横山剛さん
1968年、東京都生まれ。慶応大学法学部を卒業後、第一生命保険相互に入社、ラテンアメリカなどへのプロジェクト・ファイナンスを担当する。「ノベル」「日本フィリップス」「サスインスティチュートジャパン」社などで法務部門に所属。04年10月「新銀行東京」に入行、07年10月まで在籍。
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新銀行東京が、内部情報を実名でマスメディアに証言した元同行員の横山剛さん(40)を相手取り、1320万円の損害賠償を求める訴訟を起こしたのは08年8月。反対や批判などを押さえ込むために恫喝、嫌がらせ、疲弊を目的とした民事訴訟を起こすという、典型的な「SLAPP」。同じくSLAPP被害経験者である烏賀陽氏が、横山さんのインタビューと訴訟内容の解説、そして同行の言い分を、3回にわたり掲載する。
(烏賀陽=うがや=弘道)
【Digest】
◇土曜の朝、何の前ぶれもなく
◇数百万は使っている
◇消費者庁をつくっても機能しない
◇目撃したこと、経験したことを基に「証言」しただけ
私がこの提訴のニュースを聞いた時に真っ先に思い浮かんだのは、私が被害に遭っているSLAPP訴訟「オリコン裁判」に気持ちが悪いほど手口が似ているということだ。結論を先に言えば、この「新銀行東京裁判」は「反対や批判などを押さえ込むために、恫喝、嫌がらせ、疲弊を目的とした民事訴訟=SLAPP」の要件を見事なほど満たしている。
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新銀行東京口封じ訴訟事件とは
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ずさんな経営により巨額の税金が投入されることになった新銀行東京の内部事情について、同行に在籍していた横山剛氏が、同行退職後に『週刊現代』『サンデープロジェクト』などの取材に実名で答えたところ、2008年8月、同行は1320万円の損害賠償を求める民事訴訟を、横山氏1人だけを対象に起こした。現在、一審係争中。内部告発者の口封じを目的としたものと考えられ、米国では約半数の州で法的救済措置のあるSLAPPの疑いが強い。
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◇土曜の朝、何の前ぶれもなく
--テレビ朝日や週刊現代の取材を受けたのは08年の5、6月ごろですね?
はい、去年の春のあたりになります。
--その内容が08年の6月に放送、出版された。
そうなります。
--すると新銀行東京は同年8月に提訴したわけですね。
そういったことになります。
--新銀行東京から横山さんご本人に訂正の申し入れや抗議などはあったんですか?
特段…まああくまで取材源である私の方には何も聞かされていない状態でして、訴状自体が、8月の上旬か中旬だと思うのですが、土曜日の午前中にいきなり訴状が送達されてきたという状況でした。
--どんなお気持ちでしたか?
よもや、ですね…もっぱらこうした新銀行のことについて証言をしたといいますのは、実質都営銀行ですし、多額の税金1000億円超の税金がドブに捨てられたと言われますけれども、そのことについて都民の方はじめあきらかにしたいという公のことにまつわることだという気持ちで証言してきただけです。特段、事柄を曲解してあおり立てるということはしてきたことはないんですが、何の前ぶれもなく、個人を相手にですね、しかも土曜日の朝、身動きも取れないときに…(烏賀陽:弁護士事務所も休みですしね)はい、崖から突き落とされたというか、追い詰められた気持ちがしました。
--そういう形で新聞や雑誌に批判記事が出たとしても、会見で新銀行東京の頭取なり石原知事が反論すればいいですよね。言論には言論で対抗すればいいはずですから。そういった動きはあったのですか?
一切そういった動きがなかったというのが私の感触です。都議会を含めて論戦や追及がなされてきたのですが、都議会での局長答弁なども曖昧模糊としてものでしたし、現頭取なども様々な融資詐欺が新銀行東京が問題になっていますが、記者会見に経営陣が出てきて説明する機会がなかったようですし、私がおこなった証言は憲法で認められている、いちばん重要視されている言論の自由に、銀行は言論で対抗することは特段なかったですし、いきなり裁判をぶつけてくるという形でした。
◇数百万は使っている
--民事訴訟は紙切れ一枚裁判所に提出すれば誰でも起こせる。刑事裁判とちがって誰でも起こせる、ある意味ハードルの低い裁判なわけです。しかも1320万円を個人に求める。しかも、民事訴訟では、反論しないでおくと相手の言い分を丸のみしたことになって、1320万円払わなくていけなくなってしまう。そういう恐ろしいシステムです。1320万円という金額をぶつけられてどう感じましたか?
正直言ってですね…個人にとって非常に大きい金額だと、そういう意味でも追い詰められた感じがしました.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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新銀行東京側が提訴した「訴状」の扉。被告は横山さんただ一人で、メディアも取材記者も訴訟から意図的に外している。ちなみに、新銀行東京の訴訟代理人である牛島法律事務所は、同行旧経営陣に責任をかぶせた「外部調査委員会」の委嘱先である。 |
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新銀行東京側が法廷に提出した「週刊現代」08年6月28日号。ラインマーク部分が横山さんの発言。「取材・文 阿部崇」と明記されているが、取材記者や発行元・講談社は訴えられていない。横山さんは取材を受けた一般市民に過ぎない。 |
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これも証拠として新銀行東京側が提出した「週刊現代」08年7月12日号。こちらも取材記者の青木理氏や発行元の講談社は意図的に訴訟から外されている。取材源を民事訴訟で狙い撃ちするSLAPPがまかり通れば、内部不正を告発する市民は絶滅してしまうだろう。 |
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