過労死企業名は開示できるか。大阪地裁の判断のまとめ。
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過労死を出した企業名の開示を求める裁判で、大阪地裁の田中健治裁判長は今月10日、企業名の開示を命じる判決を下した。原告は、「全国過労死を考える家族の会」代表の寺西笑子さんで、原告側の全面勝訴だった。主な争点は、企業名が開示されると(1)個人を特定につながるか(2)企業の利益を害するか(3)行政事務に支障を及ぼすか--の3つだったが、被告である国の主張は、完全に否定された。企業名を隠したがる国の論理とは、どのようなものなのか。判決文をもとに争点を整理して分かったことは、出したくない情報は無茶な理由をつけてでも出さない、という国の姿勢だった。(判決文と原告弁護団声明は末尾よりPDFダウンロード可)
【Digest】
◇「公共放送業」記者、労災認定されても企業名はスミ塗り
◇当初、不開示理由は1つだけ
◇争点1:企業名は個人情報に該当するか
◇争点2:開示は企業の不利益になるか
◇争点3:行政の事務遂行に支障が出るか
◇判断外:企業名は生命健康を保護する情報か
◇過労自殺は「判決の射程外」
◇「公共放送業」記者、労災認定されても企業名はスミ塗り
過労死を出した企業名の開示を求める裁判で、大阪地裁の田中健治裁判長は今月10日、企業名の開示を命じる判決を下した。原告は、「全国過労死を考える家族の会」代表の寺西笑子さん。原告側弁護団は「全面勝訴」と判決を評価している。
争われたのは「処理経過簿」と呼ばれる文書に記載された企業名の部分。処理経過簿には、どの企業の、どのような職業の人が、どのような疾患を発症し、労災申請の結果はどうだったか、どこの労働基準監督署がいつ決定を出したのか--など、労災処理に関する経過が記されている。
一部が開示された処理経過簿からは、たとえば、公共放送業の記者・編集者が長期加重により脳内出血を発症、大阪中央労基署が09年1月5日に労災認定していることが分かる。生死の別は開示されておらず不明。企業名もスミ塗りされているが、業種が「公共放送業」となっていることから、NHKと思われる。
大学教員がくも膜下出血を発症したが、08年7月29日、茨木労基署により不認定となったことも分かる。やはり生死の別は不開示、所属していた大学名も明らかにされていない。
寺西さんは09年3月、大阪労働局が作成した処理経過簿のうち、「脳血管疾患および虚血性心疾患」を発症し労災認定されたケースに限定して企業名の開示を求めたが、労働局は、個人が特定されることを理由に企業名などの不開示とした。寺西さんは、この決定の取消しを求めて09年11月、大阪地裁に提訴していた。
脳血管疾患あるいは虚血性心疾患を発症して死亡した場合は過労死になるが、請求では生死の別は区別しなかった。
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判決の主文、請求、結論(原告弁護団提供) |
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裁判では大きな争点が3つあった。企業名が開示されると、(1)個人が特定されるおそれがあるかどうか(2)企業の利益を害するおそれがあるかどうか(3)行政の適正な事務遂行に支障を及ぼすおそれがあるかどうか、だ。
国が裁判で主張したのは、企業名が開示されると、(1)その他の情報と合わせて個人を特定できる可能性が生じる(2)企業の信頼を低下させ、取引で不利になる可能性が生じる(3)企業が労基署の調査に非協力的になる可能性が生じる、といった理由だった。
◇当初、不開示理由は1つだけ
裁判以前の段階で国側の主張は、企業名が開示されるとその他の情報と合わせて個人を特定できる可能性が生じるという1点だけだった。行政文書開示決定通知書から、請求内容と不開示理由を見ておきたい.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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争点1「企業名は個人情報に該当するか」の各要素について、原告被告の主張と裁判所の判断のまとめ。 |
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争点2「開示は企業の不利益になるか」の各要素について、原告被告の主張と裁判所の判断のまとめ。 |
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争点3「行政の事務遂行に支障が出るか」の各要素について、原告被告の主張と裁判所の判断のまとめ。 |
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判断に至らなかった争点の各要素について、原告被告の主張のまとめ。 |
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