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「アイラン」の圧倒的な存在感

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タクシム広場のドネルケバブ屋
 覚悟はしていたが、トルコ料理は強烈だった。メインの羊肉がイマイチ好きでないうえ、すべて脂っこすぎ、味が濃すぎ、甘すぎで、最初の数日は頭痛がした。魚と野菜とコメと味噌汁を愛する私の口には、どうも合わない。この国では、コメはほとんど食物としてみなしていないし、魚も滅多に食べようとしない。食材、味付けにおいて、日本食とは対極にある食文化のようだ。
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  • こってりケバブのファストフード
  • 日本より高い外資モノ


@イスタンブル(トルコ)2009.6

野菜については、アクが強いものの、十分においしい。おそらく本来の野生の野菜の味とはこうなんじゃないか、と思わせる感じで、日本の総じて水っぽくてクセがない野菜よりも、自己主張が強い味をしている。

そこで、朝食をガッツリ食べるスタイルにした。さすがに朝から肉は出てこない。せいぜいベーコンくらいだ。朝食は、どのホテルでも、ビュッフェスタイルになっていた。ヨーグルト、蜂蜜(巣とセットになってるのが定番)、パン、ゆで卵、サラダ、チーズ、乾き物(アンズ、レーズン等)、果物、シリアルに牛乳。これらの定番メニューを、1日分の栄養を摂るつもりで、ひたすら腹にぶち込む。

そうすると、午後はケバブやチーズのサンドでも食べて、チャイを飲み、帰りにスーパーでジュースとスナック菓子でもあれば十分、腹が持つ。朝食の時間はだいたい7時~10時に設定されていて、これを逃すわけにはいかないため、寝過ごさない。日本にいる時よりも規則正しい生活パターンになっていった。

トルコ人は、当然のように中年以上の男女がみなデブっていて、もっと魚や米も食べろよ、と思う。あの濃い味で羊肉を食べまくっていたら、コレステロールがたまるだろう。しかもどういう味覚なのか分からないが、トルコ人にとってはおいしいらしい。人種や習慣の違いだと思う。私などは、パンはいくら食べても腹にたまる気がせず消化も悪そうなので、やはり日本のコメのご飯が一番だと感じる。日本食のおいしさ、ヘルシーさを実感するほかなかった。

『雨天炎天』で村上春樹は、こう書いていた。

 正直に言うと、トルコ料理が苦手だった。まずだいいちに肉料理が中心である。それもほとんどが羊である。僕は肉というものを日常的に食べない上に、羊となるとこれはもうまったく駄目である。それから、油っぽいものも苦手である。野菜料理も豊富なのだが、レストランで出てくるトルコ料理は総じて調理過多で、味のトーンがきつい。(中略)要するにトルコ料理の質云々ではなくて、僕とは相性がよくなかったというだけのことである。

そう、相性が悪い。まったく同感でございます、という感じである。

ただ、トルコ人が1日何杯も飲み続ける「チャイ」については、普通においしいと思った。といっても、ごく普通のストレートティーの味にしか思えず、出色の味でもない。こってり料理のあとに合うのは確かである。

こってりケバブのファストフード

イスタンブルは、簡単にいうと3つの地区に分かれる。ヨーロッパ側に、旧市街(南西部)と新市街(北東部)があり、両者はガラタ橋で結ばれる。ヨーロッパ側から、ボスフォラス海峡を東に渡ると、アジア側だ。つまり、旧市街と新市街とアジア側の3つである。

その新市街の中心地が「タクシム広場」で、タクシムから北に広がる新市街へは、地下鉄が整備されアクセスがよい。だが、タクシムから南の旧市街へ電車で行くには、なんとたった1駅だけのケーブルカー(Funikuler フニキュレル)に乗り、Kabatas(カバタシュ)へ出て、そこからトラムという路上電車に乗り継がねばならない。ここで分断されている。

いったい誰がこんな非効率な交通網の設計をしているのかと思うほどだ。普段の生活では、多くの人々が旧市街に行かないからだろうか。旅人としては旧市街が面白いので、まともなホテルが多い新市街から旧市街へのアクセスには、毎回、不便に思っていた。

タクシム広場は、常に賑わっている。日本でいうと渋谷や表参道のようなところだ。夜11時を過ぎでも、人であふれかえっている。その中心の一等地の角には、やはりドネル・ケバブ屋が5つほど軒を連ね、人を集めていた。日本でもたまに見かける、グルグル回りながら焼かれている肉の塊をそぎ落としてパンに挟んで食べるやつだ。

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延々と続く地下のファストフード街。羊肉ケバブサンドみたいなのが多く、私はマクドナルドに逃げた

この国民食ぶりは、日本でいうと、立ち食いそばや牛丼屋みたいなものだろうか。ファーストフード店も多いのだが、それもやはり、羊肉のケバブばかり。地下鉄「LEVENT」駅直結「メトロシティ」という大規模ショッピングセンターの地下はファストフード街になっているのだが、延々と30店ほど、これでもか、というくらいにファストフード店が続いていた。

おなじみのマック、KFC、バーガーキング、ピザハットのほか、地元資本と思われる“こってりケバブの店”が圧倒的に多い。トルコ人は脂っこくてしつこい味が好きみたいなので、ファストフードとマッチするのだろう。

日本より高い外資モノ

マクドナルドやバーガーキング、スターバックスといった「グローバル食」は、町中の中心部のいたるところに、ボコボコできていた。書籍情報によると、ここ10年ぐらいに急にできたようだ。

到着した日のレートは、100円=1.59リラだった。ビックマックは、トルコリラで5.65TL(355円)、スターバックスラテショートは5.75TL(361円)である。ビックマックは東京で320円だし、スタバラテも280円だ。ホテル代にせよマックやスタバにせよ、外資モノで同じサービスやモノの提供を受けたければ、日本より価格が高いのだ。

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マクドナルドのアイラン

マクドナルドはもちろん世界中共通のメニューが中心だが、トルコ特有のメニューとして「アイラン」があった。バーガーキングにもあった。ピザハットのメニューにも、アイランは当たり前のようにあった。つまり、それがなくては始まらない、ない店など信じられない、というくらいに、この地で定着している飲み物なのだ。

アイランとは、ヨーグルトに塩を加え水で薄めた冷たい飲物。甘くないヨーグルトドリンクだ。これはなるほど、確かに飲める。暑くて疲れたときに日陰で飲むと、芯から冷ましてくれて元気が戻る、不思議な飲み物だ。

疲れているときは糖分(甘いもの)が効くというのが通説だが、この若干塩っぽいヨーグルト飲料がおいしく飲めるのだから、不思議である。どういうメカニズムなのだろうか。湿度の低い、カラっとした暑さのトルコだからこそ、合うのだと思う。

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チャイ屋にて、アイランとブルーモスク。トルコらしい絶景に満足。

私はアイランをすっかり気に入り、ゴクゴク飲んでいた。チャイよりもずっと好んで飲んでいた。どこでも手に入るのもうれしい。

ドイツのマクドナルドには、ビールがメニューにあると聞いたことがある。それがなくては始まらない、という地元メニューということだ。では日本には、アイランに相当する土着の飲料があるのかというと、残念ながら見あたらない。

日本のマックには「野菜生活100」なる飲み物があるくらいで、これは単に健康志向の現れだから、日本古来のカルチャーとは関係がない。冷たい日本茶は、コカコーラ社の「爽健美茶」でカバーされている。ハンバーガーやポテトには合わないためか、「温かい日本茶がいい」という人は、あまりいないのだろう。

 明治以来の「脱亜入欧」、戦後の「脱亜入米」で、すっかり欧米化が浸透した日本。イスタンブルでのアイランの存在感の強さを見るにつけ、マクドナルドも征服できないだけの、日本に根を張った独自文化メニューはないものか、とすこし寂しい思いだった。

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