「とんかつ和幸」のひれかつ丼弁当（阿佐ヶ谷店で購入）

　「法律上の原因がないにもかかわらず、残業代を払わずに不当に労働させたことで、同社は残業代と同額の利益を不法に得た」という理由だ。

　訴状によると、請求額約２３６万円のうち、未払い残業代にあたる同社の不当利得は約２０６万円にのぼる。

　未払い残業代は労働基準法１１５条の定めで時効２年とされているため、０５年末に退社した皆本さんには請求権がない。そのため労基法を使わず、不当利得返還請求や不法行為による損害賠償請求などで訴えている。

　皆本さんは０４年１１月下旬に入社。翌１２月から０５年１２月末に退社するまでの約１３カ月間、正社員として東京都内の吉祥寺と阿佐ヶ谷の売店で調理を担当していた。０５年３月以降は毎月の残業が１００時間を超えていたが、残業代は、１１月と１２月に一部が例外的に支払われた以外、１円も出なかったという。

　皆本さんは提訴を決めた昨年１１月、マイニュースジャパンに対して以下のコメントを寄せていた。

　タイムカードを従業員に操作させて、基準労働時間内に収めるように指導します。具体的には８時出勤、２２時退社のところ、タイムカードには９時と２１時に打刻させられる。そしてタイムカードには４時間休憩したとして記載し、実労働時間を８時間にする。また、記入は鉛筆でするように指示があり、その理由はいつでもタイムカードを訂正するためである。

　皆本さんが提訴前、裁判所に対して「証拠収集の処分の申立て」を送付したところ、和幸商事からタイムカードのコピーが送られてきた。そこには、１０時間もの休憩をとったことを示す記入もあった。いったいどのような勤務実態だったのか、皆本さんに話を聞いた。

皆本さんのタイムカードのコピー。休憩１０時間、勤務１時間の記録がある。

◇勤務１時間、休憩１０時間の日も
－－タイムカードのコピーを見ると、０５年７月と９月の下旬に「△１０」と記入された日がありますが、どのような意味でしょうか。

　△は休憩時間です。その下にある小さな数字は食事手当の回数です。残業代を出さないように、どこかで帳尻合わせしなければいけない。７月でしたら勤務時間を１７７時間に合わせなければいけないので、やけくそだったんでしょうね。

－－９月２７日は、午前９時４９分出勤、午後９時０２分退勤で、実働１、△１０となっていますね。月末になると無茶な数字が出てきますが、実際の勤務は違うわけですか。

　そうです。

－－たとえば９月３０日も、８時５１分に出勤、２１時０３分に退勤で、実働３．７５、△８．２５となっていますが、実質的に休憩と言えるような時間はゼロですか。

　この日はロンロン売店(駅ビルの商業施設)なので、休憩は１時間ですね。この店では、店長と僕の２人体制のときは僕がアルバイトみたいな仕事をするので１時間休憩をもらえるのですが、自分が責任者のときは休憩３０分で、食べて戻るだけです。

－－休憩１０時間とか書かれていても、３０分や１時間の休憩はなんとか取れているのですか。

　そうですね。ロンロン売店では休憩ゼロということは基本的にありません。ただ、阿佐ヶ谷店と伊勢丹店では休憩ゼロです。

　阿佐ヶ谷店と伊勢丹店では販売はアルバイト１人、調理場は僕１人です。調理場がいなくなると話にならないので休憩に出られません。それと、人件費を削らないといけないので、店に僕１人になる時間が毎日３〜４時間あります。そうすると休憩に行けません。

　皆本さんは０４年１１月下旬に和幸商事に入社。配属先は東京都武蔵野市の吉祥寺駅の駅ビル「ロンロン」にある売店だった。和幸の店舗にはレストランと売店の２種類があり、売店はおもにデパ地下や駅ビルの総菜売り場で弁当など持ち帰り用の商品を販売している。

　皆本さんの話では、吉祥寺の駅ビルという立地のためロンロン売店はかなり忙しく、店長と新人の皆本さんの社員２人にアルバイト１人の３人体制を組んでいた。しかし、それほど忙しくない売店では社員１人とアルバイト１人の２人体制が基本になる。だから、１人しかいない社員が休むときは、近隣の店から代わりの社員がヘルプで行く必要があり、吉祥寺・阿佐ヶ谷のエリアでは皆本さんがその役割にあった。

　籍はロンロン売店で、阿佐ヶ谷店（駅ビル「ダイヤ街」内）と吉祥寺の伊勢丹にある売店（地下食品売場）にヘルプで行く形なんです。阿佐ヶ谷店には週２回くらい。伊勢丹店では僕が１人で調理をして、アルバイトやパートがレジ打ちです。いちばん多く勤務したのはこの伊勢丹の売店です。

◇準備と片付けは労働時間に含まない
　伊勢丹吉祥寺店にある和幸の売店は午前１０時から夜７時半までの９時間半の営業だが、皆本さんは午前７時に出勤して準備を始めるという