NTT西日本 「リモートスタンダード」で強力に逆補正、勤務地も昇格も望み通りな女性天国に
「地元でのんびり仕事したい女性社員にとって最適な会社になった」
(仕事3.0、生活4.7、対価3.0) |
島田明NTT社長が、転勤と単身赴任をなくすことを掲げた「リモートスタンダード」を発表(2022年6月)して、まる2年。本当に運用するのかが焦点だったが、意外にも実践は急速に浸透しているという。興味深いのは、その目的だった「女性でもまともに働ける環境を整え、性別による昇格や賃金の格差をなくす」ことと相まって、制度運用に「女性優先」が色濃く出ていることだ。
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- 男性には勧められない会社に
- 産休育休を業務期間にカウント
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男性には勧められない会社に
「リモートスタンダードになって、女性社員は、ほぼ希望通りに、勤務地を選べるようになりました。ただし職種までは選べませんから、事務系営業職だった女性が総務部門に異動になったり、いわゆる背番号(前回記事参照)が変わることも起きています。それでも、地元に帰って実家から通いたい人や、昇進しても居住地を変えたくない人にとってはメリットが大きいようで、不満はあまり聞きません。男性は希望が通りずらいです。これまでの性別不均衡を補正するための、強力な動きが起きています」(30代社員、以下同)
職種と勤務地を両方とも叶えようとしたら、当然、ポジションのやりくりで時間がかかりすぎてしまう。そこで、とにかく勤務地の希望を通す優先順位づけを行って、強引に推し進めているという。NTT幹部が対社内でこのようなリーダーシップを発揮するのは過去にないことで、実に珍しい。
NTT西日本のキャリアパスと報酬 |
NTTは年功序列の人事処遇を基本とする会社なので、背番号が変わるような部署異動を行うと「序列」がリセットされ、運用上、2~3年は昇格が遅れることを覚悟しなければならなかった。ところが、ここでも強力な補正が入り、女性は昇進が遅れる心配は不要になっているという。(グレードの昇格と試験のタイミングは左記図参照)
「女性管理職を増やすことも数字でコミットしていますから、女性はG1に昇格するための専任課長試験(G1=旧組合員課長で、支店課長クラス)に、直近でいうと95%くらい合格しています。一方で、男性はそのあおりで、6年連続で落ちる者が出るなど、逆風が吹いています。今のNTT西は、男性には働く場として勧められません。男性は受けても4分の1しか受かりませんから。最近、新任課長研修を受けた同僚に聞いたら、出席者の7割以上は女性だった、と」
実際、過去3年の公表データ集計でも、女性のほうが男性の2倍(7.8%:3.9%)も昇進しやすくなっている事実が開示されている。直近ではこの差が、さらに加速している、とみてよい。
■数値目標=2025年度末に、管理職の女性比率15%以上(2026年3月末)
現状=管理職に占める女性労働者の割合9.1%(2023年3月時点)
(女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画より)
目標値は、管理職の女性比率「15%以上」である。わずか3年の間に、女性の管理職を1.7倍に増やさなければいけない。そのため、女性をどんどんプロモーションにかけ、昇進試験は「受ければ合格」という勢いにならざるをえない。逆にいえば、課長ポストの数は一定なので、その分、5年前なら課長に昇格できていた男性が昇格できなくなった、ということである。
産休育休を業務期間にカウント
これまでのNTTは、政府系企業にもかかわらず、あまりにも露骨な女性差別を長きにわたって放置してきた。よって、強力な補正が必要になっている事情は理解できる。これまでの差別人事の典型が、子育て中のママ社員は転勤できるわけがないのに、転勤しないと昇進させない、という人事制度の運用だった。このボトルネックを、今回、リモスタに変えたことで取っ払った。さらに、産休・育休期間の扱いも変わったという。
「これまでは、育休・産休をとると、昇進が遅れていました。一応、産休・育休復帰後の特別昇格試験に受かれば昇進できましたが、その前提として、同じ部署で一定期間の勤務期間がないと昇進試験を受けられなかったからです。これが現在では、産休・育休で業務から離れている期間も勤務中と同等の扱いになり、昇進の順番で不利になることがなくなりました。逆方向に、極端な補正がかかっているのが実態です」
実際には出勤していないので、業務の経験値は低いまま昇進することになるが、一方で、産休育休中の経験は、NTTでのルーティン業務よりもはるかに新しい学びが多く、成長できる経験とも言えるので、これは捉え方次第である。とにかく、180度の方向転換で、巻き返し政策が遂行中なのである。
出世レースのルールが変わった男性社員にとっては、給料も上がりにくい、勤務地も女性優先で選びにくい、ある日突然、強引な補正で昇進した年下の女性上司の下で働くはめになる…と、なかなかに理不尽な労働環境がしばらく続きそうだ。すべて、NTT歴代経営者たちと、強い権力を持ちながら女性の働く環境を軽視し続けてきたNTT労組幹部たちによる、差別意識に満ちた不作為に責任がある。
ノーメンクラトゥーラ化する本体社員たち
リモートスタンダードの導入によって、出社が出張扱いとなり、交通費が出るようになった。基本はリモートだ。実際、2年前の制度発表当時はコロナ禍ということもあり、リモートワーク率が66%と高く、3日に1日だけの出社だった。2023年3月期目標は「70%」に設定され、実績は57%、と発表されている(電線の工事部門などエッセンシャルワーカーをのぞく)。過半であれば、リモートのほうがスタンダードと言える。まずまずの運用である。
「自分も、ここ1~2年、週2でオフィスに行くくらい。来ない人は、ホントに数か月間、ずっと会社に来ません。通信会社なので、遠隔でもできる仕事が多いのは事実です。できないのは、データセンターでの物理的なサーバ設定や保守作業くらい。あとは、営業の最初の顔合わせ。営業でも、毎回、物理的にお客さんと会う必要はないです。製造業ではないので、機器を扱ったり、客先でデモをしたり、納品するといった仕事も発生しません」
前述のとおり(→前回記事参照)、SIプロジェクトは、マイクロソフトやNECなどがインプリを担当し、さらに実際の作業は、その下請けが担当する。コールセンターは子会社が担当し、保守管理も子会社社員と派遣社員が実働部隊となる。日本のITゼネコンで常態化している2次3次4次の多重下請け構造のなか、元請けとなるNTTはリモートで事足りる、ということだ。実に「よい御身分」なのである。
「私の同期は、地元に戻って、家を買って、リモートで仕事をしている人もいるのですが、NTTが手掛けているようなインフラの仕事は、現場に行かないといけない作業も絶対にあるわけです。そういう現場の仕事は、子会社、パートナー企業、派遣の人たちに丸投げして、本体の人たちは完全リモートOKというのは、なんかひどいなぁ、と思っています。旧共産主義国のノーメンクラトゥーラと一緒じゃないか、と」(40代元社員)
ソ連を崩壊に導いた共産貴族の官僚ノーメンクラトゥーラとリモスタ下のNTT社員の類似は、言い得て妙である。
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NTTが1位だった1989年。時価総額トップ10の変遷、ダイヤモンドオンラインより。
NTT西日本のキャリアパスと報酬
NTT西30代後半「G2」の年収。年300時間超の残業代(平均より多い)を含む。
固定電話契約数の推移。1970年代以降、設備工事のため大量採用を続けたツケが21世紀にのしかかった。固定電話契約数は急減したが、社員は65歳まで雇用義務がある。リスキリングによる再戦力化が不可能であることを、壮大な実験で立証した。
NTTの人口ピラミッド。団塊の世代は現在75歳前後で完全に引退。
NTT西日本の評価結果と根拠詳細
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