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「ナガセ社員の指示による売上の”積み上げ”が常態化していました」元東進衛星予備校経営者が告発――FC部門で常態化する粉飾決算

情報提供
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毎年3月期になると「積み上げ」と呼ばれる売り上げの水増しがナガセ社員の働きかけによって行われていた、と不明朗なナガセの経営実態について証言する元東進衛星予備校の経営者・Aさん。ほかの衛星予備校でも“積み上げ”が広く行われていたことは公然の秘密だったという。
 今年3月、ナガセとフランチャイズ契約を結んで東進衛星予備校を手広く経営していた(株)モアアンドモア社が経営破綻し、民事再生法に基づく再建手続きに入った。ナガセがスポンサー企業として支援に乗り出し、今後は直営校として運営する方針だという。なぜ倒産したのか、なぜナガセが支援するのか、事情ははっきりとはみえてこないが、東進ビジネスの不透明さを印象づける事件である。この場を借りて読者各位に情報提供を呼びかける次第だが、そうしたなかで衝撃的な証言が飛び込んできた。FC経営者に対してナガセ側が「積み上げ」という名の「売上の水増し」を持ちかけ、さらにナガセ社員の手によってじっさいに「水増し」がなされていたというのだ。元経営者に聞いた。
Digest
  • 「積み上げ」とは
  • ナガセが主導
  • ロイヤリティー優遇で「積み上げ」奨励
  • 「ナガセ経営陣は知っている」
  • マネーファーストのナガセ 
  • ナガセへの質問状
 モアアンドモア社の倒産(→プレスリリース)については、破綻に至った原因および上場企業であるナガセが支援する妥当性など、きわめて不透明な部分が多い。同社代表取締役の柏木秀信社長は、野村証券課長の肩書を利用して約13億円をだまし取ったとして1988年に地検特捜部により逮捕され、詐欺罪で有罪が確定した人物であり、永瀬昭幸社長が野村證券に在籍していた時代の1つ先輩にあたる。ナガセ社員によると、原因は「投機に失敗したため」との情報がある。現在、詳細取材中につき、関係者より情報提供を募集中です。(→info@mynewsjapan.comまで)取材源は必ず秘匿いたします。

「積み上げ」とは

ナガセとのFC契約に基づく「東進衛星予備校」を、とある中規模都市で経営してきたAさんによれば、「売り上げの水増し」は1990年代から2001〜2年ごろまで約10年続いた。

「90年代なかばごろだったと記憶します。(ナガセの)エリアカウンセラーが電話をかけてきて言われたんです。☓☓万円くらい積み上げお願いできませんか…」

 「積み上げ」の額ははっきりとは覚えていないが数百万円だったという。

エリアカウンセラーとは、各校舎を回って本社の指示を伝えたり相談に応じるといった仕事をするナガセ社員のことだ。Aさんによれば、正社員ではなく契約社員だったという。ともあれ、ナガセに雇用されたナガセ社員であることは間違いない。

そもそも「積み上げ」とは何なのか。

大学受験をめざす生徒にビデオ講座を売るのが「衛星予備校」の主要な仕事だ。Aさんの校舎では当時、生徒ひとりあたり年間で平均30万円くらいを売り上げていた。それぞれ申込書を書いてもらって手続きをする。ところが、それとは別に架空の申し込みがなされたというのだ。架空――つまりでっちあげの契約だ。それが「積み上げ」の意味である。

ナガセはエリアカウンセラーを通じて毎年のように「積み上げ」を求めてきた。「積み上げ」要求額は、減ることはなく年々増えていったという。

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ナガセ本社(東京都武蔵野市吉祥寺)。同社社員であるエリアカウンセラーの手によって架空の講座申し込込み書が作られたとAさんは証言する。

ナガセが主導

「積み上げ」は終始、ナガセ側の主導で行われた、とAさんはいう。

「3月末の年度末は申し込みが増える時期にあたります。講座を終わった生徒が次の新しい講座を受けるとか、英語の科目をやり終えた生徒が別の教科を申し込むとか。これが3月末の売り上げに計上されます。申し込みの額はひとりあたり平均30万円平均くらい。うちの年間売り上げの半分くらいを占めていました。ところが、エリアカウンセラーが頻繁に電話をかけてきて“積み上げ”を求めてくるんです」

「粉飾」と言われてもおかしくない不明朗な会計である。強い疑問を持ちながらも、しかしAさんは要求をのんだ。

「いくら積んでいいですか。☓☓万円ですか」

「じゃそれで…」

「わかりました」

しばらくすると、講座を申し込んだ生徒のリストが本社から送られてくる。架空部分は、すぐにわかった。見知らぬ名前が連なっているからだ。それらの知らない名前が、どこかに実在する人間のものなのか、それとも完全に架空のものなのか、Aさんは知るよしもなかった。すべてナガセ社員の手で行われたのだ。

現在でも、エリアカウンセラーのプレッシャーと、FC側のロイヤリティー欲しさから、「積み上げ」は行われている。たとえば、校舎長の過労死が相次いでいる仙台進学プラザの例では「カラ上げ」と社内で呼び、常態化しているという。ナガセとしても、売上高を実態よりも高く粉飾したいという動機があり、黙認しているのが実情だ。

 別のFCの例でも、ナガセ社員が主導して申し込みをでっち上げている。「エリアカウンセラーはある裏技を教えた。入塾の見通しがない生徒や親に頼みこんでいったん契約してもらい、4月になったら、すぐに解約してもらうのだ。ほかのFC校でもやっている、とエリアカウンセラーは言った。決算用の数字をつくるためのあこぎな方法だとAさんは不快に思った。しかし、ナガセにはさからえない。契約してすぐに解約する。そういうのが、多いときで5件くらいあった」

 上場企業であるナガセの粉飾決算が違法であることは言うまでもない。

ロイヤリティー優遇で「積み上げ」奨励

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2016年度のロイヤリティ減免基準一覧。このように、売上が高くなるほどロイヤリティー率は下がるため、加速度的にFC企業側の取り分が増えていく契約になっている。ナガセは、これをエサに、違法な「積み上げ」をそそのかし、自社の売上を高く見せている。

3月期の売り上げを水増ししたところで、FC契約で校舎を経営するフランチャイジー側からすればいいことはないようにみえる。ナガセに支払うロイヤリティーが多くなり、税金が増えるだけではないか。なぜ応じたのか。

Aさんが、カラクリを説明する。

「3月期に水増しした架空の分は、ほかの時期の売り上げで埋めるので、税金上は問題はありません。旨味はロイヤリティーですね。ナガセに払うロイヤリティーはだいたい売り上げの30%くらいですが、売り上げ額が多くなれば割り引かれる仕組みになっている。あと☓☓百万円積み上げれば2%下がりますよなどとエリアカウンセラーは言ってくる。ロイヤリティーが下がるのはフランチャイジーにとってはありがたい」

あと☓☓百万円で売り上げの上位ランキングに入りますよ――という言い方でエリアカウンセラーが積み上げを要求することも、しばしばあったという。

ロイヤリティーだけではない。営業成績の上位に入れば、永瀬昭幸社長が同席して帝国ホテルで開かれる夕食会に招かれる。最高級ホテルで食事などめったにできない多くのフランチャイジーにとっては、その夕食会も魅力だった。

そして、この架空申し込みは、広く全国でやられていた、とAさんは確信する。少なくともAさんが接した「東進」関係者は、全員が知っていた――そう断言する。ナガセの役員や社員、FC経営者らが集まる場で交わされる会話は、どれも「積み上げ」をしていることを前提にしたものだったというのだ。

「ここのオーナー(フランチャイジー)は、どれくらい”積み上げ”たんだろうか。そんなふうに、お互いに腹を探るような話し方をしていました」

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路線バスに表示された東大合格者数「日本一」をうたうナガセの宣伝広告(杉並区阿佐ヶ谷で撮影)。東大合格者の多くは無償受講の特典を受けている可能性があり、誇大広告の疑いもある。

「ナガセ経営陣は知っている」

毎年3月の「積み上げ」工作を、ナガセが行う動機は十分に考えられる。3月期決算を前に業績を大きくみせようとしたのだろう。

もちろん、監査で問題にならないはずがない。「監査法人から再三にわたって指摘を受けたらしい」という噂をAさんは伝え聞いた。限りなく不正に近い行為にナガセが手を染めていることを、少なくとも役員クラスの社の幹部は自覚していたはずだ、とAさんは言う。

ナガセは、永瀬昭幸社長のワンマン会社である。その体質を考えれば、トップの永瀬昭幸社長も知っていた可能性はきわめて高い。

Aさんによれば、Aさんの会社で「積み上げ」がなくなったのは、2002年か03年ごろ。かわりに、期を同じくして「受講券」方式というものが導入された。

FC校側がナガセから「受講券」を買う、というやり方だ。FC校側が、たとえば「数百万円分」の受講券を買い、その後、生徒にその受講券を売ることで、代金を回収する。受講券には期限があり、使いきれなかったら、無効となる。

「粉飾」の違法性を避けるためにやり方を変更したのだろう、とAさんはみている。

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ナガセ創業者で社長の永瀬昭幸氏。「ワンマン」だとの評判は、社員・元社員やフランチャイジーの間で一致する(ナガセホームページより)。

マネーファーストのナガセ 

それなりに、金を稼ぐことはできた。しかし、ナガセという会社の体質にはうんざりした、とAさんは言う。教育産業でありながら、コンテンツ(教材・講義の内容)には興味がない。事業をどうやるか、どうやって金を稼ぐかということばかり。もっともFCのオーナーも、コンテンツに関心がある人は少ない。

「私がこの世界に入ったのは、子どもたちの大学受験にかかわることに興味があったからです。でも、ナガセは社長のワンマン会社で、肝心の商品のことに関心がない。数字が上がればいい、という考え。“積み上げ”も、永瀬社長が知らないはずがない。ナガセは普通の予備校ではありません。株式会社の予備校ですから」

 さて、経営破綻したモアアンドモア社である。神奈川や東京、静岡・愛知・岡山・高知で、36校もの校舎を運営するなど、大規模に展開していた。ナガセの指導を受けながらの経営だったはずだ。利益が出る見通しがあったからだろう。それなのに、なぜ行き詰まったのか、素人目には不可解である。この点について、Aさんが興味深い指摘をした。

「じつは、ナガセはフランチャイズ校の経営の見通しについては、ほとんど関心がなく、みさかいなく、どんどん新規でFCの校舎を出してきました。家賃や人件費といった経費は、ばかになりません。特に都市部の一等地だと、家賃は高いです。その経費に満たない売り上げしかないと当然赤字になりますが、ナガセはロイヤリティー収入が入ればいい、という考えなのでしょう。モア社も不採算校をいくつも抱えていて赤字を膨らませた可能性はあります。赤字校を抱えたFCは、まだほかにもあるはずです」

FC会社の経営破綻をナガセが救済するのは、「東進がつぶれた」という評判がたつのを恐れたのかもしれない。モア社が破綻した責任の一端は、明らかにナガセにもあるだろう。

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香川県にある東進衛星予備校(記事とは直接関係ありません)。四国で好営業成績をあげていた衛星予備校がナガセ直営になった例があるという。経営に行き詰まった可能性がある。
 モアアンドモア社の破綻をみて、Aさんは、ある出来事を思い出したという。かつて全国一の売り上げを誇っていた四国の東進衛星予備校(松山一番校)が、いつのまにかナガセの直営になっていた事件である。同校だけでなく、フランチャイジー(進級スクール)が運営するほかの衛星予備校も、すべてナガセの直営校になった。

「詳しい事情はわかりませんが、開校しすぎるなど手広くやりすぎたか、営業成績をのばそうと無理をしたのかもしれません」

有名講師陣が一斉にナガセを辞めたのは記憶に新しい。利益最優先、「マネーファースト」の企業体質が、商品の劣化をもたらし、また、フランチャイジーの無理な経営を放置し、そのうえ、他者の意見や批判を聞かないワンマン経営を変えることができないとすれば、この会社の未来は暗いといわざるを得ない。

ナガセへの質問状

なお、筆者はナガセに対して、同社代理人弁護士を通じて下記のとおり質問を行った

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