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弁護士事務所の業務はどう変わるのか――AI時代に食える仕事食えない仕事

情報提供
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GPS機能を活用し残業時間を記録する各種アプリ。グーグルマップの「タイムライン」にも同様の記録機能があり、モンテローザ経営『笑笑 九大学研都市駅店』での店長過労死事件(福岡市西区、当時53歳)では、労災認定の証拠として提出された。
「AIを脅威と感じている弁護士は少ないと思いますよ」――四大法律事務所出身で、4年前に自身の事務所を開業した若手弁護士は、双方での経験から、デジタル化による自らへの影響を否定する。ただ、「弁護士事務所」全体で見るなら、スタッフの業務内容や雇用に多少の影響はありうるという。だが、むしろこれまで泣き寝入りしてきた被害者の救済にテクノロジーが活用されることによる受任件数増など「新規に生まれる仕事」も見込まれる。
Digest
  • 米国ではパラリーガル業務に影響
  • 「書面の作成」がカギ
  • データベースの使いやすさは向上する
  • BOTの限界
  • 紛争相手も裁判官もアナログ
  • “泣き寝入り市場”が掘り起こされ、顕在化していく

米国ではパラリーガル業務に影響

昨今、「人間からAIに置き換わった」と盛んに報道されているのが、米国法律事務所の「パラリーガル」たちだ。「eディスカバリー」と呼ばれるプロセスが、AIで自動化された影響である。パラリーガルは小室圭さんの職業として知名度が上がったが、法律知識が豊富な弁護士事務所のスタッフのことで、特別な資格は必要ない。

eディスカバリーは米国の訴訟で定められたプロセスで、たとえば消費者が製造物責任を問うて企業を訴えた場合に、企業側に、関連文書を全て開示する義務が課される。この業務は、主にパラリーガルたちが担当していた。だが、企業内に保存された電子メールや電子ファイルなど大量のデジタル文書を精査する業務はAIの得意分野だ。当然、置き換わっていった。

一方、日本国内の訴訟では不要とされるため、日本の弁護士への影響は、国際業務に関わる一部の渉外弁護士事務所だけに限定される。冒頭の弁護士は、日米双方の訴訟に関わった経験から、「日本は原則として公開しなくてよいのですが、米国は原則として公開。法の理念が180度、違います」という。

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一般的なeディスカバリーの流れ
「eディスカバリー制度があるので、米国では企業に対して個人が対等に戦えるんです。企業側が、ぜんぶ保管して証拠として出さなきゃいけないルールだから。日本のルールでは、企業が都合の悪い情報は出さなくてよいので、被害者に厳しい」(同)

企業利益中心であらゆる社会システムが組まれている日本では(※過労死も企業側の罰則が甘すぎるためなくならない)、政権交代をはじめとする、よほどの地殻変動でも起きない限り、導入されない制度とみてよい。また、導入されたとしても、最初からAI業務となるため、人間が多くの労働時間を費やすことはない。

実際に米国の裁判所を舞台に訴訟が提起された場合、日本の大手渉外事務所ではどのような作業が発生するのか。たとえば、独禁法違反の容疑で、談合の証拠となりうる社内のコミュニケーションを、社内メールの中から検索して発見し、開示する義務があるという。

「eディスカバリーでは、メール等のデータをサーバーから抜いて、分析業者に渡していました。その前に、業者が検索をかけやすいようこちらで編集したり、分析結果をみてキーワードや期間で絞り、最後は人間が見て必要情報を判断します。この判断は、争点を理解していなければできないので、ウチの事務所では、パラリーガルではなく若手弁護士の仕事でした。かなりの人力を割いて、若手がやらされました」(同)

この事務所は“軍隊”とも称される弁護士ファームなので若手弁護士が主に担当し、分析業者が作業をしていた。米国のようにパラリーガルが担当するケースも当然ありうる。こうした一連の補助的業務が、AI化でかなり削減&効率化されることは、米国の例を見るまでもなく、容易に想像できる。

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日本一有名なパラリーガル・小室圭さん。奥野総合法律事務所に勤務していた。

「書面の作成」がカギ

大手法律事務所の人員体制は「弁護士」「パラリーガル」「秘書」の3職種で構成され、人数としては

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本稿は『週刊東洋経済』2019年4月8日発売号に掲載された『AI時代に食える仕事食えない仕事』P24(弁護士)の原文です。

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