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海水浴場“職質”転落死事件 落下実験でも愛知県警の「証言」と矛盾、偽証濃厚に

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高木勇吾さんが落下した様子を再現した実験。青色の人物は想像図。警察は、手を出したが届かなかった、バランスよく頭を上にして落ちていった、と証言する。だが、そのとおりに再現したところ、鉄柵の位置(A点=赤線部分)を軽く飛び越す結果になった。事故現場では、高木さんの首が鉄柵に刺さり、体は後方に残っていた。(7月18日、名古屋市内)
 愛知県の海水浴場を妻子・友人と訪れた高木勇吾さん(享年25歳)が見知らぬ男女らから「痴漢をした」と言われ、警察に連行された挙句に建物の2階から転落死した事件で、筆者はこのほどボールを使った落下実験を行った。「(高木さんは窓から)バランスよく飛んだ」という警官の証言どおりに再現したところ、落下の軌跡が大きく矛盾する結果となった。証言が偽りであり、それを鵜呑みにした名古屋地裁判決も誤っている可能性が高い。また、海の中で痴漢をした――と疑われた高木さんが実は泳げなかったことも判明。高木さんは警察の取り調べの過失によって亡くなったのではないか。事件から4年、控訴審は8月2日午前10時、名古屋高裁1003号法廷で始まる。(実験ビデオ3本つき)
Digest
  • 控訴審は8月2日10時、名古屋高裁1003号
  • 実寸のセットでボール落下
  • 30回投げて27回で「鉄柵」越え
  • 警官の証言ではあり得ない「鉄柵に首」
  • 無視された「バランス崩し前のめりに落ちた」証言
  • 高木さんは泳げなかった

控訴審は8月2日10時、名古屋高裁1003号

事件は2008年8月3日(日曜日)、4万人を超す人出で賑わう愛知県の千鳥ヶ浜海水浴場で起きた。概要は「千鳥ヶ浜海水浴場〝職質″転落死事件『死人に口なし』で愛知県警ウソつきまくりか」で報じたとおりである。高木勇吾さんは友人と浜を散歩していたとjころ、見知らぬ男女グループから「痴漢をした」と言いがかりをつけられ、駆けつけた警察官によって「任意同行」された。連れていかれたのは愛知県警半田署が臨時詰所に使っていた建物の2階だ。そしてしばらく後、高木さんはそこの窓から飛びだした。結果、階下の鉄階段上に墜落、首に鉄杭が刺さるなどして死亡した。

高木さんの死亡は警察の不当な行為によるものだとして、遺族は愛知県や警察官を相手どって国家賠償請求訴訟を起こした。愛知県弁護士会の垣内幹氏が代理人弁護士となって、真相解明と警察の責任追及を試みた。だが今年3月、名古屋地裁(長谷川恭弘裁判長)は請求を棄却する遺族側敗訴の判決を下した。

 争点のひとつは、高木さんが窓から飛んだ際、現場にいた警官2名がとっさに出した手が高木さんの足を捉えたかどうか、という点にある。原告・遺族側は「警官らの手が高木さんの足を掴んだ、あるいは払った」と主張。一方の愛知県側は「手は出したが届かなかった」と反論し、まっこうから食い違った。

この点について長谷川裁判長は、遺族側の主張をすべて切り捨てた。そして愛知県の言い分を100%採用した。つまり「警官の手は触れなかった」「バランスよく頭を上に落ちていった」と事実認定したのである。

 筆者は判決に疑問を持った。

(本当にそうなのか、警官の手は触れなかったのか、高木さんはバランスよく飛んだのか)

、模型を使って検証を行った。そして愛知県の言うとおりに再現したところ、高木さんの推定落下点は実際の落下地点よりも大きく異なるという矛盾した結果となった。これも「千鳥ヶ浜海水浴場〝職質″転落死事件『死人に口なし』で愛知県警ウソつきまくりか」で触れている。詳しくはそちらを読んでほしい。

当然、遺族は判決に納得がいかない。今年4月、名古屋高裁に控訴した。その控訴審の第1回口頭弁論が8月2日午前10時から名古屋高裁1003号法廷で開かれる。遺族の代理人は引き続き垣内幹弁護士が行う。担当裁判官は、長門栄吉裁判長のほか、内田計一・山崎秀尚各氏だ。

 一審がだめでも二審があるから大丈夫、裁判官はわかってくれる――。そう楽観する人は多い。だが筆者は心配だった。

(最悪の場合、控訴審は即日結審して棄却されるかもしれない――)

そんな気がしてならない。偏見なく謙虚な姿勢で事実に向き合う裁判官ばかりであれば、慎重に審理をやり直すべき事件だろう。だが実態は違う。強いものには弱く、弱いものに強いという不公平な裁判官はいくらでもいる。冤罪事件をはじめ理不尽で不公正な裁判は枚挙にいとまがない。

 高木さんの事件に関心を払う人は決して多くはない。おざなりに扱われる恐れはより高いというべきだった。

何かできることはないだろうか。筆者は考えた末、あらたな実験を行うことにした。前回の模型実験を踏まえ、現場の状況により近い形で再現を試みるのだ。検証の主眼は2点。

① 警官の手は高木さんの足に触れなかった

② 高木さんはバランスよく頭を上にして落ちていった

 ――という愛知県側の主張、および名古屋地裁が認定した事実が、実際に再現可能なものなのかどうかを確かめる。愛知県の言い分に沿って実際にモノを落としてみて、その結果をみてみよう、という試みだ。

本稿の主題はその報告にある。

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高木さんの落下状況を再現するための実寸実験。準備状況。ベランダの奥1・35メートルの位置から飛び、どこに落ちるかを観測した。A点は高木さんの首を貫いた鉄柵のあった位置。左下の見取り図は、現場を上から見た図。

実寸のセットでボール落下

事故現場で実際に窓から飛び出してみるのが最適の実験方法だが、問題の建物は現在立ち入り禁止となっている。そこで、似た環境が再現できそうなベランダ付マンションを探し、所有者の許可を得て、実験場所として利用することにした。人間が飛ぶことも考えたが、着地用のマットを調達するのが難しく、今回は断念して、ボールを投げる方法で実験をした。

事故現場の状況を説明しておこう。

2階の部屋に座っていた高木さんは、右手の窓から外に飛び出した。窓の外側には幅1・35メートルのベランダ(厚さ15センチのコンクリート製手すり付き)があり、さらにその向こう側に鉄製階段(幅約1メートル)が取り付けられていた。

階段の取り付け状況は、2階の窓から見た場合、右手から左手に上がってくる形だった。高木さんはベランダを超えて落下し、鉄階段に体をぶつけて死亡する。窓枠の下縁とベランダの手すり上部はほぼ同じ高さ、手すり上部から階段の鉄杭先端までの落差は約2.45メートルある。

鉄階段の外側手すり(建物と反対の側)には防犯用の鉄杭数本が取り付けられていた。鉄杭は高木さんの首を(自分からみて)右下から左上にかけて貫いた。姿勢はやや体を右にひねった状態で、鉄杭にもたれるように体を建物側に残した状態で倒れていた(写真2の図参照)。

高木さんが飛び出した際、机をはさんで向かい側に角田一郎警部補が座り、左隣には西川英利巡査がいた。両者とも、飛んだ瞬間にとっさに手を伸ばしたところまでは認めている。だが

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高木さんが死亡した現場の建物(上2枚)。赤線が落下した軌跡。下は見取り図。

再現実験でボールを投げる様子。ベランダから内側に1・35メートルのところに窓枠があり、その枠の下編に足をかけて高木さんは室内から外に向けて飛んだ。

高木さんが死亡した現場。上は名古屋地裁の検証時の写真。下写真は鉄柵の状況。高木さんは奥に見えるベランダ(2階の白っぽい部分)奥の窓から飛び、鉄柵(手前)に首が刺さった。体を建物側に残した格好だった。右肋骨4本が折れ、体の中に3600ミリリットルもの内出血があった。

高木さんの悲劇は、見知らぬ男女らから「痴漢」と疑われたことに端を発する。水の中で触ったりキスをして逃げた、などと被害者は訴えていたとされるが、高木さんは泳ぎが不得手で、顔をつけて泳げなかったことがわかった。人違いは確実だ。高木さんが死亡した現場に花を手向ける両親(左)と千鳥ヶ浜海水浴場(右)

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読者コメント

2012/09/06 08:29
不祥事は×2012/08/13 22:40
警察不祥事24時2012/08/05 20:10
訴訟追行者2012/07/28 19:49
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×愛知県警知多署→○愛知県警半田署でした。お詫びして訂正いたします。
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