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日本HP「欠勤40日で諭旨解雇」裁判、二審で元社員が逆転勝訴

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画像1:日本HP解雇訴訟・控訴審判決の主文。「原判決を次のとおり変更する」として、「控訴人が、被控訴人に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する」とあり、一審の原告敗訴からの逆転判決となった。
 日本ヒューレット・パッカード(HP)の元社員が不当解雇の裁判を起こしていた件で1月26日、東京高裁で逆転勝訴の判決が出た。この解雇は、元社員が職場内で嫌がらせに遭っていると訴え、会社側に実態調査を依頼。その間、社員は有給休暇を使い切り、さらにその後40日間、会社を休んだ。日本HP側は、そのことを理由に論旨解雇(退職金は受け取ることができる)としたが、控訴審では、無断欠勤には当たらないとの判決が下り、解雇無効とした。日本の判例法における正社員の解雇が、いかに特別なものであるか、経営側から見ればどれほどハードルの高いものか、を物語る判決だ。その詳細を報告する。(二審判決全文はPDFダウンロード可)
Digest
  • 職場の嫌がらせ
  • HPの社風を信じて調査依頼
  • 欠勤40日で論旨退職処分
  • 「え? なぜ解雇なの?」
  • 逆転勝訴判決

職場の嫌がらせ

日本HPは、コンピュータ・システム、ソフトウェア製品などの開発・製造・販売などを手掛ける企業で、アメリカに本社を置くヒューレット・パッカード社(HP)の子会社である。日本HPの社員は約5400人。

HPは創業以来、クリーンなイメージの企業として有名だ。がしかし、日本HPの元社員が、「不当解雇された」として会社を訴えていることを、労組のホームページの告知などにより筆者は知った。元社員に取材した。

元社員はK氏(30代後半、男性、本人の希望により、本名、正確な年齢、モザイク入り顔写真や後ろ姿など容姿の撮影は、一切非公表)。

K氏によると、不当解雇にいたった経緯は以下のようなものだったという。

K氏は、日本HPに、2000年下旬に入社。職場は都内の荻窪事業所だった。職種は一貫してシステムエンジニアで、仕事は順調で、充実した日々を過ごしていたという。

しかし、2006年半ば頃から、状況は一変した。

「職場の嫌がらせに遭うようになり、同僚から執拗に陰口をささやかれ続けました」。

嫌がらせは次のようなものだという。(K氏のプライバシーにかかわる部分と、嫌がらせの関係者とされる人物の本名は、K氏の希望により伏せている)嫌がらせは、はじめは同僚の男女各一名、計二人から始まった。

「経理をする事務員の女性が、嫌がらせの中心でした」。

発端は、プライベートでK氏が通っていた秋葉原の喫茶店のウィトレスとの間の、恋愛観を巡るいざこざだった、という。

そのいざこざの直後から、職場で昼食時に、プライベートのことを何も知らないはずの同僚から突然、「こうしているうちにも、君の家に誰か女性が、奥さんのフリをして、上がり込んでいるかもしれないよ?」と言われ、「どういうことか?」と問いかけても返事をしてこない。そういった「会話の中で何の脈絡もなく出てくる、男女間のいざこざの事を想起させる言葉」が、同僚との話の中で頻繁に飛び出すようになった、とK氏は説明する。

不自然な会話や、これみよがしに聞こえてくる同僚たちの「ささやき」は、半年続き、仕事に集中できないK氏は上司に相談し、席を上司のそばに変えてもらった。しかし、二カ月もすると、ささやきが、またもや始まった。

ささやきの内容は、K氏が社外の友人に酒の席でもらした、社内人事に関する情報だった、という。

それは通常なら社内の人間が知り得ない情報のはず…そう感じたK氏は、何者かにストーキングされて、身辺情報が、メーリングリスト、MixiなどのSNS、ネット掲示板、チャットなどの、何らかのサイトを通じて流され、そこで同僚たちが情報を共有している、そうに違いない、と考えるようになっていった。

K氏は上司に相談して、改めて上司の多い席に変えてもらった。それから半年ほど、すべてが思い過ごしだったのではないかと思うほど平穏な日々に戻ったが、やがて嫌がらせは再燃したという。

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画像2:画像上は日本HP荻窪事業所ビル、下は同ビル1階

HPの社風を信じて調査依頼

K氏は、仕事を続けることに限界を感じ、有給休暇を取り始めた。

そして4月に入り、会社に嫌がらせの実態調査を依頼した。そのときの心境をK氏はこう語る。

「ヒューレット・パッカードはもともと社員の不正には厳しい会社ですし、私も会社に貢献してきたつもりでしたので、取り締まってくれるだろう、そう思っていました」

会社側の窓口は人事部労務担当部長O氏となった。その後、K氏はO氏と電話で3回話している。いずれも有給休暇中でのことだった。

1回目は、5月上旬。約1時間にわたり、嫌がらせの内容を詳しく伝えた。

続いて5月下旬。O氏は、「調査した結果、被害事実はなかった」と述べた。K氏は、「関係者にヒアリングしたのでしょうが、被害事実はなかったというのはおかしい。ICレコーダーで録音しており、事実はあるので、もう一度確認してほしい」と訴えた。O氏はもう一度確認すると答えた。

それから3日後。「やはり、被害事実はない」という。このままでは埒があかない、そう思ったK氏は、より権限の強い、社内の正式な調査部門の「ビジネス倫理ヘルプライン」という部署に依頼することにした。もともと人事部O氏の調査は、K氏側がコトを荒立てないよう配慮して、正式ルートを通さずに調査を依頼したものだったのだという。

K氏は、正式な調査部門のことを、厚く信頼していた。HPでは企業の重役でさえも、不正を行えば厳格に裁かれる社風だからだ。例えば、これは後に発覚したことだが、アメリカ本社では、2010年8月6日、HPのCEO(会長兼社長兼最高経営責任者)が、元契約社員からセクハラの訴えを受けて、会社側が調査をしたところ、セクハラ関連の不適切な経費請求が発覚し、CEOが辞任している。

こうした社風をK氏は誇りにしている。「だから当然、社員が正式に職場の嫌がらせを訴えたのだから、会社がしっかり調査してくれることを信じて疑いませんでした」。しかし、会社の対応はK氏の期待を裏切るものだったという。

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画像3:画像上は訴状表紙。画像下は昨年7月にK氏の所属する日本労働評議会が作成したビラ

欠勤40日で論旨退職処分

人事部O氏と3回目の話し合いをしたのは、ちょうどK氏の有給休暇が切れる日だった

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画像4:二審判決文のうち、判決理由の主要箇所。(全文は記事下よりPDFダウンロード可)

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spock_f2012/07/06 02:46

高裁で逆転勝訴するとはすごい!画期的!

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gs_damaged2011/08/25 00:11

職場での集スト被害

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twilightmoon992011/01/31 10:29

なんてかんばしい職場なんだろ、ヒューレットパッカード(嗤

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Rein2012/04/29 18:09
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