公共電波を「一族長老支配」するフジ・メディアHDに株主が初の総会議案――日枝独裁体制の幕引き狙い役員定年制案を共同提出
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フジHDの総帥・日枝久代表取締役会長(76歳)。フジHDの全額出資子会社・フジテレビジョンの代表取締役会長も務め、26年間トップの座に座り続けている。しかし、同社で史上初となる「株主提案の議案」で、「75歳役員定年制」が採択されれば退陣となる。 |
- Digest
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- 松沢委員長が議案を提案する重大な意味
- ㈱サンケイビル株売で株主大損失
- 健全な労使協調経営を提案
- 産経新聞社等の株売却は従業員と話し合え
- 最大の目玉「役員75歳定年制」で長老支配の日枝独裁体制終焉か?
- “一族長老支配”
松沢委員長が議案を提案する重大な意味
フジ・メディア・ホールディングス(フジHD)の場合、株主提案は、3万株以上を半年以上所有している株主によって可能である。同社の株は、このところ、概ね1株1600~1700円程度だから、5000万円程度の資金が必要だ。
そもそも株主による議案提案は、日本ではきわめてまれであり、フジHDが1997年に上場(当時はフジテレビジョン)して以来、初めてのこととなる。
株主提案には上記のように多額の資金が必要なることに加え、投資家は始終売買を続けており、半年以上大量の株式を保有し続け、いわば資産を長期間氷付けにすることが少ないという事情もあって、株主提案が実現するケースは極めて稀だ。
20年前に解雇された松沢弘・反リストラ産経労(労働組合・反リストラ・マスコミ労働者会議・産経委員会)委員長に、そのような大金はない。
今回は、これまでの松沢氏の日常の闘いぶり、株主総会における経営陣への真っ当な批判や、議場からの議案修正動議の提起などの様子をみた一般株主が、共同で株主の議案提案をしてみようではないかと、昨年12月ごろに話を持ち込んだことで実現にこぎつけた。
松沢氏が今回の意義について語る。
「総会の招集通知は6万人以上(昨年の株主総会での議決権保有株主総数)の株主に郵送されますが、この通知に株主提案の議案を載せなければならないのです。たとえば国労闘争団がJR東日本などに対して行ったような例はあっても、日本では株主が議案を提案することは極めてまれです。全ての株主に印刷物として議案が提案されるので、会社にとっては大事件といえるかもしれません」
史上初の株主による議案提出だけでもニュースなのだが、その主体が反リストラ産経労の松沢弘委員長であることの衝撃は大きい。その意味づけを知る上でも、フジ産経グループ経営陣と松沢氏ら反リストラ産経労の関係を簡単に整理しておく。
反リストラ産経労の闘争史
1994年1月10日 新組合結成。フジ産経グループの「日本工業新聞」(現フジサンケイビジネスアイ)論説委員の松沢弘氏が委員長に就任。
2月1日 反リストラ産経労が東京都労働委員会に資格審査申請2月4日 反リストラ産経労が都労委に不当労働行為救済申立て
2月8日 松沢委員長、ほぼ実態もない新設の専任千葉支局長ポスト配転。井上保夫取締役から松沢委員長に「脅迫状」。
9月16日、19日~22日 松沢委員長を賞罰委員会にかけるとの攻撃に抗して、産経グループとして34年ぶりにストを貫徹。
9月22日 松沢氏、懲戒解雇。
9月26日 反リストラ産経労、都労委に松沢氏の懲戒解雇取消求める追加救済申立。
1996年5月8日 松沢氏が懲戒解雇の無効などを求め東京地裁に提訴。
2002年5月31日 東京地裁、松沢氏全面勝訴の判決。
2003年2月25日 東京高裁が逆転敗訴判決。
2005年12月6日 最高裁が高裁判決を追認
2006年12月6日 都労委が反リストラ産経労に不当労働行為救済申立棄却命令を交付。
2008年5月23日 中央労働委員会が反リストラ産経労の再審査申立て棄却命令を交付。
2008年11月18日 反リストラ産経労が中労委命令取消をもとめ、国を相手取って行政訴訟提起。
2010年9月30日 東京地裁、反リストラ産経労の請求を棄却。
2012年10月25日 東京高裁、反リストラ産経労の控訴を棄却。
2013年10月15日 最高裁、反リストラ産経労の上告棄却、上告受理申立不受理の決定。
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(上)昨年、総会後の取締役会でフジHD社長に選任された太田英昭氏(67歳)。(下)亀山千広取締役(57歳)。亀山氏は、昨年の総会後、(株)フジテレビジョン社長に就任した。![]() |
㈱サンケイビル株売で株主大損失
さて、松沢氏を含む株主の議案提案の中身を、松沢氏から説明してもらおう。
「もうひとりの共同提案者はサンケイビルの元株主。(株)サンケイビルは、産経新聞グループの唯一の上場会社であり、資産が集中していました。東京・大手町のビル、大阪・梅田のビルなどがありましたから、ここに資産が集中していたのです。
かなり以前から、フジテレビが同社の株式を取得し、社長を送り込む形で自らの影響力を着々と増していったわけですが、フジHDの子会社を通じてサンケイビルを強制的に買い取り、最終的な株主はフジHDになりました。
サンケイビル株の買い取り額が非常に低いということで、複数の株主が裁判を起こし、いま高裁で争われています。
フジHDは、サンケイビルを、その資産価値よりも安く買収したことで、2012年3月期連結決算で307億円もの特別利益を計上しています。その会社が持つ実際の資産内容と比較すれば非常に低い価格で、なかば強制的に株を買い取ったことが、この数字で証明されています。
こうして安い値段で株を買って完全子会社化したためにフジHDのほうに「負ののれん代」として307億円の利益が出たというわけです。サンケイビルの株主にしてみれば、307億円分損失を与えられたようなもの。だから、
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(上)南直哉監査役(78歳)。元東京電力社長で、(株)フジテレビジョン監査役も務める。(下)元早稲田大学総長の奥島孝康監査役(75歳)。この2名も75歳定年制が採用されれば、その選任にあたる定時株主総会で退陣となる。
昨2013年6月27日のフジHD株主総会の「招集通知」に記載された2013年3月末時点での役員一覧。フジHDの実質的なグループ会社などのトップらが社外取締役を兼務しているケースが多い。この一覧には年齢表示はないが、取締役と監査役の高齢化も進んでいる。
フジHDが財務省の関東財務局長に提出した株主総会の「臨時報告書」の一部で、取締役選任に関する議案の賛成率が示されている。(左)平成24(2012)年7月2日提出。(右)平成25(2013)年6月28日提出。2012年では、(株)産経新聞社取締役会長を兼務する清原武彦取締役(76歳)の賛成率は79・77%にとどまり、20%強の株主に反対されている。取締役選任の議案に対する反対の動きは2013年により明確となり、日枝久会長の賛成率は89・01%と90%を下回り、フジテレビジョン取締役や東宝(株)名誉会長を兼ねる松岡功取締役(79歳)にいたっては、賛成率はわずか66・05%。つまり不支持が約34%にも達している。このほか、関西テレビ放送代表取締役会長を兼務する横田雅文取締役(78歳)も78・76%にとどまるなど、高齢の取締役らに対する賛成率がかなり低い。90%超が当然とされる中で、これだけの低支持率は、明らかに大口の機関投資家や外国人投資家が反対の意向を示しているためではないかと推認できる。
松沢弘氏が委員長を務める「反リストラ産経労」が、2013年6月27日のフジHD株主総会に向かう株主たちに配布した経営陣批判のビラ。反リストラ産経労と松沢氏ら一般株主たちは、総会開始前に、会場の近くで、毎年ビラを撒くが数に限りがある。ところが今年は、松沢委員長が「株主提案の議案」を共同提出したことにより、フジHDの予算で約6万人の株主に、実質的な長老支配を終焉させる「役員75歳定年制導入」を含む議案などを印刷した「株主総会招集通知」が郵送されることになる。
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読者コメント
林克明記者の粘り強い取材は、素晴らしいの一語に尽きる。フジHDにも、松沢委員長にも、さらに密着して、6月のフジHD株主総会の顛末を続報してもらいたい。
フジHD、フジテレビのデタラメさ、業績不振は、全て、日枝独裁体制にあることは、テレビ界の常識です。強大な権力に屈せず闘い続ける松沢氏に拍手。松沢氏に株主提案の手をさしのべた株主にもエールを送る。
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