富士そば 残業代支払い求め提訴した社員が鬱病退職 朝7時から夜11時勤務、更衣室に泊まり翌朝5時から準備で心身ボロボロ
未払い残業代を請求し東京地裁に提訴している佐伯直之氏(仮名)。超長時間労働でうつ病を発症し、今年3月に退職した。 |
- Digest
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- 突然音信不通になった社員
- 正社員なったとたん地獄が始まった
- “ミスター利益率”の店長だった佐伯氏
- 労働審判で500万円支払い命令、会社は拒否
- 地獄の始まり「家に帰れない」
- 降格されたうえ、とてつもない長時間労働
- 3人辞めて地獄の超長時間労働
- 降格で「社員」という名の役職へ
- 固定残業時間の短縮が実現
突然音信不通になった社員
富士そばの過酷な超長時間労働が社会に知られるようになったのは、2年前の2020年11月に、富士そば労働組合が厚生労働省記者クラブで記者会見をしてからだ。
当時は、係長で月間112時間の固定残業時間が設定されており、過労死ラインをはるかに上回る残業をしても、その残業代は基本給与月42万円以外には支払われていなかった。
実際には、固定残業時間を超える残業をしていた係長や店長は多く、あまりにもの過酷な労働でまともに身体が動かず、心の病を発症して何人もが倒れている。
あまりの惨状を何とかしようという思いで安部茂人係長らが富士そば労働組合を結成。会社と団体交渉を重ね、労働審判に訴えて勝利しても会社がその審判を受け入れなかったため東京地裁に提訴する事態になっている。
佐伯直之氏(仮名・40代半ば)も原告の一人なので、仕事や労働条件改善、そして訴訟の件で安部委員長と頻繁に連絡をとってきた。
安部委員長は2021年1月に懲戒解雇された。労働審判で不当懲戒解雇として勝利したが、これも会社がその審判を受け入れなかったため、現在は東京地裁で地位確認訴訟をつづけている最中だ。富士そば、“コロナ雇調金不正”拒否社員を解雇 地位確認訴訟で浮上した「過労死ライン超が前提」の殺人的長時間労働と仰天解雇理由
したがって、安部委員長は社内に立ち入ることを許されず、ダイタングループ(富士そば運営会社グループ)全体の非組合員社員や非組合員アルバイトとも直接交流することをは難しい。
そこで、富士そば労働組合が加盟する、千葉県の「なのはなユニオン」の事務所や自宅などで、裁判全体の進行や、組合員及び非組合員の相談に頻繁に応じている。その結果、富士そば労働組合の加入者は増加し続けているという。
ところが昨年10月、突然、佐伯氏との連絡が途絶えてしまったのだ。
「電話もLINEも通じなくなり、何度メッセージを送っても音信不通になってしまったんです。悪い予感がして、佐伯はいまどこに勤務しているか知らせてくれとダイタンディッシュ株式会社(富士そばのグループ会社のひとつ)全店のアルバイトさんに頼みました。
実は、組合員はアルバイトのほうが多いのです。で、ようやく、A店舗の組合員アルバイトから電話があり、A店に彼が勤務しているとわかりました。そのアルバイトさんに、佐伯が出勤したらすぐ電話して本人に代わってくれと・・。
こうして、ようやく本人と話すことができ、ほっとしました」
実は、音信不通になる直前に佐伯氏は、長時間労働に耐えられずに心療内科を受診していた。
あまりにも症状がひどく、LINEメッセージを送信することも電話のやりとりもできない状態だったのである。年が明けて今年2月、佐伯氏はうつ病と診断される。結局、翌月3月、彼は退職を余儀なくされた。
現在も治療中だが、そこまでひどい状態になるまでに何があったのか。入社から退社にいたるまでを本人に聞いた。
心の病に陥った佐伯氏は、所属していた富士そばグループ内の2社に対し、合計1483万円の未払い残業代を請求している。 |
正社員なったとたん地獄が始まった
以下は、佐伯氏談である。
「富士そばに入社するまでは、飲食店、スーパーの総菜売り場など、食品を扱う仕事をしていました。2017年5月に小平店が新規オープンしたので、アルバイトとして入社しました。
その2年くらい前に富士そば新宿都庁店で一年未満のアルバイト勤務を経験したことがあります。一度経験しているので仕事がしやすいと思い、最初は荻窪北口店で面接しました。
必ず正社員になるという気持ちがあったわけでなく、しばらくはアルバイトとして働くつもりでした。
新しい店だったのですごく忙しく、早番3人、中番3人、遅番2人 入っていました。オープン時はもっといました」
富士そばの勤務シフトの基本はこうなっている。
・中番 15:00~23;00
・遅番 23:00~翌朝7:00
こうしてアルバイトとして富士そばで働き始めた佐伯氏は、5か月後の2017年10月に正社員となり、小平店から吉祥寺店(武蔵野市)に異動した。
正社員の最初の役職が「主任」であり、ここから昇進して店長(店長は4階級制=店舗主任⇒店長候補⇒店長心得⇒店長)になり、ゆくゆくは係長になる。係長からは、本社勤務だ。
その上が、数少ない課長、その上が常務となる。社員(主任)になると同時に異動した吉祥寺店と井の頭通り店で、佐伯氏は数か月働いた。
年が明けた2018年2月、小平店の店長が異動したのにともない、佐伯氏が小平店の店長に就いた。
店長だが、4階級制のなかの一番下の「店舗主任」という役職だった。
富士そばは、店の売り上げが落ちると、それに合わせて人員が減らされる
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大井町店での雇用契約書によると、勤務時間は朝7時ら午後3時までの8時間のうち7時間15分、休憩時間が45分間となっている。8時間で帰れる店で勤務してもらうと役員から異動を命じられたが、逆に勤務時間は増え、疲弊していった。
シフト表。一番上が店長だが、23時からの深夜勤務から連続して翌日の15時までの勤務もあるなど、かなりきついシフトだとわかる。
店長から一番下の主任に扱いにされ、なおかつ彼以外誰もいない「社員」と呼称される屈辱を味わった。なお、降格しても給料はさげないので、固定残業時間も長いままだったという。
会社を提訴した佐伯氏は、就業規則にない「社員」という役職にされた。ほかにはまったくない「社員」と書かれた名簿を他の社員にも配布され、ショックを受けたという。
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