JTB巨額詐欺事件② 父の遺産2100万円を盗られた被害女性「JTBの名刺と社員証は水戸黄門の印籠だと思った」
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JTB関東社員にドル購入のため2100万円を渡したが、持ち逃げされた速水康子さん。「あのお金を母の介護のために遣いたい」と言う。 |
- Digest
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- 「あの2100万円を母のために遣いたい」嘆く毎日
- JTB関東社員による巨額詐欺事件
- 「預金目減り回復の方法」を提案した会社の後輩
- ドル購入で1年経てば元本と手数料
- 1年後も金は返却されず、紹介者に聞こうとしたが…
- ある日突然、警察から電話
- JTBは全面的に反論 使用者責任はないのか?
「あの2100万円を母のために遣いたい」嘆く毎日
「どうしたらいいかわからず、毎日泣いていました。母にも言えない、兄弟にも言えない。あの2100万円が戻らなければ、これからどうしよう・・・」
途方に暮れているのは、関東地方に住む速水康子さん(仮名60代)で、90歳代の母親を介護している。いわゆる老老介護だ。
「支えれば何とか立てる状態で、歩くのはかなりきついです。夜のトイレも大変。お願いだからオムツにしてくださいと言ったら、最後は泣いて泣いてオムツにすることを受けいれてくれました。デイケアやショートステイを利用していますが、あのお金があれば、いい施設に頼むこともできるのですが・・・」
速水さんは、詐欺にあって2100万円を失った。2014年6月25日、JTB関東の社員だったTに「ドルを購入してくれれば1年後に手数料を加えて元本とともに支払う」と持ちかけられ、契約して現金2100万円をTに預けた。
ところが契約してから3年が経とうとしている今現在に至るまで1円も支払われず、Tは昨年6月頃に行方をくらましてしまった。Tは他の人にもドル両替を名目に多額の現金を集め、どうにもならなくなって警察に出頭。逮捕はされておらず、現在は任意捜査中だ。
そのため今年4月20日、速水さんはTと彼が所属していたJTB関東(JTBの100%子会社)およびJTBを相手に、支払いを求める裁判を東京地裁に起こし、5月26日に第1回口頭弁論を終えた。
JTBは旅行代理店だから外貨両替業務を行っているとはいえ、普通は外貨を買ったり外貨から日本円にもどすときには、手数料を支払わなければならない。しかしTが持ちかけた話は、ドルを購入すれば元本に加え、逆に手数料を付け加えて日本円で支払うというのだ。誰でも不思議に思うだろう。
JTB発行のパンフレットをみれば「JTBの外貨両替~別途手数料不要」と謳っていることはわかるが、手数料を上乗せして顧客に与えるのはどう考えても不可解だ。しかし、そのような仕組みがJTBと提携業者との間に実在することがわかった。
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JTB関東社員Tは、ドルを買えば逆に手数料を加えて日本円で渡すと被害者たちと契約。これまで取材した範囲では、速水さん以外の被害者には3か月後に現金で渡していた。3か月で取引は終わり、希望者はまた新たに両替して3か月後に元本と手数料を受け取っていた。こうした取引が何年も約束通りに履行されていたため、被害者たちはまったくTを疑わなかった。(被害者に現金を持ってきたときの実際の写真2015年7月撮影)。![]() |
JTB関東社員による巨額詐欺事件
その仕組みとは、「TRS取引委託契約」である。TRSとは、ギフト券・トラベラーズチェック・JTB旅行券などの商品のことで、これらを「TRS商品」と呼ぶ。JTBと契約旅行業者とで交わされた「TRS取扱い委託契約書」を入手したが、同契約書第4条に取扱い委託商品が列挙されており、そのひとつが外貨となっている。
提携業者がJTBからドルを預かって自己の顧客たちにドルを売り、その代金(日本円)をJTBに支払うときに、自分がもらうべき所定の手数料を差し引いた額を支払えばよいことになっているのだ。
外貨の販売手数料を示した別表には、「1・0%又は4・0%」と記載されている。どのような条件によって手数料に幅がでるかまでは契約書には記載されていない。
実はこの問題を追及する第一弾の記事「JTB巨額詐欺事件 社員が顧客から10億円集め失踪 『ドル両替で逆に手数料4%払い元本も保証する』――被害者らが返金求めJTB等を提訴」で、このことを指摘した。
ドル購入のために金を渡した被害者は、個人だが大口のため「提携業者と置き換えがあった可能性がある。大口の個人を提携業者と同じ位置づけにしたのではないか、ということです」という見方を示すのは、原告代理人を務める塚越敏夫弁護士だ。
つまり個人との契約ならば、複雑で面倒な提携契約は不要である。旅行業者は、国家資格を有する「旅行業取扱管理者」を1店舗に1名以上配置する必要があり、なおかつ観光庁長官もしくは都道府県知事に登録申請しなければならない。
その際の営業保証金は1種(海外旅行取扱可)7000(1400)万円、2種(国内旅行取扱)1100(220万円)、3種(近隣市町村取扱)300(60)万円必要なのだ。( )内は、旅行業協会に加盟してなおかつ取扱額が2億円未満の場合に協会に預ける金額である。
塚越弁護士が指摘するように、大口の個人を提携業者として置き換え(位置づけ)てしまえば、わずらわしい契約・登録・保証金などまったく関係なく「逆手数料システム」が可能となる。
これと同じように、今回訴訟を起こした速水康子さんも2100万円と高額なため、提携業者と同じ位置づけにされたのではないか、という推測もなりたつのだ。Tがどのように考えたかは今のところ不明だが、他の被害者も含め、結果がそうなっている。
先行している集団訴訟の原告は6人だが、そのうちの1人が25人の窓口になっていたため、この訴訟の被害者は計30人で、被害総額は4億1400万円。これに速水さんの分も加えると、単純計算すれば一人当たり1450万円である。訴訟を起こしていない被害者もおり、前出の塚越弁護士が把握しているだけで被害総額は約10億円(被害者32人)である。
速水さんに何がおこったか最初から詳しくきいた。
「預金目減り回復の方法」を提案した会社の後輩
「他界した父が残したものやその他を集め、母の名義で2500万~2600万円の預金がありました。その預金を運用していたのです。定期預金とか外貨建て運用とか、いろいろありますよね。
もちろん外貨建て預金はリスクがあることは承知したうえで、ドル建てで預金をしていたのです。ですから、少し増えていたときもあります。1ドル120円に近いころはよかったのですが、円高になって目減りしてしまいました。
そして2100万円くらいまで減ってしまったのです。そこで相談したのが、私がかつて勤めていた会社に後から入社してきたAさんです。Aさんとは40年近くの知人で
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ドル購入の領収証(お客様控え)以外に、Tは名刺に手書きで領収金額と支払期日を書き、被害者に渡していた。
「外貨両替お申込み兼お客様控」これは通常のドル両替時に記入するもので、誰も疑わなかった。
速水さんより先に6人が起こした現状回復を請求する裁判では、原稿の請求通りTに支払いを命じる判決が出ている。JTBに使用者責任等があるか否かが争点として残されている。
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