My News Japan My News Japan ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

単行本『いい会社はどこにある?』発売 本書の目的と使い方

情報提供
「いい会社」実物写真
850頁、ダイヤモンド社、1800円+税。普通の本3冊分。辞典的にご利用いただきたい。

20年1000人の取材をベースに会社や仕事を選ぶ際の基準や思考法をまとめた『いい会社はどこにある?』と題する本が11月30日発売となり、店頭に並び始めた。もともとMyNewsJapanの企画『企業ミシュラン』でずっと連載してきた情報を整理して体系化し、『会社を選ぶ技術』という仮の題で2022年春から半年間、他の仕事を止めて集中的に執筆してきたもの。なにぶん、情報量が多いため、サイトのほうでは、その原文・原画像を連載していくほか、外部メディアとの協働による動画解説も加え、より理解が深まり、知るべき人たちに浸透するよう、工夫していく。内容やメッセージは同じであるが、書籍はウェブのように全面カラーというわけにもいかない限界がありテイストが異なる一方で、眼に優しくハンディで定着度は高いかもしれない。

「いい会社」見出し一覧

本書の「目的」――会社選びの座標軸を持とう

いい会社は、どこにあるのか――。その答えとなるものを示すのが本書の目的である。

結論として、万人にとって「いい会社」というものは存在しない。また、ある人にとっての「いい会社」も、長い人生100年のなかの時期(キャリアステージ、段階)によって、変わっていく。だから、会社を客観的に評価し、自分にとって譲れないポイントを定め、優先順位をつけて、その時々で見定める発想が重要となる。

折しも2020年代以降、急速な少子高齢化によって、日本人の働き手は半永久的に減り続けることが確実となってしまい、労働市場は、世界一と言ってよいほどの売り手市場が続く。20代30代の若い時期ほど、どの会社で働くのかは、選び放題となりつつある。コロナ禍で凹んだ一部の業種(航空・旅行)は復活に数年かかるだろうが、大きな流れは変わらない。

目次
目次

40代50代は、それまでに積み重ねたキャリアによって選択肢は限定されてくるが、家族形態の変化に応じた働き方(単身赴任、共働き)の優先度が上がったり、出世競争から降りたり、独立したりと、60歳以降を意識した決断が求められる。1つの会社に定年まで勤めあげられる確率は下がっているので、常に会社の外に出る準備は万端でなければいけない。

もちろん、最低限の「手に職」が必要であることは、立場を変えて自分が社員を採用する側に立って考えてみれば当然であり、40代以降は、特にスキルと実績を持ち、会社や顧客から選ばれる存在になっていることも不可欠な要素となる。

本屋にて
12/1くまざわ書店(都内)

では、人生の各ステージで、優先順位をつけるための軸となるものは、何だろうか?スキルアップなのか、やりがいなのか、残業時間なのか、雇用の安定性なのか…。私は、この「軸」について、基本的な枠組み(フレームワーク)があるべきだ――との思いで、2004年以来、仮説をもとに検証しつつ、取材を重ねてきた。本書は、その集大成である。

今回示した3つの軸と9個の視点は、1千人超におよぶ現場社員からの生の声をもとに導き出された、2020年代以降の会社選びに役立つ、現実的なものとなっている。

八重洲ブックセンター
八重洲ブックセンター(都内)

筆者は、旧態依然とした昭和企業(新聞社)で3年半の記者活動を行った際には、警察・行政・経営者と、現場から遠い「支配する側」ばかり取材していた。その後、100%外資のコンサル会社に転職して5年間で現場社員のインタビューを約200人行い※、独立後の18年間で約900人の社員をじっくり取材してきた。会社を通さずにアポをとり、フィルターのかかっていない事実を、じっくり聞き出す。会社を通したら、経営側に不利な話はできなくなり、働く側にとって必要な情報(公式には言えない情報=例えばサービス残業や報酬実態など)を聞き出せないからだ。もはや私以上に、業界横断的に社員の労働環境を取材している人物は日本にいない、と自負している。

※活動基準原価計算(Actibity Based Costing)という手法によるものが中心で、課長や係長クラスを1日4~5時間インタビューして業務内容や課題を聞き、そのあと深夜までエクセルに業務や分ベースの活動時間をまとめ、給与データを貰い、どの仕事(活動)にどのくらいの人件費がかかっているかを可視化したうえで業務の最適化(外注化・非正規化)やIT化をするという、実に地道で地に足のついたコンサルティングを行っていた。大企業・中堅企業の現場業務や給与水準の知識が積みあがった。

まだバイトくらいしか働いた経験がない学生は当然として、現在、会社に所属している人にとっても、自分が所属する組織以外の《外の世界》については、わからないものである。特に転職経験がない人は、自分がいつのまにか洗脳されていることにも気づけない。※

※そこが企業の競争力の源泉だったりもする点は、実に面白い。第2章生活軸 ❐人間関係 #【組織カルチャーが自分にフィットしている】 3.その組織の思想性・宗教性を受け入れられる 参照。

働き始めないとわからないのでは、失敗したときの挫折感が大きい。入社前に抱いていた企業や組織に対するイメージと、入社後のリアルな現実との乖離にショックを感じる新社会人は、人材紹介会社による調査で76.6%にも及び、その内容は、給料、昇進スピード、仕事の裁量、残業・休日など多岐にわたる。

リアリティショック
リアリティショックとその内訳

パーソル総合研究所/パーソルキャリア「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」によると、入社後に感じる何らかのイメージギャップ「リアリティ・ショック」を抱える社会人は、76.6%で、その内容は、多い順に「給料・報酬の高さ」(37.4%)、「昇進・昇格のスピード」(31.9%)、「仕事で与えられる裁量の程度」(31.3%)など。調査対象は1700人(うち社会人800人)、調査時期は2019年2月22~25日。

事前に、相場観をもって、効率的に調べ(終章参照)、納得のうえで入社することが重要だ。本書が、その武器となる。

本書の「使い方」と「対象読者」

まずは目次をご覧いただきたい。各々の軸における、全9個の視点と、12の条件、そして37の基準について、現時点での相場を知り、あなたの所属する組織がどのくらいズレているのか、または優れているポイントはどこかを、確認するところから始めてほしい。なるべく視覚的に把握できるよう、ポジショニングマップを多数、作成した。

必ずしも最初からすべてを読む必要はなく、ご自身が興味のあるテーマ(視点、条件)から読み始めていただきたい。「事典」的な使い方でOKだ。

実は一番、手に取っていただきたいのは、高校生・大学生と、その親御さん、進路指導を行うキャリアカウンセラーの方々である。仕事の選択は、たとえば医療系(看護師・薬剤師・医師…)を目指すなら高卒後の短大や大学から専門のコースに入る必要があり、その決断は高校時代に行わなければならない。そこで道を誤ると修正が難しく、正直、私自身も全く、医療系やパイロット(航空大学校)のような多様な道があるという情報が、高校時代、周りになかった。だから、考えることすらないまま、選択肢が消えていた。

ニーズが高いITのスキルや、海外での経験が、社会に出てどれだけ効いてくるのかも、学生生活のなかでは、つかみにくかった。その知識や相場観があるのとないのとでは、加速度的に仕事人生の展開や選択肢が変わってくるにもかかわらず、である。※

※したがって、なるべく高校生でも理解できるよう、脚注に語句の説明や背景解説を増やした。筆者も、高校生・浪人生のころ、小論文対策で読んだビジネス書の内容を理解できずに困った経験がある。

就活生、なかでも20代の「第二新卒」として働く場を探している人たちは、より深刻な実感を持って本書をすんなり読めるだろう。大卒者は平均で3年以内に3割が離職する。20代はやり直しがきくので、本気で仕事人生を考えるチャンスである。一度は働いたからこそ、その違和感や、衛生要因(受け入れがたいマイナス面)、動機付け要因(働くモチベーションにつながるプラス面)を、実感をともなって具体的にイメージできるはずだ。

20代後半から30代半ばまでは、転職市場で、もっとも売れる時期、「売り手市場」である。選び放題なので、妥協する必要も、安売りする必要もない。ぜひ本書を活用して、じっくり企業を見定め、後悔のない会社選びを行っていただきたい。

アラフォー以上の転職市場が伸びたのが、この20年の大きな変化であった。かつては「35歳転職限界説」もあったが、少子高齢化の進行と、頭数の多い団塊世代の引退によって人材不足となり、実績と経験があれば40代でも転職しやすくなった。同じく頭数の多いバブル期入社世代※(50代後半)がこれから5年で引退していくため、その下の氷河期世代(主に40代)は企業にとって層が薄く、補充しようという意識が働く。これまで怠けて何も身についていない人は苦しいが、身につけたスキルの棚卸をして、定年後を見据えた会社選びに本書を活かしていただきたい。

※団塊の世代は主に1947~1949年生まれ。2020年で70代に突入し、この20年間で労働市場から引退した。一方、バブル期入社世代は、1987~1990年に23歳で入社し、2022年で50代後半を迎える。

50代からの軌道修正は難易度が高いのが現実である。ご自身の成功・失敗の経験を踏まえ、子供たちの就職・転職アドバイスに、本書をご活用いただきたい。

誰しもが必ず決断を迫られる就職・転職時の「会社選び」「仕事選び」について、本書が、その根拠となりうる共通の座標軸を持つことによって、納得のいく仕事人生を送れる一助になれば、幸いである。

はてなブックマークコメント

もっと見る
閉じる

facebookコメント

読者コメント

※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。
もっと見る
閉じる
※注意事項

記者からの追加情報

本企画趣旨に賛同いただき、取材協力いただけるかたは、こちらよりご連絡下さい(永久会員ID進呈)
新着記事のEメールお知らせはこちらよりご登録ください。