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1.Pay Now 型 VS Pay Later型 ♯【給与の上がり方がライフプランに合っている】

❐カーブ・分布―対価軸『いい会社はどこにある?』

情報提供
サラリーマンの賃金カーブと実際の貢献2
サラリーマンの賃金カーブと「実際の業務貢献」概念図

関東の私鉄・東武鉄道が、若手の人材確保のために、2023年度から初任給を引き上げる。高卒を10%上げて額面20万円、大卒を5%上げて23万円にするという。鉄道会社のような終身雇用型の古い産業は、《若いうちの低賃金を中高年で回収して生涯で収支を合わせる》という賃金体系になっている。しかし、成長が30年も止まって少子化が進む日本で、30年後に払うから、と口約束されても何の保証もないので、それを敏感に感じ取った若者が逃げ始め、採用できなくなってきたのである。

Digest
  • 初任給引き上げの背景
  • 年功賃金+退職金で「後払い」を徹底
  • 分布=標準偏差とは
  • 後払い&バラツキ小
  • PayNowのバラツキ
  • PayNowでバラツキが小さい会社
  • 追記:新卒~若手の賃金アップは進み、50代は下がる

初任給引き上げの背景

雇用契約書には2年後の賃金すら示されない。将来もらえそうだ、と口約束されている賃金(今の中高年が貰っている賃金水準)は、現在の価値に換算すると、5~7掛けくらいに思っていたほうがよい(割引率が高まっている)。既得権がんじがらめで改革不能な統治権力を持ってしまっている日本の将来は、どうみても経済的に明るいとは言いがたい。

日本企業は厳しい解雇規制によって終身雇用を実質的に義務付けられているため、企業は倒産寸前の状況にでもならない限り、大卒なら23歳から60歳までの37年間を雇用しなければいけない。《60歳になれば問答無用で正社員としては解雇してOKです、ただしその後も年金受給が始まる65歳までは何らかの職をオファーするのが義務です、70歳までは「努力義務」なので努力だけすればOKで結果は問いません》というのが、現状の法律である。

対価軸みだし
第3章対価軸の構成(本稿は単行本『いい会社はどこにある?』の元原稿 《一部アップデート最新版》です)

戦後に成長を遂げた古い日本企業は、Pay Later(後払い)型の報酬カーブとなっている。終身雇用を大前提に置くと、仕事の成果とは無関係な「生活給」方式が合理的だからだ。

子供の教育費や住宅ローン負担が重い40代以降に高い賃金になるように給与制度が設計され、その分、若い20代30代が、実際の仕事の成果よりも低い賃金で我慢する――という世代間賦課制度になっている(記事冒頭のグラフ参照)。若者が年寄りを支えるという点では、日本の年金制度と同じである。

職人と違って、サラリーマンの仕事は名刺の力でやるものだから、3年もやれば誰でもそれなりに1人前にできるものばかりだ。特別な才能がないとできないような難しいものなど、ほとんどない。にもかかわらず、業界によっては「いずれ上がるんだから」という暗黙の了解のもとで、若手の給与水準を意図的に低く抑えている。

ところが、23歳が40代になる20年後に会社がそのまま維持できているかは「時の運」なので、とりっぱぐれる可能性があり、ギャンブル性が高まっている。日本一の売り上げを誇るトヨタ自動車でさえ、急速なEV化で激変する20年後は、どうなっているか誰にもわからない。

EUや中国は、2035年にガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する。トヨタは対応が遅れ、2022年5月にEV車をやっと発売。つまり、EV市場においてのシェアはほとんどゼロで、米国「テスラ」や中国「BYD」に大きく差をつけられている。

JALはリーマンショックの影響で2010年に倒産し、パイロットもCAも事務職も、人員削減の対象となって整理解雇された。業績が悪化せずとも、自身の都合で転職する可能性も高い。

年功賃金+退職金で「後払い」を徹底

実は、このギャンブルの“掛け金”は、強制徴収されてしまう。“実質後払い”の給与だけにとどまらず、60歳満期で税制優遇※を受けられる「退職金」という金融商品に、入社と同時に、有無を言わさず強制加入させ(なんと採用前に退職金制度の内容を開示する義務は一切ない)、年平均60~80万円ずつ裏で積み立て、60歳で2~3千万円の退職金を貰うのが一般的である。

60歳以降は、希望者のみ1年契約の非正規で再雇用され、新入社員より少し高いくらいの年収で5年間を過ごすのが一般的で、65歳から厚生年金が支給される。年金額は、現役時代の年収に応じて、15~20万円くらいが死ぬまで出る。これが古い日本企業に勤めるサラリーマンの生涯である。※

※65歳以上男性の受給権者の合計受給額の平均は月額171,305円、子育てなどで勤務期間が短くなりがちな女性は月額108,813円(厚労省「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」)である

退職金は、60歳まで勤め上げた人に報いる目的があるため、途中で自己都合で辞める人には冷たい制度設計になっている。

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