My News Japan My News Japan ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

疑問と矛盾噴出の「東金女児殺害事件」公判 勝木諒氏は本当に犯人なのか(上)

情報提供
ReportsIMG_J20110922132220.jpg
2008年9月21日の午後、5歳の成田幸満ちゃんが裸の死体で発見された千葉県東金市の現場(手前の黄色い柵付近)。2ヵ月後、東金署は左手奥のマンションの3階に住んでいた知的障害者の勝木諒氏を容疑者として逮捕する。
 千葉県東金市の資材置場で2008年9月21日、5歳の女児成田幸満ちゃんが死体で見つかった「東金女児殺害事件」。犯人として逮捕・起訴された知的障害者の勝木諒氏に、今年3月4日、千葉地裁の栃木力裁判長は懲役15年を言い渡した。弁護側の控訴により東京高裁で控訴審が行われたが、即日結審し、9月29日に判決がある。有罪が翻る可能性は極めて低い。だが一審の審理を傍聴した筆者は、勝木氏が犯人だとは思えないでいる。当初無罪を主張していた弁護団は「勝木犯人説」に転じた。その理由も判然としない。真相はどこにあるのか。一審での被告人質問を再現しながら事件を検証する。
Digest
  • 無罪主張を翻した弁護団
  •  「裁判官は何する人?」「…わかりません」
  •  供述調書と自筆メモの矛盾
  •  二転三転する供述
  •  幸満ちゃんとすれ違った場面
  • 拉致連行中「足バタバタ」を見ていない不思議
  • 抱えて連行した直後に「テレビの話をした」?

無罪主張を翻した弁護団

千葉地検が勝木諒氏を起訴したのは2009年4月17日、起訴内容は次のとおりだ。


1 2008年9月21日午前11時40分ころ、千葉県東金市路上において、成田幸満(当時5歳)を見かけるや、略取しようと企て、その体を抱きかかえて同市内の被告人(勝木)方まで連れ去って同児を自己の支配下に置き、もって未成年者を略取した。

2 そのころ、被告人方浴室において、殺意をもって、同児の体を抱きかかえて浴槽内に落とした上、同児の体を手で押さえつけて浴槽内の水中に沈め、よってそのころ、同所において、同児を溺死させて殺害した。

3 同日午後零時20分ころ、同児の死体を、前記被告人方から同市内の資材置場付近まで運んだ上、同所に放置し、もって死体を遺棄した。


勝木氏が問われたのは、未成年者略取、殺人、死体遺棄の三つの罪である。参考までにつけ加えれば、略取現場から連行先である勝木氏の自宅までの距離はおよそ300メートル。勝木氏の自宅はマンションの3階にある。また、自宅から遺棄現場までは100メートルほど離れている。計画性はない。成田幸満ちゃんは身長109センチ、体重は18キロだった。いたって健康な5歳児だった。

この起訴事実に対し、弁護団は当初、公判がはじまる前の段階で「勝木諒氏は無実だ」との主張を行っていた。当時の言い分はこうだ。


殺害現場の自宅からは幸満ちゃんの痕跡が何一つ見つかっていない。唯一の物証とされる被害者の衣服が入ったレジ袋の指紋は、独自鑑定の結果、勝木氏のものではなく別人のものであることが判明した。供述は二転三転しており信用性・任意性が強く疑われる。勝木氏は運動能力がきわめて低く、体重18キロの幸満ちゃんを抱えて素早く犯行を実行することは不可能。どんなことを言われても相手の望むとおりに「はい」と言ってしまいがちな知的障害者特有の冤罪事件である。 


犯行を再現する実験も行い、その結果を踏まえて記者会見を開くほどの自信だった。会見の内容は「東金幼女殺害事件、警察・検察・マスコミでデッチ上げの疑い濃厚」でも報じたとおりだ。検察によれば被害者の服が入っていたレジ袋の指紋が勝木氏のものと一致したとされていたが、弁護側が独自鑑定した結果は「別人の指紋」だった。

ReportsIMG_I20110922132220.JPG
指紋鑑定や検証実験の結果、勝木氏は無実だと記者会見で訴える元弁護団長の副島洋明氏(2010年1月25日)。副島氏は同年4月に突如理由を告げないまま弁護団を辞任、後任の土屋孝伸弁護団長率いる弁護団は一転して無罪を撤回、勝木有罪説を主張する。だが無罪撤回の決定的な根拠は明らかではない。

公判開始前に争点を整理する「公判前整理手続」が延々と繰り返された。無罪を主張する弁護側と検察側の真っ向対決かと思われた、その矢先の2010年4月、異変が起きる。弁護団長の副島洋明氏が突如辞任したのだ。理由は不明。後任の弁護団長は土屋孝伸氏が引き受けた。そして土屋氏が率いる新弁護団は、一転、無実を撤回して勝木氏が犯人であるとの主張をはじめた。無実の決定的証拠だったはずの指紋鑑定書も、公判での証拠提出をやめてお蔵入りにさせてしてしまった。

こうした不可解な経緯を経て昨年12月、起訴から1年8ヶ月という異例の長い間を開けて、一審千葉地裁の公判がはじまった。そして、検察側が主張する犯行事実にいっさい争いのないまま懲役15年の有罪判決が下されたのである。

弁護団はなぜ無実の方針を変えたのか、指紋鑑定についてなぜ争わなかったのか、決定的な新証拠でもあったのか。疑問を抱きながら筆者は一連の裁判を傍聴した

この先は会員限定です。

会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。

  • ・本文文字数:残り9,078字/全文10,663字

勝木氏が日ごろ出入りしていたショッピングセンター「サンピア」。知人によれば、おもちゃ売り場やCDコーナーにいるのをよく見かけていたという(東金市)。

幸満ちゃんを勝木氏が拉致したとされる現場に近い「ツルハドラッグ」駐車場。付近は人通りが絶えないが、目撃者はいない(東金市)。

犯行当日、「第2エントランス」まで入って、中には入らなかったという東金図書館。だが、現場を訪れてみると第二エントランスに該当する設備はなかった。

勝木氏が幸満ちゃんを抱きかかえて連行してきたとされる自宅マンションの1階ロビー。どうやって3階の自宅に入れたのか、幸満ちゃんの様子はどうだったのか、具体的な状況は公判では語られなかった。

公式SNSはこちら

はてなブックマークコメント

もっと見る
閉じる

facebookコメント

読者コメント

一般人2011/09/29 13:12
otsuba2011/09/29 00:50
※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。
もっと見る
閉じる
※注意事項

記者からの追加情報

本文:全約10800字のうち約9300字が
会員登録をご希望の方はここでご登録下さい

新着のお知らせをメールで受けたい方はここでご登録下さい(無料)