2025年へのワークシフト 日本は内需を徹底的に鍛え“ガラパゴス雇用の栄華”を目指せ
『週刊東洋経済』2013年3/2号 (2/25発売) →電子版 |
- Digest
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- 世代要因で猶予期間が20年ある
- グラットン「多様性(diversity)は単一文化(mono-culture)を凌駕」
- 渡邉「モノカルチャーは強い」
- 日本は「モノカルチャー戦略」を堅持すべき
- 「先進国間格差」が拡大する
- 「選べる国、ニッポン」を堅持せよ
- 国内の競争政策促進あるのみ
リンダ・グラットン=経営組織論の世界的権威。ロンドン・ビジネススクール教授。対談4ページ+解説2ページ |
「日本はグローバル化すべきか」との問いに、グラットン教授は「難しい問題だ」と答えた。グローバル化は、先進国の中間層の人たちの収入と職を失うことを意味するため、日本があえて“血だらけの赤い海”に突っ込むことを、さすがに肯定しなかった。
2025年の「日本以外の」世界が、『ワークシフト』に描かれたものに近いという点には、私も同意する。
すなわち、世界規模での人材市場の統合が進み、英語を共通語として、地球の反対側同士でウェブを通じたコラボレーションが増え、上位の優秀層にとっては生まれた国を問わず大活躍するチャンスが増える。一方で、既存先進国の中間層以下は“先進国生まれプレミアム”が失われ、新興国の人材に浸食される形で、賃金が下がっていく。
世代要因で猶予期間が20年ある
2025年、日本と他の先進諸国の環境の違い |
ところが、ラッキーなことに、大前提が欧米先進国とは異なるため、日本には『ワークシフト』に描かれた未来は、2025年の段階では来ない。また、来るにせよ、最低でも20年は遅れる。移民、言語、民族など様々な要因があるが、なかでも一番大きな大前提の違いが、世代要因だ。
日本では、「ベビーブーマー世代」(日本でいう「団塊の世代」=今年平均67歳)の政治・経済力が、平均寿命(既に60歳まで生きている人は約5年長い)まで20年は衰えない一方で、若い「Y世代」(80年生まれ以降)も保守化が進んでいる。
日経新聞が300万部を超えたのは1991年、読売新聞が1000万部を超えたのが1994年。以来、若い世代がいくら新聞をとらないという抵抗を見せても、頑なに定期購読を続ける中高年世代のパワーは絶大で、20年たった現在も、部数がほぼ変わっていない。
世界史に残る「格差なき高度経済成長」を牽引した強烈な成功体験を持つ団塊の世代は、その副作用として、死ぬまで生活パターンを絶対に変えようとしない。私の両親は団塊の世代だが、30年以上にわたり、朝から夜まで全く生活パターンを変えていない。家計の保険料支出が突出して多いのも日本の特徴であるが、これも同様に、あと20年は変わらないだろう。
お金を握っている最終顧客が変わらないということは、企業も変わる必要がないし、そこで働く社員の環境も変えられない、ということになる。資本主義において一番パワーを持つのはカネを持っている人なのだ。
実際、新聞業界も生保・損保業界も、社員は20年前と変わらぬ毎日を送っている。僕は新聞記者出身だが、リストラ旋風が吹き荒れキャリアチェンジを余儀なくされている欧米新聞社の社員と日本の社員との環境の違いには、驚くばかりだ。
団塊の世代は1500兆円の日本の金融資産の大半を持ち(60代以上で6割を保有)、有権者数が多い上に投票率が高く、さらに一票の格差で有利な地方により多く住んでいる。参議院選挙では、神奈川県の有権者は1人1票だが、鳥取県の有権者は約5票持っている。団塊の世代はもちろん鳥取のほうが多い。
したがって、経済力に加え、政治力も強大であり、「金融資産課税」のような徴税&再配分の政策は、実現不可能と考えるほかない。孫に1500万円までの教育資金移転といった“太陽政策”がせいぜいだ。課税のような“北風政策”は無理である。
一方、1980年以降生まれの若い「Y世代」は内向き傾向で、就職人気ランキングでも「公務員」と「国内系大企業」が上位を独占する状況。終身雇用を希望する若者も増加傾向である。海外トップスクールへの留学者数も減り続けている。グローバルで戦おうという意欲は、絶望的に弱い。車離れ、消費離れで、なるべくお金を使わない「草食化」は、言われている通りである。
Y世代が2025年に突然アグレッシブに変貌をとげ、地球の裏側にいるブラジル人と、ウェブで英語によるコラボレーションを始める『ワーク・シフト』の世界は、日本の現状を見るに、とても想像がつかない。草食動物は、凶暴な肉食動物たるインド・中国の優秀層に食われる運命にある。
グラットン「多様性(diversity)は単一文化(mono-culture)を凌駕」
それでは日本は、この20年の猶予期間の間に、どのような雇用・人材戦略をとるべきなのか。日本は20年後、満を持して『ワークシフト』の世界の一員となるべきなのか。私が著書で示した、国内市場向けの仕事で中間層が職を確保していく方向性について、グラットン氏は「日本のほうが賢明かもしれない」と理解を示す一方で、「非常に閉ざされた状態の日本の未来には賛成しかねる」と述べた
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解説部分の2ページ「ガラパゴス的雇用が、生きる道」
『ワーク・シフト』(リンダ・グラットン)
『10年後に食える仕事食えない仕事』(渡邉正裕)
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