【電磁波マップ-1】
門真小学校周辺。最高値を測定したのは小学校前の交差点で『174mG』に。
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大阪・門真の街中には、墓標のように並ぶ巨大な鉄塔だけではなく、実は見えない地中高圧送電線も広がっている。昨年6月に英国で公表された調査結果にあてはめると、小児白血病が70%多く発症する区域は、松下電器産業本社を含め門真市全域に広がっていることが分かった。欧米各国は「慎重なる回避」で規制に動くなか、日本は疫学調査「4mG以上で小児白血病2.6倍」以降、打ち切っている。地中送電線は、関東でも江東区~船橋市や多摩ニュータウン地域に張り巡らされており、門真だけの話ではない。
【Digest】
◇目に見えない送電線、最高値『174mG』上を歩く小学生
◇関西電力「地中配電図は内部資料なので公開できない」
◇WHOは「予防原則」で電磁波対策を提言
◇巡査も存在を知らない道路下の高圧送電線
◇門真市職員も「え、電磁波?」
◇『広報かどま』にも出てこない「電磁波」「送電線」
◇国際的ガイドライン1000 mGさえ規定していない日本
◇関西電力「私どもでは予防対策をとる必要はない」
◇疫学調査「4mG以上で小児白血病2.6倍」が最低評価に
◇国、業界の「寝た子を起こすな」という姿勢
◇スウェーデン、スイス、イタリアの「慎重なる回避」政策
◇イギリスの電磁波基準で「小児白血病70%以上発症地帯」
◇摂南総合病院は回答拒否
◇「美しいまちなみ大賞」受賞は電磁派高数値地域
◇電磁波疫学調査「オールC」を強調する電力会社
◇江東~船橋、多摩ニュータウンにも見えない地中送電線が
電磁波の影響がはっきりしない中で、 不安に苛まれ、翻弄されてきた人たち。それが私の出会った門真の人びとだ。詳しくは、
『電磁波&鉄塔の街・門真「白血病死者18人調査」から10年、今も変わらぬ風景』。
駅や公園、商店街、学校や住宅街などつぶさに歩き続けるが、 安全値が2~3mG(ミリガウス)といわれる中で、電磁波測定器が5~10mG以上を示すのは常で、見上げるとやっぱりどこかに高圧送電線がのびている。
◇目に見えない送電線、最高値『174mG』上を歩く小学生
【電磁波マップ-1】は、門真小学校周辺を拡大したものだ。小学校前の交差点で、測定器を胸の高さに持つと鉄塔の真下で測った値に近い『65.5mG』を示す。
さらに、測定器を路上に近づけると、ぐんぐん数値は上がり『174mG』という、私が測定したなかで最高値に達した。
離れたところに高圧送電線が見えるのだが、距離があり影響を受けているとは考えにくい。また、測定する場合に気をつけなければならないのは、電柱の送電線や柱上に設置してある変圧器だが、いずれもこれらの影響を受けないように電柱から離れたところで測定している。
普通なら通り過ぎてしまう、ありきたりな交差点なのだが…。
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【電磁波マップ-2】
地図内の赤い四角が鉄塔の位置。赤い線が高圧送電線。
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測定写真をコラージュした【電磁波マップ-2】を見て頂ければ、門真市各地で測定器がどのような数値を示したのかがわかるだろう。
地図内の赤い四角が鉄塔の位置で、赤い線が高圧送電線である。
門真市駅と古川橋駅の駅前では、それぞれ『0.4mG』『0.7mG』と安全値を示しているが、ご覧の通り、測定器は鉄塔をつたう高圧送電線から離れた場所でも、『13.9mG』『65.5mG』を示す。
なぜ、市内のあちこちでこのような数値を示すのか?
ある1枚の高圧線配電図を辿ってゆくと、その原因が次々と明らかになっていった。
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【電磁波マップ-3】
写真: 鉄塔がなければ閑静な住宅街。地図: 青い線が入手した地中送電線の配電図。
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【電磁波マップ-3】は、富士測量株式会社によって2002年(平成14)に製作された門真市の地図を、京阪線門真市駅から古川橋変電所にかけて切り取ったものだ。尺度は原本とおなじ1000分の1。
前回の記事で取りあげた保育園は、変電所右下部分の鉄塔密集地域のなかに位置する。また、電磁波の影響を心配するAさん・Bさんは変電所東側、高圧送電線が平行して走る常盤町で暮らしている。
地図上の青いライン、これが見えない地下に埋められた地中高圧送電線の配電図だ。
これは関西電力大阪北電力所の野江電力システムセンター・地中送電係の職員が手にしていた図面を、現地で書き写したもので、鉄塔をつたう送電線と同じく、15万4000ボルトや7万7000ボルトなどが埋められているという。
この青いラインに沿って交差点や路上で測定器を当てると、次々に安全値の5倍から20倍以上の数値を示す。
◇関西電力「地中配電図は内部資料なので公開できない」
関西電力本店や大阪北支店、野江電力システムセンターにも門真市の地中配電図を公開してほしいと要請したが、いずれも「内部資料なので公開できない」という答えだ。
関西電力に問い合わせたところ、担当の中尾さんは地中送電線について次のように説明する。
「地中に埋めるのは住宅地だとか、景観上の問題がある場所、鉄塔がたくさんあるのが見た目によくない地域になるべく埋めています。電磁界の強さを確認して深さが決められているということはないです。
埋める深さは 地形や地質にもよりますのではっきりとはわかりませんが、 道路の下であれば強度が守られる程度の深さです。浅いところだとおそらく1m、もう少し浅いかもしれませんけど、深いところであれば、100m以上になります。
ただ、住宅地で土地を確保できない場所もありますし、地下に埋めるのはコストがかかります」
磁場の強さを低減する対策として、(1)鉄塔を高くする、(2)送電線を三つ編みにする、(3)地中に埋めるなどが挙げられる。
(1)鉄塔を高くするというのは、磁場の強さは距離の二乗に反比例して弱くなるという性質に基づき、発生源から一定の距離を保つことで大幅に低減できる。
(2)送電線を三つ編みにするのは、編むことによって互いの線から発生する磁場が打ち消し合い、弱くなるという効果がある。
(3)地中に送電線を埋める場合には、線をコンパクトにまとめるため、巻き込み式のケーブルを使用するため三つ編みにするのと同じ効果がある。
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私は地中に埋めるのはコストはかかるだろうが、景観上にも、電磁波の対策にもよい方法だと捉えていた。
しかし、これだけの電磁波が地上に放出しているのは、「埋設場所があまりにも浅いため」と考えるのが妥当だろう。
◇世界保健機関(WHO)は「予防原則」で電磁波対策を提言
2004年、世界保健機関(WHO)が発表した「科学的不確実分野における予防的方策展開のためのフレームワーク」では技術的な対策として「配線構造や建築上の現行配線方法について、極低周波磁場を減らせるように配慮し実施すること」、「送電線や配電線システムについてのその他の技術的変更の実践」など、なるべく電磁波被曝量を減らすように提案している。
■電磁波間題市民研究会が国土交通大臣に宛てた要望書
さらに今年1月、同じくWHOは電磁波が人体に与える影響の科学的証明を待たず、被害防止策を進める「予防原則」の考えに立ち、対策選考への転換を促す」と電磁波対策の必要性や具体策を明記した「環境保健基準」の原案をまとめた。
■読売新聞
◇巡査も存在を知らない道路下の高圧送電線
「なんの調査ですか?」
路上に腹這いになり、電磁波測定器を片手に写真を撮っている私のもとに、交番の巡査が声をかけてきた。
--ええ、これは電磁波測定器でして、見て下さい。この交差点から『174mG』という数値が出ています。安全値の60倍以上の電磁波が出ているということなんです。
男性巡査「電磁波ですか? それが、なんか影響あるんですか?」
--『平均4mG以上の電磁波で小児白血病が2倍以上になる』とも言われてまして、特に発育期の子どもに影響を与えるとされています。他にもガンや腫瘍などにも影響があるかも知れないと言われているんです。
男性巡査「えっ、そこ学校だから毎日子どもがいっぱい通りよりますよ。それにわたしらは、ずっとここで仕事しとるんですよ。やばいんちゃいますか?」
門真小学校前の交差点にある派出所内も調べさせてもらうが、やはり測定器を床に近づけるほどに数値はあがる。
女性巡査「電磁波、そんなのが出ているんですか? 送電線がこの道路の下を通っているなんてまったく知りませんでしたよ」
男性巡査「ここに赴任してきて、もう5年になるんですが、どないしましょ」
--道路に面した窓の近くは『14.5mG』ですが、ロッカーのある端っこの方は『1.6mG』ですので、隅っこで仕事するか、間取りをかえるなどの対策をしたらどうでしょうか?
電磁波測定器を宙にかざしたり、地面にくっつけてみたりと不可解な行動をとっていた私は、地元の人びとに警戒した口調でたびたび声をかけられた。
電磁波が出ていること、電磁波が健康に影響を及ぼすかも知れないことをひと通り説明すると、一様にぎょっとした顔になり、不安を隠せないでいる。
なかには「え~らいことですな、はよ退散しよー」と逃げ去るように走っていく主婦もいる。
古川橋変電所周辺の住民は、電磁波の影響に不安を抱いたり、そうでなくても体にはあまり良くないらしいということを知る人は多かった。けれども、変電所からわずか500mほど離れた町の中心部では、電磁波が問題になっていることや、電磁波そのものさえ知らない人も少なくなかった。
◇門真市職員も「え、電磁波?」
そこで私は、電磁波問題のことを門真市は住民にどのように知らせているのか、門真市役所の市民課を訪ねた。
鉄塔や地中送電線の敷設について門真市ではどのような対応をしているのか、また電磁波の影響についてどのような見解を持っているのかを知りたいのですが。
私のこの質問に、対応に出た若い職員はきょとんとした表情で、
「え、電磁波ですか?」と、言葉を詰まらせた。
それと同時に、とまどう職員の背後から大きな声が響いた。
「あなたが知りたいのは、電磁波でがんになるとか、なんとかいうことですか? そんなことはありませんので、心配はありません」
課長椅子から立ち上がった職員は、私を凝視する。
次に建設指導部を訪れ、変電所周辺に居住制限はあるのか、高圧送電線下の住宅環境はどうなっているのかを尋ねてみる。
同部署の神原さんは、門真市の都市計画総括図を広げながらこう説明する。
「市は都市計画の中で、送電線や鉄塔のある場所を特別な居住区域として定めていませんし、制限もありません。
この図を見てもわかるように、古川橋変電所の周辺は第二種居住地域になっており、建ぺい率は60%です。鉄塔や地中送電線の敷設は関西電力との協議の上で進めています」
第二種居住地域とは都市計画法の中で「住居の環境を保護するため定める地域」に指定されているもので、建ぺい率60%とは100坪の土地に建築面積60坪の建物が建っていることで、住宅の密集率を指す。
環境を保護しているのかどうかは疑問だが、要は、日本全国どこにでもある一般的な居住地域だということだ。
■都市計画法
◇『広報かどま』にも出てこない「電磁波」「送電線」
さらに、門真市は電磁波の影響についてどのように住民に知らせているのかを知るために、広報課へ向かった。
「電磁波の影響ですか?。私は広報課に8年いますが、特別に何かをやったということは記憶していません。ちょっと待ってくださいね、門真市が発行している『広報かどま』の過去のデータを調べてみます」
…(しばらく)…
「やっぱり見当たりませんね。電磁波でも送電線でも検索できません」
と、広報課の谷澤さんは首をかしげる。
市役所の中をぐるぐる回って分かったことは、市はまったく関心がないということだった。
これでは住民が知らないのも無理はない。
◇国際的ガイドライン1000 mGさえ規定していない日本
1998年、WHOの関連機関である国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が定めた電磁界の国際的ガイドラインによると、高圧送電線などから発生する超低周波電磁波(50Hz)の安全基準値を1000mGとしている。
しかしこれは、超低周波電磁波を短期的に曝した場合のもので、長期的・慢性的に曝した場合の制限値ではない。
超低周波の電磁波は、家の壁面やコンクリートも突き抜けてしまうという特性があり、生活の中で常に電磁波にさらされ続ける状況にあれば、安全だとはいい難い。
そのため、いま、新しい国際的ガイドラインの制定が急がれている。
05年にはWHOから発表されると言われていたものが、先延ばしになり、遅くとも今年の秋には発表されるだろうと言われていた。しかし…。
全米放射線防護委員会(NCRP)などが提唱する「規制ガイドラインは人体に有害な電磁波の『2mG以上』」という厳しい制限も提案されているが、WHO、ICNIRP、そして各国とのあいだで調整に難航しているように伺える。
■国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)ガイドライン
■生活環境中電磁界における小児の健康リスク評価に関する研究
このような状況にありながら、日本はいまだ国際的ガイドラインである1000mGさえ規定していない。
◇関西電力「私どもでは予防対策をとる必要はない」
基準値が厳しくなれば、その対策に電力会社は巨大な投資をしなくてはならない。
関西電力の中尾さんは、以下のように見解を述べた。
「これまでも、電磁波対策を行なったことは一切ありませんし、健康に影響を与えることはないと判断していますので、私どもでは予防対策をとる必要はないと考えています」
証拠が確認されていないことを理由に、「1000mGでも、5万mGでも人体への影響はない」という関西電力の見解は、明らかに国際的な予防原則の流れに逆行している。
関西電力をはじめ、各電力会社が「影響はない」と主張し続けるのは、国が擁護する実態があるのではないだろうか?
◇疫学調査「4mG以上で小児白血病2.6倍」が最低評価に
1999年から2002年にかけて文部科学省のもとで国立環境研究所と国立がんセンターが中心となって行なった大がかりな疫学研究では、
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【電磁波マップ-4】
写真: 「ここって特別なんですか?」地元の人はいう。地図: 小児白血病の発生率上昇地帯。その200m範囲を門真市に当てはめた。
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