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マツダ社員が労災と職場復帰を勝ち取るまでに7か月!「精神科に行け」、社内傷病報告には「元々負傷箇所に問題」と虚偽記載…

情報提供
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(上)マツダ本社・宇品工場
(下左)労災を申請する用紙。社判が押してある箇所に上記に相違ないと印字されている。この箇所に会社は線を引き訂正印を押している。事実なのに線で訂正するのはおかしいと考えたA氏は、社判のない用紙(下右)を個人で提出した。
 2020年7月、マツダ本社宇品工場で『CX-5』などのシートを車体に搭載する作業をしていた社員A氏(40代)は、設備の不具合で重量物を引っ張った際、突然、首にピリッと痛みが走り、頚椎症性神経根症を発症。仕事中の怪我だから労災手続きを求めたが会社は協力せず、産業医も巻き込んで“労災隠し”に動く。もともと「首に不安があることを知っていた」「引っ張る行為と、首を痛めた事は、因果関係がないと判断」と、虚偽の事実を社内の傷病報告書に書かれた。療養を終え仕事復帰したA氏が労災申請手続きを求めると「就業禁止」に。退職勧奨的な圧力を感じたA氏は、労働局に紛争あっせんを申請。弁護士を通して会社に申し入れたが「本社が出した書面とわしら(現場)の見解は違う」と抵抗にあう。結局、22年2月10日に復職、労災も適用されたが、同社のみならず多くの人が労災を適用されない実態もある。「同じ思いをする人の役に立てば」と、復職するまでの体験を語った。
Digest
  • 突然、首に“電流”走った
  • 「あなたは適応障害の可能性あるから精神科に行ってください」
  • 本人不在の現場視察
  • 「医療情報提供依頼書」をめぐる攻防
  • 「就業禁止 今から帰ってください」
  • 弁護士に依頼し会社と交渉開始
  • ついに労災を適用、就業禁止も撤回

突然、首に“電流”走った

マツダ株式会社といえば、トヨタ、ホンダ、日産につぐ販売台数4位の自動車メーカーで、単体の従業員だけでも23,207名、グループ全体で49,786名(22年4月末)の大企業。そのマツダのお膝元、広島県のマツダ本社宇品工場で、“労災隠し未遂”が起きた。マツダのコンプライアンス体制が問われる事件だ。

この情報を聞いたとき、筆者はトヨタで起きた労災隠し未遂事件と共通点があるのではと思い、ケガをした社員A氏を取材した。


期間従業員として入社したA氏は、数年後に正社員に登用され勤続15年超、40代前半になる。流れてくる車のシートを車体に搭載し、シートを締め付けるのがA氏の主な業務である。

丸いローラーの上をシートが流れてくる仕組みなのだが、シートを乗せたお盆のような「受け」がある。これを「ソリ」と現場では呼んでいる。A氏が言う。

「このソリが、ローラーの上をスムーズに流れず、ときどき引っかかってしまうのです。その場合は、ソリに付いている落下防止バーが立っていればそのバーを手でつかんで引っ張りますが、落下防止バーが立っていなければ、ソリの側面(ローラー付近)を両手で掴み、それを左方向に引っ張ってローラーの上を流れるようにします。

今回の災害は、落下防止バーが立っていないソリを引っ張ったことから起きました。この場合は、ソリの側面を両手で力いっぱい掴んで移動させなければなりません。重量物なので、首に負担がかかります。

また、リリーフを毎回呼んでも無視されたり対応してくれませんでした。私だけでなく、作業者全員がソリを引っ張る環境が当たり前になっていて、引っかかりは前々から問題になっていました。

作業員が手で引っ張ると重大災害(死亡災害)などの危険な場合もあるので、前年(2020年)5月に改善を要望する申告書を出していたんです」

A氏によると、1日で、ソリが40回~50回も引っかかる時もあるという。

2020年7月6日は、夜勤だった。日付がかわり、翌7月7日午前2時10分ころ、流れてくる車のシートソリ(落下防止が立っていない)がひっかかり、両手で側面を動かそうとした時、「ピリッと電流が走るように首に痛みが走りました」(A氏)

これが、すべての始まりだった。夜勤を終えて帰宅したA氏は、市販の痛み止めを飲んで寝れば大丈夫だと思い、床についた。

「あなたは適応障害の可能性あるから精神科に行ってください」

痛み止めを飲んで出勤し、直属の上司に仕事中に首を痛めた事を伝えた。すぐに治ると思ったが、痛みがとれないので地元の整形外科を受診。しかし、この時はMRIを希望したが撮影しなかったので詳しいことが分からなかったが、CT検査で、神経が腫れて圧迫されていることが判明し、「頚椎症性神経根症」と診断をされたのである。

「頚椎症性神経根症」とは、脊髄から分岐する神経根が圧迫されておきる症状で、肩甲部、腕、手指の神経痛、しびれなどを生じる。筆者もこれと同じ症状になった経験があり、とても不快である。

ケガをしてから、有給休暇をとり療養していた。7月19日の夜勤で、診断書を提出する為に短時間出社しただけで、引き続き休んだ。症状が治まり、整形外科医の判断も聞いたうえで、7月26日から仕事に復帰した。

本来なら労災申請の手続きをすぐに会社がして、普通に治療すればいい話である。しかし、会社に労災申請の手続きを頼んでも、すぐに進めてくれる気配はなかった。

これは普通ではないとA氏が感じたのは、8月23日に係長と初めて面談したときのことだ。

「仕事中に首を痛めたことを、係長は初めて知ったようでした。前もって職長(現場の上司)に診断書を提出していたのですが、それは職長の机の中に入ったままで、その時点で、係長は見ていなかったのです」

このころから、A氏と会社側とのやり取りが延々とつづくことになる。

8月24日には、人事部と組合に電話して、A氏は事情を報告した。そこで「報告書」という文書が作成された。報告書作成者はA氏と記載されているが、実際に書いたのは人事部の担当者である。そこには、事実と違うことが含まれていたのだ。

「たとえば、私が頚椎症性神経根症と診断された日付が違っていたり、現場の不具合は『オペレーターの復旧対応をしており』と書かれていたのですが、そういう事実はありませんでした。人が引っ張って起きたケガなんですが、あたかも機械でオペレート作業しているかのような書き方です」

8月25日には、この「報告書」を上司とチェックする作業をした。

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(左)当初会社が作成した「労働者死傷病報告」。両手で作業していたのに片手、手でつかんでいた場所も実際とは違う写真が添付されている。また、そり(シートを移動させる受け皿のようなもの)のひっかかりは40か所とA氏は把握していたが、20~25回と記載されている。P (右)社内向け死傷報告。もともと首に問題があったと申告したとか、もともと首に問題を抱えていた、などと虚偽の報告。そのために作業と今回の負傷の因果関係はないと断定されている。p ※赤線は筆者による。
「ところどころ事実と違う、と私は指摘したのですが、うやむやになってしまいました。労災申請したいという意思を伝えたら、いま進めている、とのことでした。さらに、会社内で作成する内部の『傷病報告書』(画像参照)を見せてくださいと要請しても、この時は拒否されてしまったのです」

自分のケガの事なのに、傷病報告書を見せてもらえなかったと言う。それどころか、上司から出たのは思いもよらぬ言葉だった。

「係長から突然、『あなたは適応障害の可能性があるから精神科に行ってください』と言われたのです

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朝、産業医から就業可能(復帰可能)とされたが、同日昼にはとつぜん「就業禁止通知書」を渡され帰宅させられた

工場内で作業中のケガにもかかわらず、会社はすぐに労災の手続きをとってくれなかった。それどこころか就業禁止通告され「退職勧奨」されたような危機感を感じたA氏は労働局にあっせんを求めた。その後、弁護士をとおして会社に職場復帰と労災手続きの申請をもとめたため、あっせんは実際には行われなかった。

復職にあたってスムーズに事がすすまなかったため、代理人をとおしてA氏はこの通知書を送った。これにより復職が決定した。

自ら声を上げ行動したことで、ようやく労災を受け付けられた。赤線は筆者。

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俺はトヨタ系2022/05/23 20:34
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