事故に巻き込まれたときに備える、プライバシー防衛策
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5月2日朝日新聞、被害者107人報道の一部 |
避けようとしても、JRでしか行けないところも多いので、いつ事故に遭ってもおかしくない。その時、いったいどこまで暴かれてしまうのか。
気になって図書館で新聞を調べると、亡くなった被害者が出揃った5月上旬、各紙とも「死を悼む」として全被害者一覧を掲載し、住所や年齢とともに、職業やその人となりまで紹介していた。読売だけは、運転手を除いて106人としているところが読売らしい。いずれも、多くの顔写真が付いている。
読売は「兵庫県警は事故で亡くなった乗客106人のうち4人については名前を公表していません」と注をつけ、この4人については、まるで存在しなかったかのように何も載せていない。毎日と朝日は、匿名希望者については、住所、年齢、性別だけを載せていた。
少年犯罪報道でもその是非を問われるが、顔写真の掲載は重要なプライバシーだ。朝日(5月2日付)は68枚、読売(5月4日付)が67枚、毎日(5月5日付)が74枚を載せている。見比べると、同一人物でも各社で全く違う写真が載っている。同じ写真は、だいたい3分の1だけだ。
被害者が18人と一番多かった伊丹市で比べると、読売が8枚、毎日が8枚、朝日が9枚を載せているが、3紙共通の写真は2枚だけで、同一人物でも全く別人に見える写真もあった。
どの写真を使うかは「報道の自由」なので各社血眼になって周辺をあたる。最も多くの写真を載せている毎日は、そうとう無理して集めたらしく、横顔の写真まで強引に使っている。
また「婚約者のいる自宅に戻る途中だった」という33歳の男性の写真は、どうみても中学時代のものだ。友人が卒業アルバムでも提供したのだろう。
つまり、被害に遭うと、何を書かれるか、いつの時代の写真が出てくるか、分かったものではないのだ。本人の意志とは関係なく、死亡した瞬間にプライバシーの権限は遺族に移るのか。この点について、朝日新聞の広報に聞いてみた。
--本人が顔写真などの掲載を拒否したという証拠がなければ、身近な人の意志で掲載になる、ということか?
「現場の記者は、記事として掲載するという事情をご遺族や親しい方に説明して写真やコメントを頂いているはず。そうでなければ当然掲載できない。今回の事故を例にとれば、事故の悲惨さを伝えるために『使ってくれ』という方もいた、と聞く」
--そこには亡くなった被害者個人の意志は反映されない。
「そうなる」
--では仮に、自分が事故に巻き込まれたとき、情報を掲載されたくなかったらどうすればいいのか。
「仮定の話には答えられない」
朝日新聞は2年前、北朝鮮拉致被害者の曽我ひとみさんの北朝鮮に住む家族の詳細な住所を、家族の許可なく枝番まで報じて、曽我さんから猛抗議を受け、編集局長が謝罪した“犯歴”がある。その割に誠意のない対応だ。
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匿名に突然変えても、既に遅い…(5月2日『報道ステーション』)![]() |
このような被害者のプライバシーに鈍感な会社がある以上、かなり徹底した防衛策が必要となる。まず、匿名にしたい場合。これは比較的容易である。『報道ステーション』(5月1日)は107人目となった犠牲者について「救出当初は実名で報道されていたが、その後、遺族の要望で名前を伏せることになった」と説明していた。
マスコミは、実名か否かについては遺族の要望に従順だ。だから、遺族になり得る人たちに予め「警察等が身元確認にやってきたら、救出中であろうと、とにかく匿名でマスコミに発表するよう、強く言ってくれ」と釘を刺しておけばよい。これが第一の防衛策だ。
事故の際は被害者を100%善人扱いする傾向があるので、それを無視して報じることは、さすがにない。
問題は「変なことは書かれたくない」場合と、「(実名の場合に)変な写真は使われたくない」場合である。
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3年前(右)と現在(左)の佐藤さん。被害者の場合に、マスコミがどちらを使うかは明らか。
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読者コメント
地方の新聞では、死亡欄にばっちっり個人情報が、住所なんかも書かれてますし、犯罪誘発してんのか
法律上、死者には肖像権が無い。 そのため、マスコミは写真や情報を入手できれば好き勝手に掲載することができてしまうようですね。
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