“リッチな北朝鮮”キーエンス王国(上):毎月払い業績賞与で国内初の平均年収2千万超に
マルクスに見せたい「全員高給」共産主義革命後の世界
企業超分析キーエンス・サマリー |
キーエンスの給料は、日本国内において他に類のないポジションにいる。メーカーでは半導体製造(東京エレク=1399万が筆頭)と製薬大手が平均1千万円超で高いが、それらの2倍近い、ダントツの年収(2279万円)を誇るのだ。①営業利益に連動した業績給を毎月支払うリアルタイム性、そして②高収益企業ながら取締役の年収が5千万円程度という格差のない社会主義的運営により、全員が経営感覚を持って付加価値創造に突き進む。この会社を1代で創り上げた滝崎武光氏は、どのようなフィロソフィーで仕組み化し、やり切っているのか――具体的に解説する。
- Digest
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- 給与水準が図抜けたポジション
- もっとリスペクトされるべき “国王” 滝崎武光氏
- 社員に報いる、尊敬される米国の起業家
- キーエンス「キャリアパスと報酬」解説
- 取締役年収が従業員平均の2.5倍
- 毎月の「仮払い業績賞与」+年4回の四半期賞与
- 「世間相場」の概念なく、付加価値に対し支払う
- 「社員1人ひとりが経営参画」の厳しさ
- 社内格差を減らし全員に経営マインドをもたせる
- マルクス「共産主義革命」後の新世界を体現
- キーエンスとリクルートという両極端
まるでそこは、「共産主義革命」が起きて、プロレタリア独裁を経て実現した、誰も見たことのない「みんなの賃金が高い」無階級社会。だが、これを実現させたのは労働者革命ではなく、1人の起業家だった。カール・マルクスは、今の、疑似共産主義革命が実現しているキーエンスを見て、何を思うだろうか。
給与水準が図抜けたポジション
35歳報酬水準×平均勤続年数マトリクス図 |
全職種でも、キーエンスより上に位置するのは国会議員(年収3400万円)だけ。異常値なので右記図に収まらず、飛び出してしまう。ほぼ並んでいるのがパイロット職(約2200万円)であるが、キーエンスの数字は給与が低い内勤業務職(女性)を母数に含むため、総合職給与だけを抜き出して比べると、国会議員に迫る水準になる。
国会議員は最大6年しか雇用保障がないが、キーエンス社員は60歳定年まで日本の解雇規制に守られる。安定した総合職正社員で、従業員1千人超規模の組織としては日本ナンバーワンの給料で、史上初めて平均2千万円を超えるという偉業を達成した。学卒の総合職社員が、入社2年目に全員1千万円超の年収になるのも史上初である。
従業員2788人に平均2279万円を支払う組織は、日本国への貢献も大変なものだ。保険や年金といった法定福利は労使折半だから、裏ではその3割以上の人件費負担が別途、生じている。もちろん社員の大半が確定申告を行い、所得は100%補足されているため、平均で年800万円ほどにもなる巨額の税と保険料を、きっちり収める。わが国の財政は、キーエンスのような会社に支えられている。
もっとリスペクトされるべき “国王” 滝崎武光氏
このキーエンスを一代で作り上げた創業者の滝崎武光氏(現・名誉会長)は、日本の資産家ランキングで2位となる3兆1700億円(2023年フォーブズ日本長者番付)を築き、納得の付加価値創造ぶり。そのうえで、1位のファーストリテイリングや3位のソフトバンクをはじめ、どの起業家も為しえていないことを2022年に実現させている。それが、社員(平均35歳)の平均年収を2千万円の大台にまで乗せたことだ。同業(オムロン、パナソニック、三菱電機など)相場の約3倍である。
本人と家族の資産だけ膨らませる起業家とは異なり、社員の賃金もトップに引き上げた稀有な起業家・滝崎武光名誉会長 |
柳井正、孫正義、永守重信、三木谷浩史…といった日本のトップ起業家たちは、自分とファミリーの資産ばかりを膨らませ、従業員は低賃金のまま放置していて平然としているタイプばかりだ。いずれも自分の妻や兄弟・子どもといったファミリーに株を持たせ、役員に就かせ、資産管理会社を作り、節税に励む。従業員給与は、どの企業も平均600~800万円と相場どおりで、彼らの莫大な資産に比べればゴミみたいな低賃金だ。株もほとんど付与しない。
ユニクロ柳井正氏は、息子2人(柳井一海、柳井康治)に4.68%ずつの株を持たせ、取締役にも選任。株の7割超をファミリーで保有し続け、資本と経営を完全に同族化している。孫正義氏は、
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アルファベット(グーグル)の従業員年収中央値と対CEO比率
リッチな社会主義“キーエンス王国”のキャリアパスと報酬水準
募集要項に「想定年収1千万円~(入社2年目)」と明記
現状では、固定給が年収全体の2~3割。全社業績連動型の賞与が毎月支払われる。
営業利益と社員に還元される利益が常に連動する仕組み
キーエンスのフィロソフィー「最小の資本で最大の付加価値を上げる」
業績にきれいに連動する年収。リーマンショック後の業績ボトムラインで年収1千万円。赤字転落したら…
キーエンス、リクルート、グーグルの社員報酬ベンチマーク
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