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戦闘放棄の武富士から勝ち取った120万円 闘いの日当1,084円也

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武富士支店の壁に掛かる、在りし日の武井保雄・元武富士会長の”御真影”。社員は朝な夕な「会長、今日も一日よろしくお願いします」などと挨拶させられた。2003年12月に盗聴事件で逮捕され会長を退いた後も武井氏は「オーナー」としてあがめられ、御真影をはずさなかった支店もあったという。(2004年6月撮影)
 消費者金融の武富士へ反撃訴訟(原告:金曜日、三宅勝久)の判決が出て2週間。原告側勝訴となった判決の控訴期間が過ぎた。勝訴金額120万円を巡って「貧乏ジャーナリスト」である筆者の周辺も騒々しくなってきた最中、武富士はこの戦闘を放棄し、判決は確定した。武富士からの「いくらほしいか?」という和解金提案に、心が揺れたこともあった筆者。カネには苦労したが、ジャーナリストとして鍛えられた3年7カ月の闘いの日々はひとつの区切りを迎えた。
 「トラフグ料理を食べよう」
 「高級寿司屋だね。ラッキー!」

風呂なし、トイレなし、木造4畳半一間暮らしの「貧乏ライター」の周辺が、最近騒々しい。きっかけは9月22日の判決である。

◇「絶対にあきらめない精神」武富士だったが・・・

筆者は消費者金融最大手の武富士から「お前の記事はウソだから1億1000万円払え」と名誉毀損で提訴されたことに対し、2004年6月、同社と武井保雄元会長を相手どって謝罪と賠償を求める「反撃訴訟」を起こした。その判決が先月22日にあり、東京地裁の阿部潤裁判長は『週刊金曜日』と筆者にそれぞれ120万円ずつ、計240万円の賠償を武富士側に命じる判決を言い渡した。

くわしい判決内容は、当たったか?外れたか?検証「武富士裁判を占う」

地裁判決なので控訴しようと思えばできる。控訴の期限は2週間。武富士は、負けても負けても最高裁まで「絶対にあきらめない精神」で争ってきた。たとえどんなに理がなかろうとも、控訴するのは当たり前。控訴審で敗れても最高裁で戦う。

武富士は戦う会社なのだ。

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東京都千代田区霞ヶ関の東京地裁・高裁。毎日500~700件の裁判が行なわれている。入り口の金属探知機は常に順番待ち。債権取り立てや過払い金返還など、サラ金関連の裁判も急増、裁判官の多忙に拍車をかけている。

少なくともこれまでの態度をみているとそうだった。

筆者が『週刊金曜日』に掲載した3本の武富士の記事について起こした名誉毀損裁判で一審、二審と棄却され、それでも判決が憲法違反だと最高裁に上告した武富士は「(武富士批判をした三宅は)おのれの立場をわきまえない、誠に不遜な態度だ」(武富士の上告理由書)と開き直った。当時は腹立たしかったが、こうした「世界の中心に武富士がいる」という発想そのものが、武富士の本質なのだろう。

 当然、武富士だけでなく筆者の側から控訴することも可能だ。
 勝ったとはいえ完全勝訴ではない。
 謝罪広告を求めた部分は棄却された。

それに金額が安すぎる。 

ただ実際問題としてこちらから控訴するのは得策ではなかった。判決を読めば、実質的に筆者側の完全勝訴になっている。ケチをつけにくい。

◇武富士をコテンパンに糾弾した勝訴

判決理由は、次のように武富士をコテンパンに糾弾している。

 〈言論、出版を始めとする表現の自由が民主主義体制の存立とその健全な発展のために必要とされ、最も尊重されるべき重要な権利であることにかんがみると、権利関係が事実的、法律的根拠を欠くものであり、それを容易に知り得たのに、言論、執筆活動を抑制、けん制するために被告会社(武富士)が訴訟を提起した行為は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものという他なく、原告らに対する違法な行為として、損害賠償の責任を免れない〉

控訴期限の2週間目にあたるのは10月6日。何ごともなく過ぎ、連休が明けても武富士から連絡はなかった。いったいどうなっているのかと、しびれを切らした筆者は裁判所に電話をかけて確認することにした。

「裁判所です」

受付の女性が愛想よく応答する。

--民事15部お願いします。

「お待ちください」

東京地裁・高裁はとにかくどでかい。東京地裁広報部に聞いたところ、法廷の数だけで地裁・高裁とあわせて268。裁判官は合計459人。毎日平均して500~700件くらいの裁判が開かれているのだと教えてくれた。

どおりでエレベーターが混むわけだ。うかうかしていると自分の裁判の法廷がわからなくなったり、エレベーターを待っているうちに遅れてしまう。

電話を掛けるときも、事件番号なり係属している部署の番号を言わないとなかなか担当のところにたどり着かない。田舎の裁判所だと、「民事ですか? 刑事ですか?」ですむところが、東京だと「民事○部」まで言わないと要領を得ない。

筆者は以前、自分の裁判がてっきり「民事12部」だと勘違いして、「弁論準備」という打ち合わせの席に遅刻したことがあった。事件番号を控えていなかったため、汗だくで裁判所の中を、上に下に、右へ左へと走り回った。まるで、巨大な団地に引っ越したばかりで自分の家がわからなくなった小学生のごとき失態である。

◇裁判所「控訴状は出ていませんね」

民事15部に回線が転送され、電話に出たのは顔なじみの書記官だ。

--先日判決があった事件ですが、控訴があったかどうか教えてほしいんですが。

「事件番号を」

--平成16年(ワ)13668…原告の三宅勝久です。

「はい。平成16年…三宅さんと金曜日、被告が武富士…代理人のセンセイですか?」

--いや、三宅本人です。

「あ、ご本人さんね。えーっと…控訴状は出ていませんね」

--じゃ、判決確定ということですか?

「それが…」

控訴期限が過ぎて控訴状が届いていない。ならば勝訴確定だと早合点しそうになったところ、書記官ははっきりとしない。

「何日か経って控訴状が届くということもありますし、高裁に控訴状を出した場合はそちらから回送されてくるので、時間がかかるんです」

--じゃ、いつになったら確定するんですか?

書記官は、申し訳なさそうに言った。

「うーん、1週間もすればたぶんはっきりするでしょうね」

ずいぶん悠長な話である。

それにしても、武富士が控訴しないなんて信じられない。武井会長が亡くなってやる気がなくなったのだろうか。筆者の心には、勝訴確定を期待する半面、相手が控訴して裁判が続いてほしい気持ちがあった。

一方、この頃『週刊金曜日』編集部では、気が早く、勝訴判決が確定したものと見込んで次週の誌面づくりに入っていた。裁判所とのやり取りを、北村肇編集長に連絡する。

--北村さん、どうも1週間くらいしないとわからないらしいですよ。

「へえ、変な話だなあ(笑)。弱ったね…」

--こうなったら武富士に聞くしかありませんよ。

「じゃ、そうしてもらえますか。ヨロシク」

判決が確定したかどうか確認するのに、どうしてこんなに手間取るのか。武富士が「控訴するぞ」とか、「控訴断念した」とはっきり言えばすむことだ。

◇「武富士広報部で~す」から一転、ぶっきらぼうな応対へ
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上:武井元会長が死去した直後の、武井ファミリーの自宅「真正館」。武富士の研修所をかねる白亜の豪邸で、地下にはプールもある。屋敷の全景を見るにはヘリコプターが必要。ここには社員の付き人が寝泊りして、元会長や次男・健晃専務の世話をしていたという。下:武井元会長亡き後、武富士を担うとみられる武井健晃・代表取締役専務。「回収ぜんぜん足りねえじゃん」などと激しくも愛嬌ある罵声「ゲキ・バキ」には定評がある。(社内報『竹の子』より)

腹立たしい思いで武富士広報部に電話する。聞きなれた威勢のよいかすれ声がした。

「どうもありがとうございます。武富士広報部で~す」

記者クラブ潜入事件で武富士記者仲間の間ではおなじみとなったI広報部員だ。声でわかる。I氏は、2002年頃、金沢市内で開かれた武富士告発集会でも会場に潜入、参加していた中日新聞の記者が武富士を批判する発言をひそかに録音した。

この録音をネタに武富士は中日新聞に乗り込み、「オタクにこんな記者がいる。いかがなものか」と圧力をかけたという。

もっとも自動車の広告で潤っている中日新聞は、武富士の圧力をものともせず、各紙がビビりまくる中で過激に武富士批判を展開。怒った武富士は一時広告を引き揚げる制裁措置に出た。このとき中日新聞が失った広告費は1億円とも言われる。

--三宅ですが。

「はい」

電話をかけてきたのが筆者だとわかったとたん、I氏の口調がぶっきらぼうになった。

--Iさんですか?

「ええ、そうです」

自分から名乗らないのは、武富士広報部員の常である。続いて本題に入った。

--私と『週刊金曜日』が武富士さんと武井元会長を訴えている裁判ですが、これ、控訴されたんですか?

「あ、ウチのほうですか。ちょっと法務部に確認しないと」

--裁判所に聞いたらまだ控訴状は届いていないということですが。武富士さんが教えていただければすぐわかりますので、ぜひわかればお答えいただきたい。

「回答できるものがあればですね」

「三宅さんには何も答えられない」の一点張りだった以前に比べれば、これでもずいぶんとマシな対応になった。

I社員と再び電話で話したのは、それから4~5日後のことである。

◇「していません」「もう、いいですか」と答える武富士広報部
--Iさん。控訴の件どうなりました?

「ああ、三宅さん。電話がつながりませんでしたよ」

I社員は不機嫌そうに言った。筆者の携帯電話のバッテリーが切れていたときに、電話をくれたようだ。

--すみませんね。で、控訴の件、どうなんですか?

「してません」

筆者の問いかけにI社員は木で鼻をくくったような口調で答えた。

--確定ということですか?

「そうですね」

--わかりました。

「もう、いいですか」

--ええ、では(切)

 思えば4年前、筆者は、取材に対する回答の電話をかけてきた武富士広報部員と、つっけんどんな会話を交わしていた。 「ご指摘の事実はない!」 具体的な内容を明らかにする予定はあるのか! 「ない」

広報部員とのけんか腰のやり取りで始まった泥沼戦争は、終わりもまたつっけんどんだった。

それにしても控訴断念とは武富士らしくない。さびしい気分だ。武井元会長にも健晃専務にもとうとう会えずじまいである。裁判所がもっと早くから真相究明に積極的だったら、ひょっとして元会長の尋問が採用され、いろいろ聞くことができたかもしれない。

◇勝訴金額換算すると闘いの日々は920円/日

感傷にひたる気持ちはよそに、周囲では相変わらず「120万円」をめぐる冗談とも本気ともとれない下世話な話題で盛り上がっている。

「ねえ。三宅さん、いつおカネが入ってくるの? 飲みに行きましょうね。三宅さんのおごりで…」

しなを作るようにして言うのは、十数ヶ所も職場を転々とした末にフリーライターとして独立したA子さんだ。こまめに働くので筆者よりも収入がいいらしい。

「120万円」のことを話題にされるたびに「うーん」とか「いや」とか生返事をしていた筆者は、120万円を1日当たりにするとどれくらいになるのか計算することにした。

2003年3月14日の武富士による提訴から、今年9月22日まで、一連の裁判に要した時間は3年7ヶ月、日数にすれば約1300日だ。この間、裁判のことを考えなかったことは1日たりともなかった。

120万円を1300日で割れば1日当たり920円となる。

「120万円入るんでしょ」

--1日当たり1000円以下。大変なのよ。

「たしかに安いねえ」

◇利息分を計算すると164円/日

くどくど釈明したり説明したりする手間がはぶけ、「920円」というのはなかなか便利であった。すると、政治資金収支報告書など数字に強い某紙のサラ金担当記者がこんなことを言う。

「ボクは『120万円で』なんて言わないから安心してね。利息で十分。利息で“三宅基金”つくろう」

不覚にも利息のことは考えていなかった。確かに判決を見ると「被告らは、原告三宅勝久に対し、連帯して120万円及びこれに対する平成15年6月2日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え」とある。

いったいどれくらいの利息がつくのかと、興味がわいて電卓を叩いてみた。

 元本120万円に対して年利5%。

いますぐに払い込まれたとして、3年と4ヶ月分だ。まず年利計算から。

 1,200,000×0・05=60,000 
 年利6万円だ。これを日数で割る。

60,000÷365=164

 1日あたりの利息は164円。これに3年4ヶ月の約1200日を掛ける。

164×1,200=199,260

 なんと利息だけで約20万円もあるではないか。

長く裁判をやった甲斐があった。元本とあわせて140万円。164円のチリが積もって20万円になっている。

◇武富士が顧客から分捕る利息27.375%、勝訴裁判利息5%の差
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武富士に、年利27.375%、月6万円払いで貸し付けたときのシミュレーション計算書。リボルビングというのは、右端の元本が120万円までなら、途中で何回でも借り増しができるシステム。元本が大きくなれば利息もふえて、「三宅勝久」産業はウハウハ儲かる。利息計算ソフトは、外山敦之司法書士のHPを利用。

「利息が20万円つくらしい」

占いの先輩(「勝つか負けるか!武富士裁判を占う」参照)でもあるマイニュースジャパンの編集者の山中登志子さんに自慢した。すると彼女はこう言った。

「武富士の利息だったら、どれくらいもらえるの?」

なるほど。武富士が顧客から取っている利息はグレーゾーンの27.375%だ。貸すときは高い利息を取っておいて、払う段になると5%とは、いかにも不公平である。

再び電卓の登場。年利5%を27.375%にして計算し直す。

1,200,000×0.275÷365×1200=1,080,000

 今度は利息が108万円。元利合わせて228万円。

サラ金が儲かるのがよくわかる。

しかも、これは元利一括返済の単純な計算だから、大手サラ金会社が一般的に行なっているように毎月定額の分割返済にすれば、もっとオイシイはずだ。

筆者は次第に守銭奴のようにカネの計算に没頭していった。電卓ではこと足りなくなり、インターネットで無料公開されている利息計算ソフトを使うことにする(画像はシミュレーション計算書)。

武富士に、筆者が120万円を貸したらいくら儲かるか。

月々の返済は6万円。金利は「27.375%」。一度も追加借り入れがなく順調に返済した場合とみなす。武富士は毎月6万円ずつ27回払って、2年4ヶ月後に完済する計算だ。

3年4ヶ月分の利息とは別に、来月から支払いを開始したとして筆者には元利合わせて162万円あまりが入る計算だ。計42万円の丸もうけ。これだけあれば、筆者が暮らすアパートの家賃1年分が優に払える。

利息の制限を緩和すべく、サラ金業界が政治家に献金したくなりわけだ。武富士は1兆5680億円(2005年3月)もの貸付残高を持つ。利息の売り上げだけで3400億円以上(2005年3月)。儲ければ儲けるほどに欲深くなり、泥沼にはまっていった故・武井さんの気持ちもわかる気がする。

◇武富士の和解提案「いくらほしいか?」に心揺れた

カネの話ばかりで恐縮だが、まだ反撃裁判が続いていた昨年暮れ、武富士から「和解金支払い」が提案されたことがある。裁判所の強引な和解勧告によってしぶしぶ和解協議のテーブルについたところ、武富士側が突如「金なら払う。いくらほしいか金額を提示してほしい」と言い出したのである。 

和解は絶対にあり得ないと思っていただけに驚いたが、告白すれば、このとき筆者はカネに少しだけ心が動いた。

大金を扱い慣れていない貧乏人の弱さかも知れない。

武富士はカネを払う用意があるとしながらも、謝罪はかたくなに拒んだ。応じるか、蹴るか--筆者は判断を迫られた。

 裁判官「どうしますか?」

弁護団「ちょっと協議します」

民事15部の狭い打ち合わせ室を出た弁護団と筆者、金曜日の関係者は、薄暗い廊下で輪になって顔を見合わせた。

「三宅さん、どうしますか?」

一同の視線が集まる

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枕流2008/02/01 02:50
2008/02/01 02:50
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記者からの追加情報

■武富士らしくない控訴断念。武井元会長に法廷で会いたかった筆者は、こんなことを空想してしまった。

原告代理人「タケイ被告、あなたはなぜ原告の三宅さんを訴えたのですか」

武井「わたしはいっさい知りません」

原告代理人「しかし、記事は事実だと知っていたんでしょう?」

武井「知りません」

原告代理人「じゃあ、質問を変えます。あなたはおカネ持ちですが、怖いものがありますか」

武井「はい、財務局と週刊金曜日と妻とヤクザ…あ、いや、外資です」

原告代理人「銀行や生保会社、大蔵省、マスコミ、警察、政治家…あなたに群がった人たちに言いたいことはありませんか」

被告代理人「異議あり」

裁判長「異議を却下します・・」

 (どよめく傍聴席)

武井「恩をあだで返すようなマネは許せん! あんなにビール券や編集協力費あげたのに。銀行のやり方など、商人道に外れた邪道だ。くやしい!」


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