リコーの退職強要は「人事に関する面談の実施について」という文書で日時を指定して断行された
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創業者が「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」の三愛精神をうたい、家族的経営を重視してきた複写機大手のリコー。かつてリストラをしたことがなく、雇用は安泰と思われていた。ところが業績悪化から昨年5月にグループ1万人の削減を発表した直後から、「人事に関する面談」と称して特定の社員を呼び出し、執拗に退職を迫った。拒絶する社員は「子会社の物流会社の倉庫や本社工場に配転、出向させる」と脅された。計4度にわたる退職強要を断った社員は、実際に倉庫や工場の現場に飛ばされた。退職強要を受けた社員らは昨年9月「リコーユニオン」を結成。現在11名で活動しており、今年2月には東京地裁に労働審判を申し立てたが、広告漬けのマスコミは見出しから社名を伏せ、黙殺した。ユニオンメンバー5人とリコー本社への取材に基づき、リストラの現場を詳報する。
【Digest】
◇執拗な退職強要
◇日雇派遣の若者に混じって肉体労働
◇「断ることはできない。これは決まったことです」
◇島流しは「有効な人材活用」
◇「司法の判断を仰ぎたい」ユニオン
◇リコー「無回答」
◇見出しに社名すら書けない記者クラブメディア
◇執拗な退職強要
リコーが突然のリストラ計画を発表したのは昨年5月26日のことだった。今後3年間でリコーグループ全体の従業員約11万人(国内約4万人、海外約7万人)の約1割にあたる1万人の人員削減を打ち出したのだ。
翌月29日には、国内で1,600人の希望退職募集を発表した。その文書によると、リストラの理由は、グローバル化の競争のなかで、収益構造の改善が不可欠と判断したためで、対象は「グループ外に活躍の場を求める社員に対して」行うというものだった。あたかも、自主的に退職したい社員を募ったかのような物言いだが、このアナウンスは “欺瞞”だった。翌月からリコー社内では、用意周到な“クビ切り政策”が決行されたのだった。
リストラ対象となったうちの一人、P氏(男性、40代後半代)は、リコー本社で一貫して画像システム事業のソフト開発業務に取り組んできた人物。これまで成果を認められて昇進、昇給もしてきたという。「さらなるキャリアアップを真剣に考えていた」と語るP氏は、5カ月前の2月、部署長に対して、「今後は新規事業の分野で自身の能力を発揮し、キャリアを重ねたい」と進路の希望を相談していた。
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上は2011年5月26日のリストラ資料。下は同年6月29日、国内の希望退職募集を発表した文書。 |
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そのP氏は、7月に入り、突然、上司に書類を渡された。そこには、『人事に関する面談の実施について』と書いてあり、こう記してあった。
「表題の件についてご連絡いたします。人事に関することで、貴殿にお伝えしたい事項がございますので、下記の通り面談を実施させていただきます」とあり、日時、場所、面談者の名が記載されている。その下には「※特にご用意いただくものはございません。」とあり、「お忙しい中とは思いますが、必ず起こし頂けますよう よろしくお願いいたします。」とある。
面談者は、半年前にキャリアの相談をした上司だった。当然、P氏は、進路の希望が通ったのか、と期待した。しかし上司は、ひとしきり会社の経営状況が厳しいという説明をしたあと、「今後、生産拠点の統廃合をして、人員の適正をやります。そうなると、その裏返しとして何が起こるかというと、仕事が回らないケースも出てきます」と言い、こう切り出した。
「Pさんに会社として仕事を与え続けることができなくなったというのが、会社としての結論となりました。こうなると、社内でのキャリアというのは積めないので、社外に転身して自身のキャリアを続けていってほしい」
さらに上司は、P氏の退職金を計算した書類と、リクルートなどの再就職支援の資料を出しながら、こう言い始めた。
「会社としては、できる限りのサポートをします。一つは退職金の特別加算。もう一つは、社外に転身される場合の就職支援。これは無期限、決まるまでサポートさせて頂く」
P氏は、拒絶した。すると、すかさず、その上司は「では、次回は■日に面談をやります」と言う。(※日付は伏せる)
こうして約1週間後、再び面談を迎えた。その席で、P氏は早期退職に応募しないことを改めて断言した。すると、上司はこう述べ始めた。
「今日は、Pさんのご意思もわかりましたし、会社としての決断は変わらないというのもご理解いただきたい。会社としての判断というのは、これはもう変えることはない。今のところで仕事を続けることはできない」
そして、こう言った。
「Pさんのキャリアを生かすのだったら、社外に転身した方がよろしいんじゃないかとお勧めしている。そこを考慮においた上で、もう一回考えて頂けないかと。次回の面談時に、最終に近いご意思というのを私どもにお伝え頂きたい」
そして、次の面談日時を設定してきた。こうして迎えた3回目の面談で、P氏は早期退職はしない、と伝えた。すると上司はこう言ってのけたのである。
「会社に残ると判断されると、どうなるかというと、開発系じゃないところに異動になります。物流、生産、販売と会社は考えている.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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当初計画の約150%の2千340名が応募したことを発表 |
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上はリコー本社。下は広告塔の三愛ドリームセンター。都内の銀座にある |
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上は大手新聞社に出している全面広告。下は見出しで社名を伏せている読売のべた記事。その下は記者クラブメディアに説明するユニオンのメンバー |
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