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警視庁巡査長の計画的連続空き巣事件に執行猶予の大甘判決 “権力犯罪”が野放しに――警察官を見たら泥棒だと疑え

情報提供
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男性警察官Ⅲ類(高卒相当)に採用される直近の倍率は7.2倍である(1,543人受験、213人合格=令和2年度)。交通課の巡査長・戸嶋亮太氏は、プロフェッショナルとして、警察手帳や名刺を偽造、警察署で実際に使用している本物の被害届書類を使って犯罪に及んでいたが、身内の犯行に対し、なぜか職権濫用や公文書偽造の罪で立件しなかった。身内に甘い対応が、警官全体の信用を失っている。
 現職の警察官(警視庁巡査長)が高齢者宅に侵入、空き巣被害捜査をしているかのように見せかけて現金やキャッシュカード、預金通帳などを盗み、暗証番号を聞く――前代未聞の連続窃盗事件が今年6月、東京都福生市で起きた。警察手帳や名刺は偽造し、本物の被害届書類を悪用。警察官の地位をふんだんに利用した手口は悪質だ。だが、この警察犯罪の裁かれ方はあまりに甘かった。警察と検察は、ありふれた空き巣事件と同様に、住居侵入・窃盗・窃盗未遂の罪だけに問い、公文書偽造・同行使といった職権濫用に伴う犯罪の立件を見送った。結果、裁判所は「懲役3年、執行猶予5年」の“温情判決”に。新聞・テレビは公判内容を取材も報道もせず事件の風化に一役買っている。これほどの犯罪に警察官が手を染めても身内に甘く実刑にもならないなら、今後も同種の犯罪は続発する。いったいどのような手口だったのか、見破るにはどうすればよいのか、詳報する。
Digest
  • 記者クラブメディアは報道せず
  • 「安定した職」求めて警視庁に入る
  • 警察手帳を偽造する
  • 「空き巣捜査」の芝居打つ警官泥棒
  • 1週間後に第2の犯行 
  • 被害者の眼前で現金350万円を盗む
  • 同僚と口裏あわせ
  • 「大金があったのは偶然」?
  • 犯行後も風俗通い

記者クラブメディアは報道せず

2021年10月11日午後3時、この季節にしては蒸し暑い東京地裁713号法廷で、住居侵入・窃盗・窃盗未遂の罪に問われた警視庁荻窪署交通課所属の元巡査長・戸嶋亮太被告人(36歳)の判決公判が開かれようとしていた。司法記者クラブに傍聴席の大半を占領される――そんな懸念は杞憂だった。傍聴席を見渡しても、新聞、テレビ、通信社といった記者クラブメディアの記者らしい姿を見つけることはできなかった。

戸嶋被告人は、刑務官に伴われ、上下灰色の安っぽい運動着姿で入廷した。痩せ型で、身長は170センチくらい。脂ぎった黒い頭髪の襟足が伸びている。手錠腰縄を解かれて証言台に立った戸嶋氏に、一呼吸おいて瀧岡俊文裁判長が、判決を言い渡した。

連続空き巣事件を起こした戸嶋亮太巡査長(懲戒免職)が勤務していた警視庁荻窪署。「特殊詐欺根絶対策実施中」の垂れ幕が虚しい。
「主文、被告人を懲役3年に処す。未決勾留日数のうち50日を刑に算入する。但し、この裁判確定の日から5年間、刑の執行を猶予し、その期間中、被告人を保護観察に付する」

検事求刑は懲役3年6月。これに対して言い渡されたのは、懲役3年執行猶予5年。執行猶予付きの判決だった。実刑を予想していた筆者は、拍子抜けした。警察権力を悪用した犯罪が、ふつうの空き巣と同じように裁かれてよいものだろうか。そんな疑問を禁じ得なかった。

もし新聞やテレビでこの判決内容が広く報道されていれば、多くの都民や市民が同様の違和感を覚えたことだろう。だが、戸嶋氏の事件に関して、新聞やテレビが警察発表をもとに報じたのは、6月の逮捕時だけ。公判内容や判決についてはどこも報道しなかった。結果、発生から4ヶ月で、早くも事件は人々の記憶から消え去ろうとしている。

記者クラブメディアのこの報道姿勢に、警視庁の幹部たちは、さぞ感謝していることだろう。

「安定した職」求めて警視庁に入る

戸嶋氏の初公判は、9月27日に東京地裁で開かれ、即日結審した。以下は、このときの傍聴取材に基づく事件の概要である。

戸嶋亮太氏は1985年生まれで、秋田県の高校を卒業後、2004年に警視庁に入った。現在でいうⅢ類(高卒相当)だ。

■警察官採用の入口

 警察官は入り口から大きく3つに分かれる。国家公務員Ⅰ種試験に合格して国の組織である警察庁に採用される「警察官僚」、1985 年から警察庁が国家公務員Ⅱ種試験合格者から採用をはじめた「準キャリア警察官」、高校・短大・大学卒で各都道府県の行う試験により地方公務員として採用されるノンキャリアの「地方採用警察官」(警察官の99%以上)。戸嶋はこのノンキャリアである。
 東京都の警視庁は、「警察行政職員」(通訳や鑑識、事務など)と、現場の「警察官」に分けて採用しており、警察官はさらにⅠ類(大卒相当)とⅢ類(高卒相当)の採用枠がある。戸嶋は、このⅢ類に相当する。男女別に採用枠を設けており、直近の採用倍率は7.2倍と公表されている(1,543人受験、213人合格=令和2年度)。

入庁動機について、内部の書類に次のように書いている。

「昔から警察官にあこがれていたというよりは、公務員という安定した仕事につきたい」

望みどおり警視庁警察官になり、戸嶋氏は安定した収入を手にする。だが、ある問題を抱えることになる。パチスロやデリヘルに耽溺し、浪費するようになったのだ。いつから、何がきっかけでそうなったのか

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警察官による空き巣事件の現場付近に掲示されたチラシ。

戸嶋巡査長(当時)が犯行現場に選んだ福生市南田園。

警察手帳の見本(警察白書より)

戸嶋巡査長が盗んだキャッシュカードで出金を試み、失敗したゆうちょ銀行のATM。空き巣の犯行現場にほど近い。

犯行現場ちかくの防犯カメラ。被害届が出され、写真や映像など多くの物証を残していたが、妻が気づくまで戸嶋巡査長(当時)の犯行は発覚しなかった。

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LinXh2021/11/16 07:48
 2021/10/28 09:52
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記者からの追加情報

【2021/10/30追記】取材に対して、警視庁は10月28日、電話で以下のとおり回答した。
1(処分の内容について回答してください)
 戸嶋亮太巡査長の懲戒免職処分は7月16日付で行った。
 監督責任として、次の関係者を処分した(いずれも7月16日付)
 ①荻窪署長(警視59歳):警視総監注意
 ②荻窪署副所長(警視57歳):所属長注意
 ③荻窪署交通課長(警視49歳):警務部長注意
 ④荻窪署所属警察官(警部45歳):所属長注意
 ⑤荻窪署所属警察官(警部補48歳):所属長注意

2(事件後、再発防止策としてなにか行ったか。行った場合はその内容を教えてください)
 「人事管理を再徹底し、組織として再発防止に努める」

 なお、処分を受けた職員の氏名および、一部の警察官の所属部署は明らかにしなかった。

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