社比較
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「ジニー」というのは、ソフトバンクが独自に開発した新しい顧客情報管理(登録)システムで、導入されてまだ1カ月程度に過ぎない。もちろん内部の者にしか知られていないものだ。また、仕事の手があいた時に見るのがポータルサイトで、これは普段も確認しないといけない。このサイトは、内部の人しか閲覧不可で、一般人は見ることはできない。
ボーダフォン時代には「ヴィーナス」というシステムが使われていたのだが、お客様情報の登録には本人確認書類をコピーしてFAX送信しなければならなかった。この「ジニー」は、免許証や保険証、パスポートなどをそのままスキャナーで取り込み、そのイメージ画像をサーバーに送信して、店頭で新規のお客様情報を登録できる。
しかし、免許証がデータとしてサーバーに飛ばされ保存されていることは、契約したお客様のほとんどが知らされていないことだ。
もちろん、それがシステムの不備を起こさない限り、効率的で合理的なシステムだと言えるのかもしれない。しかし、大切な免許証などをスキャンして、その取り込んだイメージ画像をサーバーに送信するのは、かなり危険な行為だ。
事実、ソフトバンクはヤフーで過去にも大量の個人情報漏洩問題を起こした前科のある会社だ。仮に誰かが送信中の回線に侵入してデータを抜き取ったりすれば大変な事態に陥る。内部に多少技術に詳しい悪意を持つ人間がいれば、問題はさらに深刻だ。
◇顧客情報登録を「ぶっつけ本番でやれ!」
ところが、実は問題が逆なのである。
「技術に強い者による危険性」どころか、この新しい顧客情報管理システムに関して、私たちショップの現場スタッフの大半が、「研修を受けていないド素人」なのだ。システム配備の当初、ソフトバンクから下りてきた通達はこうだった。
「ショップで1回だけ(つまり誰か1人が試しに)新規登録をして、(その後、その内容を)キャンセルしてください」
これは信じられないような話だ。個別に研修もしないで、導入したばかりの新システムを使って、「ぶっつけ本番で客の情報を登録せよ」というのである。
その前に、ソフトバンクから「新システムを導入するので、マニュアルを見ながら運用しろ」との通達が来ただけだった。MNPでの説明会では、「ジニー」についても触れられていたが、その時に運用マニュアルを貰っただけだった。
通達や、運用に対してのフロー自体が崩壊していると思った。
そうした経緯があったため、前述した数日前のFAXがショップの神経を逆撫でしたのは、全員が未だ扱い慣れないその「ジニー」を、無責任にも「積極的に使え!」と言ってきたことに対する不信と怒りによるものだ。
ジニーが導入されたのは、10月10日~17日(10月11日関西、12日東海・北陸、13日関東、16日北海道・中国・四国、17日東北・九州)にかけてだった。
導入当初の「ジニー」は、個人情報を検索するのに非常に時間がかかっていた。また、すぐにエラーが出てしまい登録業務ができなくなっていたのである。その結果、FAXでの登録、旧「ヴィーナス」での登録の方が早くお渡しできるという、最低なシステムだったのである。
本運用になるまでに準備期間はあったが、これがあまりにも使いモノにならない、不完全な、あまりに重いシステムだったので、お客様をお待たせするため、利用出来なかったのである。現在では、多少は改善されている。
ショップの現場にしてみれば、お客様に迷惑をかけ続けて非難が集中している最中であるにも関わらず、「さらにトラブルの火種を増やすつもりか!?」と呆れてモノが言えない驚くべき通達だったのである。
しかも、この新システム「ジニー」では、未だ「修理、解約、料金収納」といった業務の受け付けをすることができない。つまり、「個人情報を登録する新システム」と「修理、解約、料金収納などの業務を行う旧システム」を、未熟な操作で試行錯誤しながらおそるおそる併用することが現場は強いられているのである。
そのため、ショップの現場では今、システム操作ミスへの恐れと、誇大広告が招いた連続トラブルによるお客様からの苦情対応、目の前のお客様に説明できないことによる自信喪失、その他のさまざまな不安とストレスに苛まれ、多くのスタッフの顔から笑顔が消えてしまった。
しかし、与えられた仕事から逃げるわけにはいかないため、残業をして、迷走しながらも連日のように自己学習を続けている。
おそらく、全国のショップのスタッフは今、心身ともにドロドロの状態にあるのではなかろうか。
その根底にあるのは、人間として大切な何かが、接客をするたびに少しずつ自分から剥がれ落ちて行くような感覚だ。
◇ボーダフォン時代は新システム研修があったのに
マスメディアで報じられている問題の底流は、まさしく、前述の「ジニー」で明らかにした社内情報の非開示性にある。
お客様第一の商売であるはずなのに、その最前線で業務を遂行しなければならない私たちショップの現場スタッフに、システムや商品の説明をなぜきちんとしないのか。社員を信用できないのであれば、組織を巨大にすべきではないのではないか。
実際、ショップに配られた資料と言えば、わずか6枚のセールスマニュアルで、たとえば私が持っているのはかなり劣悪なコピーだ。ショップ宛てに送られてくるソフトバンクモバイルからのメールに添付されて届いたものを、印刷しただけである。
しかも、ショップのスタッフに配布されたのは、お客様にサービス商品が公表された10月23日。記者会見の時に内容をはじめて知った。まさに、お客様と同じである。
もちろん、そのセールスマニュアルも、薄くても、内容があれば問題はない。だが、見ての通りである(画像参照)。
ボーダフォン時代は
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「新料金体系セールストーク」マニュアル~ネガティブトークに対する切り返し

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