SMBC日興証券「これは仕事させないパワハラだ」――ノルマ変わらず残業時間だけ厳しく規制
![]() |
![]() (仕事3.5、生活3.7、対価4.6) |
- Digest
-
- 「帰れって言ったじゃん!」
- 「何していいかわからない」「まだ明るいけどな…」
- 10年前に1千人リストラ、FA社員採用停止
- 公募制度はあるが…10年で半分以上が辞めていく
- 管理職層に「辞めさせるな」「詰めるな」
- パ・リーグよりセ・リーグに厳しい
- 課長代理クラスで月2千万が目標
- 株中心のフレンド、投信中心の日興
- 三井住友銀行からの紹介、多い支店と少ない支店
- 浪花節営業のジレンマ――考え出すと気持ちが下がる
- 公募の配分権は証券会社が持つ
- セグメント分けと担当者マッチング
- 最適な提案内容は自動化できるか
- リテール営業、2極化の未来
- 転勤の有無で基本給2万円の差
- ボーナス「200弱~800万くらいまで」支店業績が重要
- 保養所等はシティー傘下時に処分済
- 本社は日本橋高島屋三井ビルディングへ
- 家族が支店に乗り込んできて――年々厳しくなるコンプラ
- 「相手の気持ちを読む能力」で数字を残す

「帰れって言ったじゃん!」
「最近は、『18時に帰れよ』と毎朝いわれます。残ってると、『帰れって言ったじゃん!』と営業課長や支店長から怒られますから。3~4年前は、朝は7時出社で、夜は20時~21時まで残業するのが当り前でした。それが今は、どの課でも朝8時ごろ出社~夜は19時前後まで、が当り前に。特に厳しくなったのは、電通事件後の、この1年ほどです」(中堅社員=30代課長代理)
多くの企業に影響を与えた、電通の新入社員過労死事件(2016年9月に労災認定)。会社の刑事責任が公開の法廷で問われ、山本敏博社長が出廷して証言台に立ち謝罪。罰金刑が下されるに至り、さすがに「明日は我が身」と危機感を持ち始めた経営者も多い。
SMBC日興証券でも、組織的に労働環境のホワイト化が進められた。ただ、往年の長時間労働にすっかり頭も体も慣れ切ったモーレツ社員たちにとっては、ギャップの大きさに慣れない日々だという。これは、「生存者バイアス」で、その環境に適応できなかった者は、早々に会社を辞めているからだ。
証券リテール業界では、若手の朝7時出社は常識とされ、夜も連日21~22時までが珍しくない。SMBC日興証券の定時は8:40~17:10なので、まともにカウントしたら、朝と夜の合計で、1日5時間ずつ残業代が発生し、営業マン全員が月100時間オーバー必須という“総過労死認定状態”が、この業界の常だった。これを無理やり正常化しようとしているのだ。
![]() |
30代営業担当者の給料。左が、残業がほとんどなくなった直近の明細。右は2016年の明細で、残業時間は「普通残業」だけで50時間超、「深夜残業時間数」と「休日勤務時間数」にも、数字が入っている。![]() |
「私の場合、この明細の通りで(左記参照)、2016年には深夜残業と休日出勤も含め残業60時間超だったものが、今ではたったの5時間です。毎月、こんな感じ。そうかといって、営業として求められる数字は全く変わりませんから、『これは仕事をさせないパワハラじゃないか』と社内で話題になっています。数字が行かなければボーナスも減りますし…」(同)
PCログが、2日後に出てきて、PCの電源をつけた時刻、消した時刻から、働いた時間を自己チェック可能。その数値と、自分が労働時間として申告した時間が矛盾していないか、本社がチェックしている。
「支店の営業課長からは『誤差が1時間以内になるように』と指示されていますし、総務課長の監視も行われています。労務管理は厳格です」(同)。実残業時間を減らした上で、サービス残業が不可能な環境まで、しっかり整備された。
労働時間のホワイト化は本来、歓迎すべきことだが、残業時間が減ると、残業代も減るのがネック。だがこの明細では、総支給額が4万円ほどしか減っていない。
「これは、私が『みなし労働時間制』で、一律40時間分が、残業をしてもしなくても、定額支給されるためです。40時間を超過した差額分が『割増超過手当』として以前は貰えましたが、それがゼロになっただけで済んでいます。かわいそうなのは、みなし労働時間制が適用されないランクの、若手社員たち。毎月の残業代が激減して、年収が200万円近く減ってしまった、という話も聞きます」(同)
この「若手社員」というのは、おおむね20代で、学卒5~6年目以下が中心の、「クラスⅡ」の人たちを指す。月70時間平均×12か月×時間単価平均2千5百円(※深夜・休日は割増となる)で計算すると210万円なので、確かに影響は大きい。
![]() |
SMBC日興証券採用ページより |
クラスⅡについては説明が必要だろう。同社の給与制度では、労働者層(管理監督者でない者)は、給与が低い順に、「クラスⅠ」「クラスⅡ」、そして、みなし労働時間制が適用される「クラスⅢ-1」の3つに分かれている。
新卒採用時の入口と採用予定数(2019年)は、下記3種類である。
クラスⅡのAコース:255人。全国転勤アリの総合職。
クラスⅡのCコース:30人。転勤がない総合職。Aに転換可能。
この1月にフレンド証券と合併したばかりということもあり、リーマンショック前の400人規模(Aコース)と比べても、ずいぶん人数を抑えている印象だ。
大卒総合職で社内出世を目指す人は、もっとも採用人数が多い、全国転勤アリを意味する「Aコース」で入社し、「クラスⅡ」からスタートする。(下記キャリアパスと報酬水準推移の図参照)。最短でも5年間は、このクラスⅡにとどまる。クラスⅡの間は、実労働時間制なので、残業はやればやっただけつけられ、残業代が支給される。かつては50~80時間程度の残業代は当り前のようにつけられ、月10万円以上が“生活残業代”となっていた。
これが、直近では、ほとんどゼロに近づいてきてしまった。しかも、残業代が減って生産性が向上した分がボーナスで還元されるわけでもない。求められる成果は同じ。会社にとっては人件費を削減でき、売上が同じならば営業利益がその分だけ増やせるため、願ったり叶ったりだ。
「何していいかわからない」「まだ明るいけどな…」
休日についても、強制的にとらされるケースが増えたという。
![]() |
Aコース(全国転勤アリ)の給与制度。SMBC日興証券のキャリアパスと報酬水準推移。「クラスⅡ」は実労働時間制で残業代カットが年収を直撃する。![]() |
「ここ2~3年で、『今月は1日、必ず有休とりなさい』『2か月に1回は必ずとるように』と会社側から言ってくるようになったんです。誕生日などに年1日休める『メモリアル休暇』は会社方針で取得を義務化。とらないと、『おまえ、消化してないのか』と言われて、必ず休みをとります」(中堅社員)
連続休暇をとる制度も
この先は会員限定です。
会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。
- ・本文文字数:残り17,153字/全文19,894字
SMBC日興証券の支店組織。FC課が外回り部隊。
SMBC日興証券の給与の仕組みを示す資料(筆者撮影)。コース別、年次別の基本給や報酬水準について記されている。
SMBC日興証券の総合評価マトリクスと、GEのナインブロック評価評価。日興では、建前上の制度では、コンピテンシー評価も同じ比重で重視していることになっている。GEはバリューのほうを重視する。
Twitterコメント
はてなブックマークコメント
facebookコメント
読者コメント
残業代が減って生産性が向上した分がボーナスで還元されるのが本来あるべき働き方改革ではないのか。似たような問題があちこちの会社で起きていると感じる。
記者からの追加情報
会員登録をご希望の方はここでご登録下さい
新着のお知らせをメールで受けたい方はここでご登録下さい(無料)
企画「ココで働け! “企業ミシュラン”」トップページへ
本企画趣旨に賛同いただき、取材協力いただけるかたは、info@mynewsjapan.comまでご連絡下さい(会員ID進呈)