疑問と矛盾噴出の「東金女児殺害事件」公判 勝木諒氏は本当に犯人なのか(下)
勝木氏が成田幸満ちゃんを拉致・監禁し、殺害したとされる現場の自宅マンション。監禁直後に自室の洋間①でテレビの話をした。幸満ちゃんが泣き出したのはその後で、勝木氏は「ショックを受けて」台所③に逃げ出したという。 |
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- 幸満ちゃんはなぜ逃げなかったのか
- 部屋で泣き出した幸満ちゃんに「ショック」?
- 目的が理解できないまま人工呼吸って?
幸満ちゃんはなぜ逃げなかったのか
2010年12月22日、千葉地裁2階の2号法廷での審理について記述を続ける。
法廷では勝木諒氏に対する弁護側の被告人質問が続いている。質問に立つのは主任弁護士の土屋孝伸弁護士だ。
土屋氏は千葉県弁護士会の会員で、無実を主張していた副島洋明弁護団長が辞任したあとを受けついだ。千葉地裁管内の破産事件の管財人や、刑事弁護センターの仕事をしている。2000年に弁護士登録をした比較的若手の弁護士だ。先に触れておくと、勝木氏に対して一審で懲役15年の判決が出た今年3月の後、弁護人を辞任した。
その土屋弁護士の質問は、殺害現場とされる自宅マンションの中の状況に及ぶ。
マンション3階の自宅まで幸満ちゃんを路上で拉致し、体を抱えて無理やり連れてきた勝木氏は、自分の部屋である洋間に二人で入り、テレビの話をしたという(写真の場面1参照)。自宅に到着して洋間に入るまで、幸満ちゃんが泣いたり抵抗したという話は出てこない。泣き出すのは部屋でテレビの話をしはじめた後のことだ。
拉致されるという乱暴を受けながら泣いていないというのは不思議な感じがした。
5歳の健康な女の子がこうした場面に直面した場合、普通に考えればどんなことになるのだろうか。筆者は後に、知的障害者の介助ボランティアをした経験を持つある男性に状況を説明して意見を求めた。彼はこう言った。
「5歳児なら自分で鍵を開けて逃げますよ。そのくらいのことはできます。知的障害者よりはるかに機敏です。噛みついたり、ひっかいたりして逃げるでしょうね」
なるほどと思った。幸満ちゃんはなぜ自力で外に逃げなかったのか。5歳にもなれば、マンションの鍵を開けて外に出るくらいわけないはずだ。部屋でテレビの話をしているうちに幸満ちゃんは泣き出す。それを見た勝木氏は洋間を出て台所に逃げる(場面3)。幸満ちゃんはひとりになる。玄関はすぐ近くにある。
土屋弁護士との次のやり取りをみても、たとえば勝木氏が激高していて恐ろしくて逃げられないといった状況ではなさそうだ。土屋 あなたは(女の子が)泣いた様子を見たときにどう思いましたか?勝木 …たぶん怖かったんだと思います。
土屋 あなたの気持ちはどうなりましたか?
勝木 怖い気持ちの女の子を見て、少しは良心が痛みました。
土屋 それから、どういう行動に出ましたか?
勝木 一応、台所から自分の部屋に戻りました。
土屋 戻ったら女の子の様子はどうなっていましたか?
勝木 泣きやんでいました。
土屋 その後、どんなことがありましたか?
勝木 …部屋に入って…また泣きはじめました。
ところが幸満ちゃんは逃げていない。逃げようとした痕跡も見つかっていない。玄関ノブにも指紋はついていない。
検察側が描く展開に沿って、勝木氏が幸満ちゃんを連れて現場の自宅マンションに到着し、殺害するまでの行動を図にする(青が勝木氏、赤が幸満ちゃん)。 |
部屋で泣き出した幸満ちゃんに「ショック」?
やがて台所に逃げ出した勝木氏が洋間に戻る(場面4)。このとき幸満ちゃんは泣きやんでいたという。やや冷静さを取り戻していたことになる。泣きやんでいた幸満ちゃんは、勝木氏の顔を見ると再び泣き出した。
土屋 それはなぜ泣き始めたんでしょうか?勝木 私の顔を見たからです。
土屋 二度泣かれて、あなたはどう感じましたか?
勝木 …テレビの悪役だと思ったんだと思います。
土屋 女の子が悪役と思ったんじゃないかと…
勝木 はい。
土屋 どう思いましたか?
勝木 最初にショックを受けました。
土屋 その後は?
勝木 …その後は少し黙ってました。
土屋 泣きやんでもらうために何かしようとは思わなかった?
勝木 …廊下までその時はまだ行っていません。
土屋 廊下に行くまで洋間で何をしていたんですか?
勝木 女の子がただ泣いていて、私はずうっと黙っていました。
土屋 ほかに女の子はどんなことを言っていた?
勝木 そのときは泣いているだけです。
体を抱えて連れてきた勝木氏は、幸満ちゃんが部屋の中で泣き出したのを見て「ショックを受けました」という。つまり少なくとも部屋に入るまでは幸満ちゃんは穏やかだった。そう考えなければつじつまが合わない。しかし連行中の幸満ちゃんは足をバタバタさせて抵抗したとされる
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マンションの入り口上部に住民が取りつけた監視カメラがある。だが勝木氏が幸満ちゃんを連れて入る様子は映っていなかったという。
勝木氏がよく行っていたというショッピングセンター「サンピア」。事件当日も勝木氏はサンピアを訪れていた。
決定的物証とされたのは被害者の衣服が入ったレジ袋の指紋だった。弁護側の鑑定では別人の指紋という結果が出た。袋は2つあり、1階駐車場にとめていた車の下から見つかった。マンション3階のベランダから放り投げとされる。なぜ車の下に入ったのかは判然としない(写真の車は事件と無関係です)
勝木氏が幸満ちゃんを抱きかかえて連行したとされるマンション。3階の自宅に行くには外から見える通路を通る必要がある。目撃者や声を聞いた人はいない。「泣き叫んだ」と東京高裁の村瀬均裁判長は事実認定したが、叫び声を聞いた者もいない。
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