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トヨタ正社員が告発「パワハラ受け鬱病で1年半休職中です」

内部報告書で改善拒否「パワハラの事実確認できず改善も謝罪も不要」

情報提供
修正済:通知書もつ原沢氏マスキング
パワハラがあった事実を認めてほしと訴えるトヨタ正社員・原沢武氏(仮名・40代)

トヨタ自動車田原工場の現役正社員・原沢武氏(仮名40代)は、労災隠し事件に遭った後の2022年1月以降、新たな事件に直面した。〝パワハラ上司〟問題である。2023年3月、大声で上司から叱責された原沢氏は、帰宅後、妻に頼まれ、娘を車に乗せて塾まで送って行くつもりが、同じところをグルグル回って、娘を乗せたまま自宅に戻ってきた。急遽、専門医に見てもらったところ「うつ病」と診断され、2023年3月末から2024年9月現在にいたるまで1年半に及ぶ休業を余儀なくされている。その間、イオンモールでトヨタの同僚と顔を合わせるとパニック状態で過呼吸になり、一人で走って逃げ去る事態に。隣接県のトレーラーハウスを借りて住みトヨタ従業員と顔を合わせない措置もとった。このような病状に至るほどのパワハラとは、どのようなものだったのか。

Digest
  • 長女を車に乗せ、同じ道をぐるぐると・・・
  • 2022年1月、上司Aがやってきて環境が激変した
  • 過大な要求をつきつけられた
  • 終業後、駐車場まで20~30分の恐怖
  • 事件前日に上司はパワハラ研修、部下は翌日に心が崩壊
  • 追い打ちをかけられた同日の2度目の叱責
  • 心が折れた・・娘を車に乗せ同じところを徘徊
  • 弁護士を通し交渉 トヨタは原沢氏が主張した内容の一部を認める
  • 「パワハラの事実は確認できず改善と謝罪は不要」(トヨタ報告書)
  • 「なぜここまでして上司Aを庇うのか」と原沢氏
  • 「終業後にも連日、仕事の指示・指摘・叱責」などを完全にスルー
  • いま明らかになった三つの事実

※「トヨタから休業中の社員への12の質問と回答5,321文字」は末尾にてダウンロード可

長女を車に乗せ、同じ道をぐるぐると・・・

「もう駄目だ・・・いったいなぜ、あそこまで言われなければならないのか」

長田
チーフ・コンプライアンス・オフィサーを務める執行役員の長田准氏。1人の社員が労災隠しとパワハラによるうつ病で仕事に就けない事態に陥るという法令無視の状態を現在も放置している。トヨタはグループ全体で次々と型式指定をめぐる品質不正問題などの法令違反が発覚。世間との感覚のズレ、法令順守意識のズレが明らかになっている。

昨年3月16日。大声で上司Aから叱責されたという原沢武氏は、帰宅する車中で何度も繰り返し考えながら、午後6時ころ愛知県豊橋市内の自宅にたどり着いた。

妻に頼まれ、娘を車に乗せて塾まで送って行くつもりだったが、同じところをグルグルと徘徊し、娘を乗せたまま自宅に戻ってきてしまったのだ。

それを見た妻のさゆりさん(仮名)は、「これはただごとではない」と不安にかられた。

原沢氏によると、この日会社で上司のA氏から「やる気がないなら帰れ」「そんなものわからないのか!」というように大声で言われたという。

前年1月以降、上司A氏との接触による緊張に苦しみ、また叱責されるのではとの予期不安にも苛まされてきた。

そういう緊張の中で、自分自身をギリギリ保ってきたものが、臨界点を超えて一気にあふれ出てしまったのである。

この日から、それまでにも増して吐き気やめまいに襲われ、起き上がれなくなってしまった。

医師に「うつ病」と診断され、当面は就業不可能だから休業するようにアドバイスを受けた原沢氏は、いま現在も自宅療養している。心の傷はまだ癒えていない。

2022年1月、上司Aがやってきて環境が激変した

2018年6月仕事中に倒れ、腰に重大なダメージをうけて1か月後に復帰。腰に負担のかからない軽作業を始めた原沢氏も、年が明けてからはだいぶ落ち着き、新たな業務を与えられた。

それは、自動車の製造に必要な材料や部品を運ぶ自動搬送システム(AGV)の修理や軌道修正を扱うものだった。一般的に無人搬送車と呼ぶこともある。

修正済 うつ病の診断書
2022年1月に新しい上司がやってきて以降、徐々に精神に打撃を受け、うつ病と診断されて現在まで1年半もの休業を強いられている。

「ロボット(自動搬送システム=AGV)が動いて物を運搬するのですが、その軌道修正や速度などを調整する仕事です。

搬送システムは広い範囲を動きますから、工場内の一定の場所にいるのではなく、呼び出しがかかるとその場に駆け付けて、ロボットの修理や軌道修正をする業務です」(原沢氏)

その現場に新しい上司A氏がやってき以降、徐々に圧力を感じるようになっていったという。

このパワハラの社内調査報告書「調査結果の報告」(後述)によれば、第三者の社員らによる次のような証言がある。

「22年1月ごろから、原沢氏(原文は実名)の業務は量・質ともに上がった」

「原沢氏はミーティング中に居眠りすることがあり、原沢氏が休務する半年ほど前から目立ってきた」

今から振り返れば、この時点ですでにうつ病になりかけていた可能性もあるだろう。原沢氏が言う。

「そもそも、自動搬送システムの軌道修正など不具合を修正する仕事は、かなり難しいです。上司のAさんはEX(エキスパート=一般社員より上の技能をもつ人)級の人だから理解していたでしょうが、私は平社員です。

やり方を詳しく教えてくれたり、研修があったり、あるいは説明書やマニュアルがあれば、そしてトヨタの工場では必ずある『作業要領書』を与えてもらえば、何とかなるのかもしれませんが、そういうものはありませんでした。

こちらは全く分からないのに『あれやれ』『これやれ』だったのです」

過大な要求をつきつけられた

「Aさんが来てから、休憩時間にも時差休憩腕章をつけたまま仕事させられることも、しばしばありました。それから、電気工事士の資格も経験もないのにギアーBOXを分解して不具合の原因を調べるよう指示されたこともあります」(原沢氏)

妻のさゆりさんによると「今日は休憩を取らせてもらえなかったから疲れた。車の中で休憩したあとに帰るから、子どもたちと先に晩御飯食べていて」というようなことが何度もあった。

原沢氏によると、2022年1月以降は、上司A氏の下で、およそ次のような作業に従事していた。

●ロボットの回路修正作業

「自動搬送機が、鉄板を離すタイミングをずらす作業でした。自動搬送機のメーカーがやらなければならない仕事だと思うのですが、これを休憩時間の10分間で完成させろと強く言われたこともあります」

●自動搬送機のプログラム修正作業

「これもAさんが来てから始まった仕事です。自動搬送機はバッテリーを乗せて動くのですが、この機械の修正作業です」

●エアーシューターの調整作業

「これは空気圧で動く機械の修正作業です。突然、どさっと落ちることも考えられるので知識と技術がないと危険だと思います。

「『作業要領書』に従って作業していくのがトヨタのルールです。見逃しはないか、品質が管理されて一定になっているかなどをきちんとするためです。これは、トヨタでは徹底されてきました。

ところが、作業要領書もなく、それどころか自動搬送システムの説明書やマニュアルもなく、おまけに作業の研修もありません。

現場に呼び出されると、現場担当者かAさんのどちらかから『動かないから動くようにしろ』と言われるだけで、何をどうすればいいかという説明はまったくなし。

どうすればいいですか? と聞くと自分で考えろ、という扱いになり、何も説明してくれないのです。これには、本当に困りました」(原沢氏)

不具合の現状を示されるだけで、どうしたらいいか何の説明も教えられることもなく、ただ丸投げされるだけ。現場で途方にくれる原沢氏の姿が目に浮かぶようである。

そしてこのような状況1年2か月間も繰り返されて、彼は少しずつ精神的に追い詰められていった。

しかし、それだけではなかった。仕事が終わって工場の建物を出てからも、緊張を毎日強いられたのである。

終業後、駐車場まで20~30分の恐怖

トヨタ田原工場Googleマップ
仕事が終わっても、ほぼ毎日駐車場までの20~30分、赤で示したコースを上司と歩かざるを得ず、仕事の注意・叱責を受けたという。

トヨタ田原工場は、国内最大級の広大な工場である。そのため、車通勤する社員のための駐車場がいくつもある。

原沢氏は、新北駐車場と名付けられた場所に車を駐車していた。もちろん、通勤に便利だからである。しかし、22年1月にA上司が着任すると、

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原沢氏を大きな声で叱責したという上司は、その前日にパワハラ(防止)教育を受けたばかりだった。青線は筆者記入。

トヨタの社内調査の結果(一部)

弁護士を通して、パワハラについて調査のうえ謝罪等を要求した。2018年に起きた労災で会社のやり方に疑問をもち、今回のパワハラうつ病で2度目だから声をあげなければならないと原沢氏は考えた。

通知書に対するトヨタの返信。原沢氏が訴えたパワハラについて調査を実施すると回答した。

トヨタからの二度目の返信。パワハラ事件の社内調査をするにあたって、原沢氏本人に質問したいと代理人弁護士に伝えている。トヨタからの12の質問と原沢氏による回答は記事末尾でダウンロード可

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