野村證券 ホワイト化で薄まる“詰める”カルチャー「今のノムラは、昔ほど成長できない」
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- 「今の労働環境は、タルい」
- 時間で一律にタガをはめる是非
- 朝の時間外にも賃金がつくように
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「今の労働環境は、タルい」
長時間残業、少ない休日、上司からの強烈な負荷による精神的ストレス(いわゆる詰める文化)を特徴としてきた野村證券の労働環境は、トップ企業として、証券業界の象徴的存在でもあった。損失補填問題をはじめ、もともと一般的な感覚としては倫理観に欠けた独自の強烈なカルチャーを有し、労働環境も国の基準から見たらブラックそのもの。だが、根性で先輩に着いていけば「育ててくれる、成長できる環境」であるとして好意的にみる社員も多く、実際に人材輩出企業としての評価は広く定着している。
その野村も、ブラック企業が社会問題化し、電通過労死事件で社長が引責辞任し、次の社長も裁判所に出廷して謝罪する事態に至って、リスクを明確に認識。働き方の修正に追い込まれた。野村のブラックは、低賃金の使い捨て型ブラックとは真逆で、高賃金の人材開発型ブラックだった。
人間は、かったるい環境ではサボる。負荷がかかった厳しい環境でないとポテンシャルは開発されず、成長できない。野村は、新人時代から重い負荷をかけ、上位から下位まで、全員の成長を目指す底上げ式のカルチャーを持っていた。だから、デキの悪い社員は詰められてキツいが、辞めずにくらいついていけば、成長できた。
だが、そのカルチャーに基づく労務管理はパワハラ含みで、労働時間的にも違法なものであったがゆえに転換が求められ、継続は難しくなった。「今の野村は、昔ほど成長できない。最近の新卒組を中心に、本来の野村には、要らない人材が増えているかもしれない。うちにとって、今の労働環境は、タルい(かったるい)」(中堅社員)。もはや、戸塚ヨットスクール的な環境(底辺をハードに鍛えて底上げ)は期待できず、組織全体の力は低下するかもしれないが、デキる人にとっては「ホワイトで高賃金」という理想的な環境になった、ともいえる。
「これまでは、デキる人も毎日、残っていたんです。支店の数字がノルマに行ってないと、課長が残って、デキてない営業マンを詰める。課長が残ると、課の下の人たちも全員が残る、というカルチャーでした。これは、生産性が低い。毎日、18時~20時過ぎまでが、生産性の高い時間ではなかった。工場ではないので、営業の仕事はデキる人は電話一本で成果を挙げますから。今では、デキる人は18時に帰るようになった、ということです」(同)
時間で一律にタガをはめる是非
いわゆる働き方改革において、「もっと働き、スキルを伸ばし、稼ぎ、成長したい若手~中堅のトップホワイトカラー層に対し、ブルーカラーと同様に時間で一律のタガをはめるのは逆にパワハラではないのか、日本経済にとっても本人にとってもデメリットが大きいのではないか」――という課題は、まったく議論されていない。自由に好きなだけ働いてスキルアップし自己実現を目指すという、いわば「個人の自律的なキャリア形成権」を侵害している面は、確かにある。
今の政府には、既に形骸化した終身雇用を前提とした時代遅れの雇用政策だけがあり、キャリア政策は存在しない。電通過労死事件などをきっかけに、雇用政策において最低限の労働環境をホワイト化すべく動いた結果、既にブラック環境に社員がすっかり順応済みだった会社では、「もっと働かせろ、稼がせろ」と、不満の声が上がっているのも事実である。
過労死事件が続発するなか、社員に対して雇用者責任が生じるのは不可避であるため、現状の日本の法制度を前提とする解決策としては、もっと自由に長時間働きたい社員は、「(総合職Cのような)契約社員」または「業務委託契約の個人事業主」に切り替えるしかないが、野村は、リテール営業職のトップ昇進組に対し、そのオプションを示せていない。
※なお、今回取材した複数社員は、5年で3~4割は辞める野村において、その環境に適応して生き残ったなかでも、さらにトップ昇進組であり、“生存者バイアス”がかかっている点には注意が必要だ。その裏には、精神的・肉体的にボロボロになって辞めていった大量の離職者がいる。被雇用者全員を守る最低ラインとして国が定めているのが、労働基準法である。
朝の時間外にも賃金がつくように
具体的には、野村の定時は、8時40分~17時10分。だが、証券業界はとにかく朝が早い。若手は7時までに出社しているのが当り前なので、通勤ラッシュに遭う心配すらないのだ。
「3~4年前だと、遅くとも朝7時までに全員が出社していて、夜は20時くらいまで。つまり、朝の1~2時間と夜の2~3時間が残業で、×月22日=100時間弱が、支店勤務者の実質残業時間で、それを60時間になるよう修正して申請していました。支店は入退館の自動記録装置がなく、すべて自己申告の労務管理なので、調整できるんです」(若手社員)
この伝統的な、空気を読み、忖度してサービス残業をする労務管理が、2016年を境に変わったという。
「電通の過労死事件が明らかになってから、変わりました。現在は
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日本橋本社が置かれる野村ビルは、今後7年の再開発で様変わりする(内閣府の国家戦略特区の資料より)
若手社員(20代後半)の源泉徴収票。労働環境がホワイト化したうえに給料は高いまま。「事件後の電通」のような状態になっている。
野村證券のキャリアパスと報酬水準
野村證券の評価結果詳細&根拠
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読者コメント
野村證券の詰め(成長させる)や長時間労働の是正によって漠然と働いているだけだと全く伸びないリスクが今の労働者にはある。受験勉強にも通じるけれども、何の能力が不足していて、勉強して学んでいかないと駄目か意識して実践しないと10年目でも新卒に毛の生えたレベルという社員が増加するのではないか。
野村證券も今は良いけれど、伸びる人と伸びない人の差問題や顧客、消費者にとって(大口のみIPO有利)良い会社では無いのであれば、長期的に見れば利益は下降していくのではないのか。何がトリガーになって今の銀行業界みたいに儲からない構造に陥っても不思議では無いように思う。銀行も10年前はここまで利益の出ない業界になるとは予想出来なかった。
野村證券だけに限らず、長時間労働によるある種のOJTに頼った育成制度(勝手に育ってや)はもう機能しない時代という所だろう。社内大学的なものを作り必要と思う内容を受講するコンサルスタイルが広まりそう・・
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