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早大が研究不正調査委の報告を虚偽公表、指導教員・吉田文教授の責任をなかったことに――国際教養学部助教の博士論文不正問題で

改ざん認定でも博士の学位剥奪なく訓戒処分のみ

情報提供
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小保方晴子氏の研究不正では2015年に博士学位を取り消した早大。今回、調査委が博士論文の特定不正行為(改ざん)を認定した後も、長期にわたりその事実を認めず「本件に関し現在調査中のため、現時点で公表可能な情報はございません」と虚偽説明を繰り返した。教授の保身を優先し、責任を曖昧にする広報がなされており、コンプライアンス崩壊や、早稲田大が出す学位の信用失墜が懸念される。

国際教養学部・助教の博士論文をめぐる不正問題で早稲田大学は、学内調査委員会が「改ざん」を認定した調査報告書を田中愛治総長に提出してから4ヶ月も経った今年3月27日、ようやく不正の事実を認め公式サイト上で公表した。だがその公表内容は、〝指導教員(吉田文教授)のほうが責任が重い〟とする重要箇所を削除しており、調査報告書の主旨を歪曲した、と非難されてもやむを得ないものだった。この点を大学にただすと、広報室広報課(加藤邦治室長)の梅地一義課長は、公表文とは別に正式な調査報告書が存在するという最低限の事実すら頑として認めず、「そのような事実はない」「何をごらんに?」「ちょっとまだよくわからない」と虚偽の説明を繰り返すのみ。しかも、その問題の公表文を、掲載から3ヶ月も経たないうちに削除してしまった。調査委の報告を軽視する姿勢は甚だしく、指導教員の責任がなかったかのような印象操作を大学ぐるみで行っている疑いが濃厚だ。

Digest
  • 4ヶ月おくれの発表
  • 3枚モノの「報告」
  • 早稲田大学広報課の嘘
  • 「そのような事実はない」という嘘
  • 調査委員会と査問委員会
  • 報告書にない「軽微な程度」
  • 広報課が寡黙になったワケ
  • 情報源をさぐる広報課の取材対応
  • 正式な調査報告書の存在を認めない奇妙
  • 回答していないのに「これまで回答したとおり」と詭弁
  • 「軽微な程度」は査問委員会の判断だった
  • 文科省に情報公開請求
  • 限りなく故意が疑われる
  • 黒塗りされた「発生要因」

※研究不正を認定した調査報告書(2024年2月5日付、文部科学大臣宛)全文および問題となった論文3本はPDFダウンロード可

筆者が独自取材で調査報告書を入手したのは昨年末だが、取材源保護の観点からこれまで公開することを控えてきた。このほど、文部科学省への情報公開請求によって調査報告書(助教が不服申し立て→再調査→却下――を経て4頁分加筆された改訂版)を取得したので、早稲田大学の虚偽説明を裏付ける決定的証拠として全文公開する。

4ヶ月おくれの発表

発表文1
3月27日に早稲田大学公式サイトに掲載された、沈香雨助教の博士論文の不正が調査委によって認定され、それを受けて訓戒処分にした旨を伝える公表文。学位剥奪はしないとの決定も記載されている。

早稲田大学国際教育学院助教・沈雨香氏の博士論文(テーマは中東地域の女性の高学歴に関する調査・分析)をめぐる研究不正問題で、同大は今年3月27日、不正の事実を公式サイト上で発表した。学内の調査委員会(学術研究倫理委員会の下に設置)が不正(文部科学省「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」が定義する特定不正行為。以下=「文科省ガイドライン」という)を認定し、調査報告書として田中愛治総長に報告したのは昨年11月28日で、それから4ヶ月が経ってからの公表だ。

同大公式サイトに掲載された文書は2種類ある。「本学教員による研究活動に係る不正行為について」と題する記事(左記)と、添付されたPDF形式の3枚ものの別紙「研究活動に係る不正行為の調査結果について(報告)」だ。掲載は一時的で、現在は削除されている。

記事には、沈助教の博士論文など複数の論文に「改ざん」などの不正があった旨、調査委員会が認定したことや、学内手続きによって訓戒処分にした旨が簡潔に書かれている。調査委員会の「調査結果」の詳細は別紙(PDFファイル)を参照するよう案内がなされている。

その別紙を見ると、「(報告)」と題名にあるものの、わずか3枚で、作成日付や作成者、報告する相手も書かれていない。正式な調査報告書ではなく発表目的で要約したものであることは一見してわかる(以下「要約版報告」という)。

3枚モノの「報告」

要約版報告
調査委員会の「調査結果および対応の詳細」を説明する目的で早稲田大学が公式サイトに掲載した文書。「研究活動に係る不正行為の調査結果について(報告)」と題されているが、作成者や作成日付、報告の相手方など基本事項の記載がなく、正式な調査報告書ではないことが一見してわかる。

要約版報告によれば、調査委員会は2022年10月24日~23年11月27日にかけて調査を行い、沈氏(博論が合格した後に助教)の博士論文を含む4件の論文に「改ざん」(文科省ガイドラインが規定する特定不正行為)を認定したと書かれている。また沈助教を訓戒処分にした旨や、博士の学位剥奪はしない旨の決定事項もあわせて記載されている。

これらの公表内容を読んだ私は、いくつか疑問を覚えた。そのことについて述べる前に、これまでの取材の経緯について少し説明しておきたい。

私は昨年末の時点で調査報告書を入手した。だがその全文を記事で公開することは控えてきた。学内規程や法令に触れるわけではなかったが、当時は調査報告書の入手先が限られており、大学当局があらぬ詮索をして関係者に迫害が及ぶおそれが懸念されたからだ。私は手元にある調査報告書の具体的内容を極力示すことなく大学広報課に取材を行い、不正認定の事実を認めさせようと試みた。

だが広報課は、「本件に関して現在調査中のため、現時点で公表可能な情報はございません」などとはぐらかし、決して認めようとはしなかった。

そして、今回の公表に至ったといういきさつだ。

疑問は、まず、公表になぜこれほど時間がかかったのかという点だ。昨年11月28日付で調査報告書が田中総長に提出された。この報告によって、不正認定がなされた事実を総長は確認した。文科省ガイドラインは、調査の結果、特定不正行為を認定した場合は「速やかに」公表するよう定めている(後に詳述する)。4ヶ月も公表しなかったのはガイドライン無視ではないか。

もうひとつの疑問が「消えた記述」だ。調査報告書には、指導教員の責任がより重い、とする記載がある。

「…調査対象者を指導すべき立場にあった指導教員および当該研究科の学位審査体制については、調査対象者に比べて責任が重いといわざるを得ない」

ところが、今回大学が公表した「要約版報告」にはそれに該当する部分がない。これはどういうわけか。

早稲田大学広報課の嘘

指導教員の責任
11月28日付調査報告書には指導教員の責任に言及した部分があるが、大学の公表内容にはそれがいっさい見あたらない。

発表翌日の2024年3月28日、私は早稲田大広報課に電子メールを送り次の質問を行った。

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研究不正の調査の手順などを定めた文科省ガイドライン。特定不正行為(盗用・捏造・改ざん)を認定した場合は速やかに公表するよう規定されている。

早稲田大学国際教養学部。

早稲田大学の学内規定で、助教になるには博士学位を持っていなければならない(早大公式サイト、2024年6月16日現在)

沈助教の博論不正に関する早稲田大学の公表文は3ヶ月もしないうちに削除された(2024年6月17日)。

昨年11月28日付調査報告書。

文部科学省(東京都千代田区霞が関)。調査報告書の記載のうち「発生要因」部分を不開示にした。早稲田大学に忖度したのか。

調査報告書の開示請求(今年2月29日付)に対し、文科省は3月28日付でいったん全部不開示とする決定を行った。口頭で苦情を申し立てたところ、見直しがなされ、部分開示する訂正の決定が5月9日付でなされた。

文科省から開示された調査報告書(2024年2月5日付の改訂版)の表紙。

改訂版調査報告書に加筆された「発生要因」は全部不開示とされた。文科省は早稲田大学に忖度したのか。

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