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早稲田大学が研究不正 教育学部大学院・沈雨香助教の疑惑だらけ博士論文に学位授与

指導教官で論文審査主査の吉田文教授と癒着か

情報提供
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博士の学位を取得後、大隈重信の銅像の前で記念写真を撮る沈雨香氏(現・助教、右)と指導教官で論文審査の主査・吉田文教授(左)。ロータリークラブのホームページより。

早稲田大学国際学術院に所属し、同大とカタール大学との共同研究プロジェクトに研究員として参加している沈雨香(シン=ウヒャン)助教(教育学)が2020年に博士学位を取得した際の論文をめぐり、論文の主要なテーマであるアンケート調査の集計・分析表が、内容の異なるテーマで執筆した別の論文の表と酷似するなど公正さに疑問があることが発覚した。同種の疑問はほかの部分にもみられ、しかも専門知識がなくても容易に発見できそうなものばかりだが、なぜか論文審査で問題になった形跡はない。審査を行った責任者は、沈氏の指導教官である吉田文教授。日本教育社会学会会長経験者で現在は日本学術会議の部会長を務める”文系の大物”だ。吉田教授は沈氏の学部生時代から約10年にわたる親密な交流があるとみられ、師弟の馴れ合い関係を背景にずさんな論文審査が行われたとみられる。

Digest
  • 疑惑の表
  • 「1国の調査」と「6か国の調査」が同じ結果?
  • 2021年発表の論文の表とも矛盾
  • 偶然の一致か捏造か
  • 1人の発言が2人の発言に?
  • 問題の博士論文がネット公開されていないわけ
  • 数々の疑問を論文審査がスルーしたワケ
  • 大学は取材拒否、研究不正調査中か

※問題の博士論文ほか資料4点はPDFダウンロード可

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カタール大学との共同研究プロジェクト「カタールチェア」の紹介をする早稲田大学のホームページ。沈助教は早稲田大学を代表する格好で参加している。

疑惑の表

論文不正の疑いがあるのは早稲田大学国際学術院の沈雨香(シン=ウヒャン)助教だ。カタール大学と早稲田大学が連携して立ち上げた研究プロジェクト「カタールチェア」(2019年から10年間の計画)に、早稲田大学を代表して送り込まれた研究員でもある。

早稲田大学のホームページによると、プロジェクトの予算は両大学がそれぞれ650万ドル出し合い、計1300万ドル(現在のレートで約20億円)にのぼるという。

沈氏が助教になったのは2021年4月。早稲田大学の規定で、助教に応募するには博士号を持っていることが条件になっており、沈氏は前年の2020年に博士の学位を取得する。

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研究倫理違反が疑われる博士論文。

その際の学位論文――「中東湾岸諸国の女性はなぜ高等教育へ進むのか」と題する英語の論文(原題「What is higher education for? Educational aspirations and career prospects of women in the Arab Gulf」。以下「博士論文」)をめぐる不正疑惑が、本稿の主題である。

博士論文が取り上げたテーマは中東地域の女性の進学状況だ。アンケートとインタビュー調査に基づいた分析を行っている。本文だけで190ページ以上、資料を含めると230ページを超す。簡単な趣旨が論文審査要旨の冒頭部分に要領よくまとめられている。

 本研究の目的は、GCC(Gulf Cooperation Council)を構成する6ヵ国(バーレーン、クウェート、カタール、オマーン、サウジアラビア、UAE=アラブ首長国連邦)に居住する、10代後半から20代の女性が、どのような教育アスピレーションをもち、その後の労働参加にどのような展望をもっているかに関して、アンケート調査とインタビュー調査とから、実証的に明らかにすることにある。

最初の疑問は、161ページに掲載された表「Table6.5」(表6.5)についてである。

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博士論文161ページの表。湾岸6か国の調査結果だと説明されている。

表の上部には「The princial componet analysis and purpus for attending university」(「大学進学の目的等に関する属性分析」)という題がある。右上には「n=1,439」との記載があり、調査対象人数が1439人であることを示している。そして、本文などの説明によれば、「Table6.5」は湾岸6か国(5か国+1連邦国)の学生らを対象にしたアンケート調査の集計だとされる。自然に読めば、湾岸6か国の学生ら1439人を調査・分析した表であると理解できる。

ところが、内容の異なる別の沈氏の論文をみると、そこにも同じ表があった。

「1国の調査」と「6か国の調査」が同じ結果?

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沈氏がGESPR誌に発表した2020年論文

「調査内容の異なる論文」は2本も見つかった。

ひとつは、沈氏が博士取得直後の2020年7月に、「Gulf Education and Social Policy Review 」(GESPR=湾岸地域の教育社会政策レビュー)という海外の論文誌に発表した論文、「For Love, Money and Status, or Personal Growth? A Survey of Young Emirati Women’s Educational Aspirations」(「愛のためか、金と地位のためか、それとも個人の成長のためか。アラブ首長国連邦の若年女性の教育願望に関する調査」)だ (以下「2020年論文」)。

2020年論文表
2020年論文の81ページに掲載された表。博士論文と内容は同じだ。

この論文の81ページに「Table5」(表5)という表が載っている。

体裁こそ異なるものの、内容は博士論文の表と同じだ。しかも博士論文の調査対象が「湾岸6か国」であるのに対して2020年論文のほうは「アラブ首長国連邦」1国の調査となっている。奇妙というほかない。

2021年発表の論文の表とも矛盾

もうひとつの論文は、沈氏が2021年に学内誌「早稲田教育評論」第35巻第1号で発表した「Does What You Study Matter? Comparison of Career Aspirations Between Female Students in Arts and Science Streams in the UAE s Higher Educational Institutions」(「勉強する動機はなにか? UAEの高等教育機関における文系と科学系の女子学生のキャリア願望の比較」(以下「2021年論文」)である。

2020論文解説
表は博士論文と同じだが、調査対象は「アラブ首長国連邦」1国であると説明されている。

この論文の51ページの表「Table3」(表3)が、博士論文の表と同じなのだ。そして本文によれば、2020年論文と同様に、表は「アラブ首長国連邦」1国の調査結果だと説明されている。

6か国の調査と1か国の調査が同じ結果というのは、常識的に起こり得ない話だ。

付言すれば、博士論文の表には「1439人」という調査の母数が記載されているのに対して、2020年論文と2021年論文の表には母数がない。この点も奇妙である。

偶然の一致か捏造か

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学内誌「学内誌「早稲田教育評論」第35巻第1号に掲載された論文(2021年論文)に記述された表。博士論文の表と同一だが、アラブ首長国連邦1国の調査結果だと説明されている。

沈氏の博士論文に関する疑問は「表」だけではない。次に紹介するのが「インタビュー」に関する矛盾である。

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博士論文(右)と2021年論文(左)に記述された調査対象者「UW4」の発言。内容が完全に一致している。

博士論文(上)と2021年論文(下)にそれぞれ記述された調査対象者「UW4」の属性データ。職業や専攻科目が異なり、別人であるとの説明になっている。

博士論文に記述された調査対象者「UW7」の発言。

2018年4月にアラブ首長国連邦で開催された国際学会での口頭発表資料に記載された、調査対象者2人「G1」「E1」の発言。博士論文では「UW7」という1人の発言と説明されている。

ずさんな博士論文の審査が行われた疑いのある早稲田大学教育学部(奥の建物)。

早稲田大学大隈講堂。

笑顔で写真に収まる吉田教授と沈助教=当時は教育総合研究所研究協力員(沈氏のフェイスブックより)。

吉田文教授は日本学術会議の第1部会部長という要職にある。論文査読に関する文科省への提言を作成する作業にもかかわっている。

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記者からの追加情報

(追記)
沈助教の論文に関して研究不正の調査がなされているか、また調査結果を公表する予定の有無について早稲田大学に質問したところ、12月8日、広報室から次のとおり、調査を行っている旨の回答があった。
「(前略)研究不正の通報があった場合には、調査委員会を設置し、調査の結果、 研究不正が認定された場合には、調査結果を公表します。  なお、現在、本件については、調査中であり、現時点で公表できる情報がございませんので、回答は差し控えさせていただきます」  
お詫びと訂正:文中、2018年学会発表資料12ページのインタビュー回答部分の引用と翻訳の一部を「(G1)」と誤っていました。正しくは「(E1)」です。お詫びして訂正します。文中「休職中」とあった記載は、「求職中」の誤りでした。お詫びの上、訂正します。また「a good person」の日本語訳は「立派な人」で統一しました。(筆者、2023年12月6日本文訂正済み)

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