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マイクロソフトディベロップメント「パワハラ解雇」訴訟 日本HP事件判例が示す被害妄想系社員への正しい対応

情報提供
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右がマイクロソフトディベロップメント社長の加治佐俊一氏。左は、兄弟会社にあたる、日本マイクロソフト社長の樋口泰行氏。奇しくも同氏は03年5月1日~05年5月31日まで、日本HP社長だった(事件発生の時期とは直接、被っていない)。
 マイクロソフトディベロップメントの社員A氏(30代、男性)は、「上司からパワハラを受けた上に不当解雇された」として2011年12月、会社を相手取り、解雇無効を求める訴訟を東京地裁に起こした。これに対し、会社側は今年3月、199ページに上る答弁書を作成して反論。それらによると、原告は被害妄想に陥ったと確かに見受けられるが、会社側は「常人」に対するかのように扱い、解雇するに至った。本件を、今年4月に決定した同様の日本HP事件最高裁判例に照らし合わせると、会社側の言い分を採用した場合でさえ、会社の対応に非があると読め、原告勝訴の可能性が十分にある。最高裁は、精神的な病を患った社員に対し、治療・休職・経過観察することなく解雇するのは違法、との判断を下している。
Digest
  • 199ページの分厚い答弁書で反論
  • 初期対応の鈍さが被害を拡大
  • 「幻聴の可能性はないか?」人事部
  • 退職勧奨、PIP(業績改善プログラム)、解雇
  • 被害妄想系の社員に対する最高裁判決

199ページの分厚い答弁書で反論

米マイクロソフトの子会社マイクロソフトディベロップメントの社員A氏が、解雇無効を求める訴訟を東京地裁に起こしたのは2011年12月。

これに対し、マイクロソフトディベロップメント側は、今年3月、199ページに上る分厚い答弁書を作成して反論した。そこにはA氏の言動や社内の対応を、メールのやり取りなど、記録が残っているものに基づき、時系列で詳細に記録し、事実でもって反論する構成になっている。詳しくは後述するが、一言で言うと、会社側には、全く非がない、といわんばかりの答弁書だった。

ちょうどそうした中、ある事件の最高裁の判決が下った。当サイト11年1月に掲載した日本ヒューレットパッカード(日本HP)事件である。同事件は、原告K氏が、社内で嫌がらせを受けたことを発端に、集団ストーカーに遭っているという被害妄想と見られる症状に陥り、日に日に精神状態は悪化し、ついには会社を無断欠勤して、解雇された事件。その後、K氏は、不当解雇であるとして会社を訴え、一審は敗訴になるも二審で逆転判決となり、4月27日、最高裁で原告の勝訴が確定した。

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2012年4月27日、最高裁判所第二小法廷で日本HP事件の判決が下った。画像はその最高裁判例。最高裁サイトより

後述のように、日本HP事件はマイクロソフトディベロップメント事件と似ている。つまり、最高裁判例に照らし合わせてみると、マイクロソフトディベロップメント側に非があるように読めるのだ。どういうことか、説明しよう。

初期対応の鈍さが被害を拡大

上述の分厚い答弁書に基づくと、この事件は、大きく前期、中期、後期の三つの段階に分けることができる。前期から詳説する。

A氏は、06年にマイクロソフトディベロップメントに入社。

07年2月頃から、直属の上司Ⅹに、メールの返信が遅い、などと非難されるようになる。同年4月には、毎年恒例の花見の幹事役にA氏が指名され、こんなことが起きた。2次会の帰路、Xなど上司2名が、A氏のことを幹事としての役割(日程調整、飲食物の手配など)を果たせていなかった、と批判し、「気が利かない」「自分たちの言う通りにしなければ、3か月以内にクビにする」などと発言。それ以降、Xは、嫌みを言ったり、罵声を浴びせたり、机をこぶしで物が動かんばかりにバンバン叩いて批難したこともあった、とA氏は訴えている。

証拠書類として会社側が提出した当時のXとA氏のチャットの記録には、仕事の納期に関して、次のやり取りがあった。

15時58分09秒 X 返事は?

15時58分32秒 A はい、今日中に、出来そうかちょっと検討してみます。

15時58分45秒 X 今すぐに出せ!

15時58分49秒 X なんで、今日中なの?

15時59分29秒 A 明日とかに伸ばして貰っても大丈夫ですかね?

16時00分26秒 X それをメールで相談してるんだろ?

16時01分25秒 X 今日中に確認できる量だと思うけど、他に何か作業入ってる?

16時01分30秒 A 突貫で見れば何とかなりそうな気はしますが、それでは何かあるかもしれないので

16時01分35秒 X おれのこの質問に対する返事は?

こういった調子で、Xに罵声を浴びせられ続け、A氏は精神的に苦しみ、業務にも支障をきたしかねないほどだった。

2007年8月、A氏は人事部Iに「相談したい内容があり、お時間頂くことは可能ですか?」とメールして面談した。(人事担当は、日本マイクロソフトの人事部が兼ねている)

A氏は「Xからハラスメントを受けている」と打ち明けた。これに対しIは、Xに対して人事部から注意を行うことを提案。A氏は「考えさせてください」といって回答を保留。その後、A氏の名前を開示しないことを条件に、注意することに決まった。

こうして人事部Iは、Xに対し口頭で「管理職として、部下に対する態度や言葉遣いに気をつけるように」という内容の注意をした。

だが、その二日後、「人事に言ったのはあいつに違いない」「しぶとい奴だ」「早く皆で潰しておいて」などとXが話しているのを聞いた、とA氏はIに報告している。(Xは否定)

Iは、ハラスメントの具体的な事実経過をまとめて報告するよう、A氏に依頼。

A氏は、上述の、メッセンジャーの記録や、花見の席での上司の暴言などの出来事を、文章にして報告した。が、Iの対応は冷たかった。「これだけでは背景が分からないので、このメールのみで行き過ぎた指導とは認定できません」といい、5W1Hでまとめるよう、再度A氏に要求したのだ。しかし、何月何日の何時の時点での発言なのかまで、いちいち把握している人は少ないに違いない。A氏は、その後、5W1Hで再送しなかった。

ここまでが「前期」である。この間、Xは半年以上にわたり、パワハラを受けているとA氏が感じるほど罵倒していた。しかも、そのことをA氏は人事部に告げたのに、人事部は、口頭注意のみで、事態を深刻に受け止めなかった。

人事部がA氏のサインを早くから見逃さなければ、後述の事態は防げていたはずである。

なお、日本HP事件も、原告K氏(30代、男性)のプライベートなことについて、同僚が社内で陰口をたたく、という、一見些細に見える嫌がらせが発端だった。だがそれが、K氏を想像以上に精神的に苦しめ、上司に相談したが、執拗な「ささやき」は続いた、と原告は訴えている。

初動対応の鈍さが被害を拡大させた点が、両事件は似ている。

「幻聴の可能性はないか?」人事部

次に中期をみてみよう。この時期のA氏は徐々に異変が見られるようになっていく。

まず、2008年4月に入り、こんなことがあった

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日本HP最高裁判決全文

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たかはし2015/11/13 20:57
たかはし2015/11/13 20:57
たかはし2015/11/13 20:57
たかはし2015/11/13 20:56
迷惑な書き込み者へ2015/10/27 06:00会員
 2015/08/25 22:37
  2015/08/25 00:03
 2015/08/12 00:42
2015/08/01 23:23
しん2015/05/26 13:34
まつもとじゅん2015/01/29 20:14
まつもとじゅん2015/01/29 20:09
まつもとじゅん2015/01/29 19:53
まつもとじゅん2015/01/29 19:50
まつもとじゅん2015/01/29 19:49
まつもとじゅん2015/01/29 19:48
まつもとじゅん2015/01/29 19:48
マイクロソフトの病人2015/01/23 04:18会員
まつもとじゅん2015/01/20 09:52
まつもとじゅん2015/01/20 09:39
まつもとじゅん2015/01/20 02:07
まき2015/01/19 22:32
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