原田信助はなぜ命を絶ったか―5 警察とJRが事件発生時刻改ざんの疑惑
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(左)大学を卒業して最初に就職したJAXA(宇宙航空研究開発機構)時代に、つくば市内で同僚たちとくつろぐ故・原田信助さん。(右)痴漢の事実なしと事件当日に記録された新宿警察署による書面。無実の証拠だが、信助さんの死後に検察に送致した。 |
- Digest
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- 真相究明のカギを握る四つの証拠
- 監視カメラ映像の謎
- 誰が時刻を書き換えたのか
- 駅長室日誌には23時5分と記載
- 警視庁通信指令本部・山岸氏との通話
- 相互暴行の記録はどうなっているのか
真相究明のカギを握る四つの証拠
JR新宿駅には、あらゆる場所に防犯(監視)カメラが設置されており、もちろん事件現場となった階段付近は映像に映るようになっている。モニター画像は極めて鮮明なので、原田信助さんが男性2人に暴行を受け揉みあいになった様子や、仮に女性が言うように女性の身体を触っていたのなら、その様子も映像に写っている可能性が極めて高い。
ところが、裁判の始まる前に証拠保全のため母親の原田尚美さん(56歳)がJRから入手した映像には、“事件”の様子は収められていない。それもそのはず、「JRが提出した映像は、実際に事件が起きていた後の時間帯のものかもしれないのです」と原田さんは言う。
なぜ、事件発生時間帯の映像を出さずに別の時間帯の映像を出したのかが、10月16日の口頭弁論でクローズアップされた。
「現場に駆け付けたJR職員が、一緒に暴行に加わってしまった。その様子が写っている時間帯の防犯カメラ映像を出せないのではないか」と原告代理人の清水勉弁護士は指摘する。この裁判で初めてJR職員による暴行に言及したわけであり、裁判の転機となるものだ。
そうだとすれば、JRと警察がそれぞれの思惑で、事件発生時刻という重大事実を隠ぺいしているということにならないか。前回記事の「証人すり替え疑惑」につづいて、今回は「事件発生時刻ねつ造疑惑」に迫る。
口頭弁論終了後の報告集会で、清水勉弁護士は、およそ以下のように“疑惑”の本質を解説した。
階段で殴りかかった大学生、騒ぎを知って駆け付けたJR職員、警察、が事件発生時刻とその模様を写した監視カメラ映像を知られたくない。三者三様の事情を抱えていた。その事情とは・・。
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夜明け前に新宿警察署を出た原田信助さんは、新宿駅のコインロッカーに私物を預けた。![]() |
第一に、暴行を起こしてしまった男子大学生は、できればそのような事実を消したい。
第二に、JR。本来ならトラブルを抑えるべき職員が暴行に参加してしまった。
第三に、警察。監視カメラ映像を見ないで信助さんを取り調べしてしまったか、取り調べのあとに映像を見て、信助さんが供述したことは事実だったとわかってしまった。どちらかの可能性がある。
清水弁護士はいう。
「警察は事件直後にカメラ映像を見せてほしいとJRに言ったが、担当者不在で見せられない、と言われたことが刑事記録に残っている。これはあり得ない話。何かトラブルが発生して職員が駆けつけたのだから、モニター室に誰かが残って連絡と指示をしなければならない。
安全の問題などから乗客同士のトラブル、酔っ払いなどをリアルタイムで映して逐一指示するのがモニタールームだから、誰も人がいないことはあり得ない。しかし、警察としては、見せてもらえないことになっていたほうが都合がいいのかもしれない」
いま列挙した疑問が事実か否かを裁判で明らかにしなければならない。そのためには、判断材料となる証拠類が必要なので、口頭弁論に先立つ10月3日、原告代理人6名が裁判所に「文書送付嘱託申立書」を提出した。これは、裁判所を通して、関係各所に証拠提出を請求するもので、その内容は以下の4つの証拠である。
1)監視カメラ映像。該当箇所を映した防犯カメラ2台の映像、09年12月10日午後10時50分から午後11時15分まで。(送付嘱託先:JR東日本)2)当日の新宿駅長室日誌。トラブルを目撃した駅員から110番通報の要請があった時刻が記載。(送付嘱託先:JR東日本)
3)故原田信助さんが行った110番通報に関する文書。09年12月10日午後10時50分から午後11時15分までの間。(送付嘱託先:警視庁)
4)相互暴行事件の送致記録すべて。(送付嘱託先:東京地方検察庁)
2009年12月10日午後11時ごろ、念願かなって転職した職場の歓迎会の帰宅途中、原田信助さんはJR新宿駅の階段を登り始めたところ、直前にすれ違った女子大生が「いまお腹を触られた」と言い、連れの男子大学生二人は信助さんを背後から突き落とし暴行した。
信助さんは携帯で110番通報し、かけつけた警察官によって交番に連れて行かれ1時間半聴取、さらに新宿警察署に任意同行された。暴行事件の被害者として話を聞いて貰えると思ったら、痴漢事件の被疑者としての取り調べが数時間に渡って行われたのである。
女子大生の証言と信助さんの服装が違うことなどから、「痴漢の事実がなく相互暴行として後日呼び出しとした」「乙が現認した被疑者の服装と甲の服装が別であると判明」と新宿署は「110番情報メモ」記録し帰宅を許した。
信助さんは、新宿署を出て地下鉄東西線の早稲田駅に向かい、列車に飛び込み死亡した。事件直後には、被害者とされる女性の被害届も供述調書もなく、信助さん本人の自白調書もなかったのに、警察は急遽調書を作り、彼の死後の2010年1月29日、信助さんを痴漢容疑(東京都迷惑防止条例違反)で検察庁へ書類送検(本人死亡のため不起訴)した。
母親の原田尚美さんは2011年4月26日、東京都(警視庁)を相手取り、1000万円の国家賠償請求訴訟を提起した。
○原田信介さんの国賠を支援する会○母親の原田尚美さんのブログ「目撃者を探しています!!」
○ツイッター@harada1210
この事件で特筆すべきは、痴漢容疑で調べられたことに衝撃を受けて自ら生命を断ってしまった原田信助さんが、新宿駅西口交番に連れられてから死を選ぶまでの7時間近くをICレコーダーに録音していたことである。
その録音を頼りに、母親の原田尚美さんは、真相をさぐるべく調査を始めた。新宿署、身を投げた東京メトロ早稲田駅、早稲田駅を管轄する牛込署、JR新宿駅、救急車関連で東京消防庁・・・。
事件の性格と発生場所から考えて、現場を映した監視カメラ映像の確認は不可欠であった。取り調べ中に、「カメラで映っているはずだから調べてくれ」との趣旨を信助さんが警察官に訴えている録音が残っている。
事件が起きてから1年近く経った2010年12月7日、JRは映像を原田さんに開示した。ところが、真相究明というよりも、むしろ疑問がわき始めた
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原告弁護団が証拠開示を求めた文書。ここに示した4つの証拠は、真相解明に必要不可欠である。もし拒んだら、逆に事実を隠そうとしていることになるだろう。
JR東日本が原告の原田尚美さんに渡した事件現場を映した監視カメラ映像。「旅客トラブル23:05」の下に「23:25正当」と書き加えられている。誰が書き換えたのかわかっていない。
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ひっどいな
死人に口なしとばかりに警察は痴漢容疑で送致したが、被疑者死亡により不起訴。母親は国家賠償請求を2011年4月に起こした
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読者コメント
林 克明様、2年前 新宿駅にご取材に来て下さってから、5回目のご報道をありがとうございます。2011年4月26日に東京都(警視庁)を提訴してから、相手方代理人は「証拠のない主張」を延々と繰り返しています。物証のない犯罪は成立しない筈ですが、警察の特権として認められるようでしたら、裁判の意味もないことと思います。この国は、警察統治国家への道を邁進しているようですが、本来の司法国家のあるべき姿に立ち返って頂きたいと心から願っております。
一枚目の画像にあるように、原田信助さんはまったくの無実。それrなのに送致したのはおかしい。これが最大のポイントだ。JRの監視カメラも正当なものは出てこないし、彼が身を投げた地下鉄早稲田駅のカメラに何も映っていないというのは、あり得ない話だと思う。
それにしても今時VHSって。
JR職員の暴行を目撃した方はいないのだろうか。
また、暴行した職員は特定できないのだろうか。
記者からの追加情報
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