近未来シミュレーション小説「国債バブル崩壊後の社会」
『週刊東洋経済』3/28発売号 |
- Digest
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- 未達
- 日本を飛び出した男
- 外圧でしか変われない国
- アカデミックスマートの兄
- 日銀の国債買取
- 取り付け騒ぎ
- 進む円安とインフレ
- 外資による人材刈り込み
- 公務員給与5割カット
未達
その日が注目されるのも、無理からぬことだった。2013年10月×日、毎月1度の、10年物利付国債の入札日。
前日に、格付け会社ムーディーズが、日本の長期国債の格付けを「Baa」に引き下げると発表。「団塊の世代が65歳を超え始め、貯蓄を取り崩すと購入原資が足りなくなる」「大震災後の財政出動と不況による税収減で、国債残高が加速度的に増えている」などが理由としてあげられていた。
これで3年連続の格下げだ。ロシア・ブラジルより下だと話題になり、先物市場では売りが先行していた。財務省国債業務課は、クーポン(表面利率)を2.0%と高めに設定。前日より、国内金融機関に締め付けの電話攻勢をかけたが、今回ばかりは反応が芳しくなかった。
市場には、ある噂が流れていた。2009年に、亀井静香金融担当大臣のゴリ押しで始まった “中小ゾンビ企業”の借金返済を先延ばしにする「モラトリアム法」。これを3年延長している間に猶予総額は50兆円にも膨らみ、その大半が「隠れ不良債権」と化している実態が、金融庁検査で明らかになった、というのである。
自己資本比率の低下が避けられないなか、国債の大口引受け先であるメガバンクや地銀・信金には、格付けが下落基調の国債をさらに抱え込むリスクは負えない。前年に預入額の上限規制を撤廃したゆうちょ銀行だけが頼りだが、ムーディーズ指摘の通り、原資となる預金額が減り始め、もはや限界だった。
全6ページの短編未来小説 |
一方、政権は1年ごとに代わり、国民に痛みを求める財政再建は、ついぞ実行されなかった。
なかでも2012年末、菅首相が苦し紛れに消費税の5%引き上げを決めたものの、大震災後の長引く電力不足で景気は壊滅的な打撃を受け、税収が5兆円も減少。いわゆる埋蔵金も底をつき、5%分は、90兆円規模の歳出を継続するための、歳入の穴埋めに消えていた。
増税への反発から政権支持率は1桁台に落ち込み、任期満了直前で解散・総選挙に突入。
2013年9月に誕生した自民・みんな連立政権は、「選挙の顔」として活躍した石原伸晃首相のもと、子供手当や農家の戸別補償などの“過大支出”を止めた。ところが、代わりに新幹線や道路建設など公共事業費を増やす方針が示されていた。
結局、40兆円の税収に対し、同額以上の未来からの借金(=国債)を重ねて90兆円の予算を組むという“多重債務者体質”は変わらず、増税分は、砂漠に水が吸い込むがごとく消え、財政再建に使われることはないのだった。
まだ消費税率を引き上げる余地があるから借金を増やしても大丈夫――そんな「最後の砦」とも思われていた神話が泡と消え、もはやマーケットにマグマのように溜まったエネルギーは、抑えきれない状況だった。「万事休す」か――財務省には、半ば諦めムードが漂った。
10月×日、午後1時。発行予定額2兆円に対して、応募総数が9千億円余りにとどまるという大幅な「入札未達」が記者発表されるや、国債市場は暴落。先物主導で売り込まれ、ストップ安をつけた。“国債バブル”崩壊の瞬間だった。
日本を飛び出した男
「そりゃ、そうなるさ。遅すぎたくらいだ!
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この辺のシナリオはみんな考え始めてるよね。震災で更に早まった感じで。いまは電気代とかこの程度の値上げ案で済んでるけど貨幣価値が下がると燃料輸入だけで大変に
週刊東洋経済への寄稿小説。立ち読みしよう(苦笑)。
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読者コメント
三橋貴明は完全に間違い。国債は借金にあらずという嘘つきだ。問題ないのなら税金なんて廃止して全て赤字国債で予算を組めば良い。なぜそれが出来ないのか?渡邉正裕氏の方が完全に正しい(まともな人間は全部そう)
前回の参議院選挙に自民党から出馬された三橋貴明さんは財政問題は心配ないと主張されています。
詳しいことは彼のブログをご覧ください。
ブログはどこも管理人に同調しないといけないような空気がありますが、本当は意見の違う人どうしのやり取りを見てみたい。
当社現状、2010年売上約1億円借入金約2億円月間収支赤字、日本国とそっくりですがハイパーインフレで借金額が実質ゼロになるまでしぶとく営業継続予定!国債崩壊バブル早く来い!?
公務員は警察などを除けば時給500円でよい。
老人だけでなく大半の若者も泣くことになりそうな予感・・・
公務員給与6割カットしても時給900円超えか。手厚い福利厚生を思えば、これで充分。
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