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GoHoo四季報<2013年冬>誤報にまみれたPC遠隔操作事件

情報提供
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朝日新聞2013年2月11日付朝刊
 3回目を迎えたGoHoo四半期シリーズの誤報大賞には「PC遠隔操作事件をめぐる誤報」を選んだ。この事件は当初、犯人特定の決定的な証拠があるかのように報じられたが、多くのウソが判明している。袴田事件などで刑事司法のさまざまな問題が明るみになってきている昨今、犯罪報道のあり方も改めて問われる事態といえよう。他方、STAP細胞作製成功や<全聾の作曲家>佐村河内守氏をめぐる報道は、取材対象を鵜呑みにしたメディアの存在意義を揺るがし、誤報による甚大な影響が如実にあらわれたケースであった。
Digest
  • 誤報にまみれたPC遠隔操作事件(主要各紙)
  • 「STAPはiPSより優れている」に山中教授が憤慨(主要各紙)
  • 「全聾の作曲家」の物語を拡大生産したメディア(主要各紙)
  • 東京都は東電の主要株主? 選挙報道で許されない初歩的間違い(朝日・産経・東京)
  • 安倍首相靖国参拝前日に「年内見送り」と誤報(毎日)

誤報にまみれたPC遠隔操作事件(主要各紙)

誤報の中でも最も深刻なのは冤罪である。3月27日、袴田巌死刑囚が再審開始決定で48年ぶりに釈放された。まだ無罪が確定しているわけではないが、メディアはこぞって刑事司法のあり方を問うている。それは当然のことだが、刑事司法の過ちを十分チェックできなかったメディアの責任も見過ごすことはできない。ましてや捜査当局の片棒を担いで在りもしない決定的証拠の存在を率先して流布すれば、メディアも同罪といってよい。

PC遠隔操作事件は一昨年4人の誤認逮捕者を生み、捜査当局が検証報告書を出すに至った。それから間もない昨年2月、一人の会社員(以下「Kさん」という)が真犯人だとして逮捕されるや、主要各紙は号外を発行。Kさんが「全く身に覚えがない」と全面否認している中、Kさんが犯人だとする決定的な証拠があるかのように連日報じた。

GoHooはこの事件で初の特別調査チームを立ち上げ、Kさんの逮捕初日から主要紙の全ての報道をチェックしている。誤報の疑いがあれば注意喚起してきたが、中でも決定的とされた3つの証拠に関する報道は、今や誤報だったことが確実だ。名付けて「PC遠隔操作事件の3大誤報」―。

第一の誤報が、江の島の防犯カメラ映像。遠隔操作ウイルスが入った記録媒体をつけた首輪を、Kさんが猫に取り付ける様子がとらえられたというものだ(これを特に強調したのは読売新聞)。これが本当だったら犯人である決定的証拠だろう。実際は、Kさんが江の島でその猫に近づいたシーンをとらえていたが、首輪を取り付ける様子は映っていなかった。

第二の誤報は、スマホから復元された猫の写真データ。Kさんが当時もっていたスマホから、真犯人がメディアに送り付けた猫の写真と同じデータが復元されたと報じられた(朝日新聞、日経新聞)。しかし、そんな証拠は全くなかった。

第三の誤報は、米国サーバーに残された痕跡データ。FBIの捜査協力で米国にサーバーがあるDropboxに保存された遠隔操作ウイルスを解析したところ、Kさんの勤務先で作成された痕跡が見つかったというものだ(日経が特報し、NHKはじめ全紙が追いかけ)。この証拠もついに出てこなかった。

結局、警察・検察側がKさんを犯人だとする決め手は何なのか。それがよくわからないまま公判が始まろうというのに、退任する警視総監を「PC遠隔操作事件を解決に導いた」と持ち上げたメディア(産経)もあった。そして、公判が2月に始まるや、主要メディアは初公判と3月5日の保釈を報じた以外、4度の公判については全く続報しないありさまとなっている(産経新聞の電子版限定「法廷から」が唯一の例外)。

メディアが沈黙しているのは、まさかの5人目の誤認逮捕が明るみになることに当局ともども戦々恐々としているからなのか。だとすれば、メディアは真実を伝え、国民の知る権利に寄与する役割を放棄しているばかりか、刑事司法へのチェック機能を完全に喪失しているといわれても致し方ないであろう。

「STAPはiPSより優れている」に山中教授が憤慨(主要各紙)

近年の大誤報として今も多くの人に記憶に残っているのは「iPS細胞の初の臨床応用」の報道(2012年10月、読売・産経・共同)であろう。ハーバード大学研究員を名乗ったM氏の研究発表が虚偽だったことが判明したものだ。あれからわずか1年余りの今年1月、「STAP細胞」作製成功のニュースが世界中を駆け巡った

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産経新聞2014年1月30日付朝刊

毎日新聞2014年3月13日付朝刊(検証記事)

毎日新聞2013年12月25日付朝刊

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