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野村證券 9割儲かるIPO――個人資産を証券会社に預けない日本人、その背景

情報提供
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IPOの主幹事が多いことを第一の理由にあげてPRする野村證券の公式サイト。IPOが武器であることをよく分かっているが…。
「AI(人工知能)の影響は、営業に関しては今のところゼロ。何も変わっていません。ただ、総務系の仕事は、置き換わる部分がありそうです。社内からの『口座開設で必要な書類は何でしたっけ?』といった単純な質問対応もやっていますし、定型的な事務処理がありますから」(若手社員)。証券会社の営業マンは、銀行と同様、プライバシーの最たるものである個人金融資産を扱う。その仕事内容は、信用を築いて相手に入り込み情報を取得するという、新聞記者のような要素も大きい。この種の仕事内容では、AIの影響をほとんど受けない。AIはデジタル化された大量の情報の存在が前提となってはじめて分析できるが、個人資産の内容はどこにも開示されておらず、皆が、できれば隠しておきたいものだからだ。そのドアオープナーとしての業務は、人間に最後まで残る業務といえる。
Digest
  • AIの影響「いまのところゼロ」
  • 情報の量と分析スピード VS 情報の質
  • 資金調達はネット化が進むのか
  • 会いやすい人のほうに行っちゃう問題
  • BS、PLから自動で「悩み」をあぶり出すツール
  • なぜ日本人は個人金融資産を証券会社に預けないのか
  • 儲からない、フェアな市場ではない
  • おススメの投信

AIの影響「いまのところゼロ」

 野村ホールディングス(HD)の永井浩二グループ最高経営責任者(CEO)は29日、都内で開かれた投資家向けの説明会で、人工知能(AI)を活用するなどして、「向こう5年をめどに600億円程度のコストを削減する」と表明した。業務運営の効率化に加え、購買業務の一元化も進め、経費削減を図る。
2017/11/29『時事通信』

永井CEOは600億円削減をぶち上げたが、その詳細は何も具体的に語られてはいない。中心は、バックオフィス系の事務処理業務になるとみられる。これは銀行と同じだ。

証券業では、ホールセール(マーケット部門)のほうで、2000年に600人いたゴールドマンサックス本社のトレーダーが自動化で2人に減った、というニュースが有名になった。日本の証券会社でも同様で、既にほぼ自動化済みだという。取引内容が決まっているものについて、売買を合理的に執行する業務であり、かつては人間が熟練の技(たとえるなら、パチスロの目押し)でやっていたわけであるが、当然、AI(人工知能)のほうが迅速で正確だ。野村では「総合職C」が担当するマーケット担当の業務で、C型はもともと契約社員で終身雇用ではなく流動的であるため、人員面でも大勢に影響はない。

情報の量と分析スピード VS 情報の質

また、ファンドの運用を行っているファンドマネージャーの業務(野村ホールディングスの子会社である野村アセットマネジメントが担当)が、今後、銘柄選定をAIによって行ったほうがパフォーマンスがよいことがはっきりした時点で、大量に失業する可能性は、確かにある。

囲碁でAIが人間を超えたように、ウォーレン・バフェット(バークシャー・ハサウェイCEO)をAIが超えられるか、だ。企業の分析レポートを書いて売買銘柄の推奨を行う証券アナリストも、同様の理由で、失業することになる。

現状では、AIが人間ファンドマネージャーの上位クラスを上回る成果までは見られていないが、中の上くらいの成果(S&P 500を上回るパフォーマンスなど)を上げているものは、既に出てきている。AIがyahoo提供のビッグデータを解析し投資判断を行う『y jamプラス』という投信は、日経平均を超えるパフォーマンスを出しているという。だが、日経平均を下回るAIファンドも存在し、中長期的な安定度はまだわからない。

公開情報についての正確で迅速な分析については、AIが人間を上回って当然だ。決算資料を自動で読み込み、社長の決算会見の表情を画像分析し、声のトーンも音声分析し、プラスマイナスを指数化して分析し、自動的に買いや売りをかける。これを全銘柄で自動的に行う。スーパーの航空写真を撮って客の入りを定期的に分析し、株を売買する。世界最大の資産運用会社「ブラックロック」は、そういった、従来は取りにくかった情報まで取得してデータ化し、分析し始めているという。情報の多様性と処理する量、スピードでは、AIが圧倒的に人間よりも強い。

一方で、投資に影響する情報は、質の高い情報ほど、人間を介してしか伝わらないという特性がある。記者の仕事がAIに置き換わらない理由も、そこにある。優秀なファンドマネージャーやアナリストほど、経営者はじめ沢山の人に会って、適切な質問をぶつけて情報収集し、現場に足を運んで五感で情報を得る。驚異的なパフォーマンスでカリスマファンドマネージャーと呼ばれた藤野英人氏(レオス・キャピタルワークス社長)は、年間100社以上の中小企業を訪ねて、自ら全国行脚するという。

現場では、言葉にできないような、社長や従業員の顔の表情や、言葉の行間も読むこともできる。言葉で言ったら違法になるようなインサイダー情報ほど、価値が高い。日経の記者がM&Aや社長人事の情報を、発表される半日前に報道できるよう血眼になって夜討ち朝駆けするのは、そのためだ。たった1つの情報で、株価を瞬時に動かす。記者は裏がとれるまで(事実が確定するまで)紙面化できないが、アナリストやファンドマネージャーはその兆候をつかみ確信を得た段階で、密かに投資判断を下せる。

この質の高い情報を得る活動は、AIには置き換え不能な仕事である。そういう情報は、人間からしか出てこないし、言葉でさえなく、「否定しなかった」といった行動で答えが示されることもある。言葉になる際も、信頼関係があったうえで、適切な質問がなされなければ話されない。AIには信頼もなければ、質問をする能力もない。

つまり、「多角的で大量な公開情報の分析」ではAIが強いが、「質の高いグレーゾーン情報」は人間にしか取得できない。武田薬品の約7兆円に及ぶシャイアー買収劇では、株価が4か月で3割下がった。企業価値が買収成立で上がるか否かは、AIの得意領域だろう。

一方で、そもそも買収が合意するか破談になるかという情報は、社長や役員から人間が話を聞いた際に感じるヤル気や話しぶり、人間関係や性格などの非公式情報からのほうが、正確に見通せるはずだ。AIだけが完全に人間を上回ることはありえない世界、ということである。

したがって、デジタル化され、文字や数字になった公開情報の分析を得意とするファンドマネージャーは失業し、足で稼ぐ記者タイプは生き残る可能性が高い。企業価値を正確に見通す実力において、AI判断:人間判断が、3:7になるのか、8:2でAIが優勢になるのか、その比率はわからないが、現在、中間層にいる程度のファンドマネージャーやアナリストは失業することになるだろう。

資金調達はネット化が進むのか

では、野村の本流であるリテール営業については、AI技術はどう影響するのか

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野村はオリンピック2020で証券業界唯一のパートナー企業。信用アップにはつながるかもしれないが…

家計金融資産の52%が現預金となっている日本(2017年2月3日、金融庁説明資料より)

60歳以上が約1000兆円を保有する日本の個人金融資産(年代別金融資産保有総額、財務省2015年10月27日説明資料より)

新規上場の勝率9割を伝える報道番組。客は、勝率9割のIPO株を入手したい。その配分権を持つのは大手証券会社、なかでも最大手の野村、ということになる。構図としては、かつてのリクルート事件と似ているが、合法。

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おにいさん2018/05/29 08:25会員
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