新聞折込チラシ詐欺 大阪地裁が「中抜き」を事実認定、35万枚のうち5万枚を印刷せず料金請求
「押し紙」(偽装部数)回収は、早朝に人目を避けて実施されるのが一般的。膨大な新聞が毎日のように破棄されている。「押し紙」問題が折込チラシに関する不正取引の温床となっているケースが多いが、「中抜き」は若干性質が異なる。写真は2012年に京都市内で撮影されたもの。 |
- Digest
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- 新聞の公称部数の水増し
- 新聞社の悪しきビジネスモデル
- チラシ5万枚は架空だった
- 「押し紙」は否認
- 56%破棄の熊本のケース
- 30%破棄の岡山のケース
- 詐欺未遂で刑事告訴
朝刊に折り込んで配布する契約のチラシ35万枚の一部を、広告代理店が新聞販売店に搬入する前の物流過程で「中抜き」していた。その枚数は、5万枚。しかも、この5万枚については印刷発注すらしていなかった――そんな衝撃的な事実を認定する判決が下された。
日本新聞協会の本部があるプレスセンター。新聞協会は、「押し紙」問題や折込詐欺の問題はタブーとして避け続けている。 |
2月13日、大阪地裁の高瀬順久裁判官は、広告代理店「アルファトレンド」が折込手数料に対し不正に請求した事実を認定する判決を下した。高瀬裁判官が認定した「中抜き」の実態は、次のようなものだった。
原告(アルファトレンド)は、30万枚(の折込チラシ)しか印刷・折込配達の取次をしないとの意図のもと、35万枚の取次をすると被告(広告主)に述べ、被告はこれを信じて本件契約を締結したものと認められる(後略)
広告代理店が請求した35万枚分の請求額は、約192万円。このうち「中抜き」された5万枚分の額は、少なくとも26万円にのぼる。
幸いに広告主は裁判にかけられた後も支払拒否を続けたので、金銭的な損害を被ることはなかった。逆に、支払いを要求して裁判を起こした広告代理店の側が敗訴したあげく、詐欺未遂で大阪府警に刑事告訴される事態になった。軽々しく裁判を起こして足もとをすくわれるかたちとなった。
アルファトレンド裁判は、マイニュースジャパンでも報じたが、簡単にこれまでの経緯を説明しておこう。
新聞の公称部数の水増し
手痛い判決を受けたアルファトレンドの飯干正芳社長は、(株)読売広告社を経て独立し、2005年に同社を設立した。こうした経緯からか、読売系の広告代理店とも連携して事業を展開してきた。
問題の発端は、2008年11月にまでさかのぼる。松岡潔医師(仮名)は、自ら経営するクリニックをPRするために、35万枚の折込チラシの制作と配布の取り次ぎを、アルファトレンドに依頼した。折込媒体として選択した新聞は、産経新聞と毎日新聞だった。
大半の家庭が新聞を定期購読しているという情報が流布しているなかで、新聞の折込チラシこそが最も合理的なPR手段に違いない、と考えたのである。
実際、クリニックを開業した2005年ごろは、一定の効果があったという。が、その後、広告効果の急低下を感じるようになった。
販売店の裏に山積みされた「押し紙」。包装も解かれていない。 |
松岡医師は新聞離れの影響かも知れないと思ったが、折込チラシに関係した不正な商慣行については、知らなかった。ところがその後、週刊誌やインターネットメディアが、新聞の「闇」を大々的に報じるようになり、自分が発注した35万枚の折込チラシは、本当に全部配布されているのだろうか?という強い疑念を抱くようになった。そこでアルファトレンドに対して、新聞の公称部数の透明性などについて問い合わせた。
その際、過去に依頼した新聞の折込チラシについても、本当に全部配布したのかを調査するよう申し入れた。アルファトレンドは、調査を約束したが、結局、明快な解答はなかった。それにもかかわらず35万枚分の手数料として約192万円を請求してきた。そこで松岡医師は、暫定的に支払をペンディングにしたのである。
2007年から2009年にかけて、週刊誌が大々的に新聞販売問題を特集した。しかし、現在は再び沈黙を守っている。 |
これに対してアルファトレンドは、松岡医師に支払いを求めて大阪地裁に提訴した。ところが審理が進む中で、松岡側はアルファトレンドの不正を立証する証拠を入手して、裁判所へ提出した。しかも、それは松岡医師が当初、考えていた折込チラシの水増し行為よりもはるかに悪質な、チラシの「中抜き」を示す証拠だった。
いったい、どうやって、証拠を入手できたのか。
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(株)読宣が作成した折込定数表の例。販売店ごとの新聞部数と折込チラシの分配枚数が記されている。
アルファトレンドの役員構成。
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読者コメント
詐欺ですね。
20年前から行われている由々しき問題だ。広告会社の営業に押し紙の知識があればやるだろう。大手新聞社系列の広告会社が大手マンション販売デベロッパーのチラシをガンガン中抜してた。「ばれないよね」的な確認はあった。この時は、配布した証明書を偽造して提出してくれと頼まれた。断ったけどね。今回、折込会社が加担した証拠は出なかったようだが、知恵を授けた可能性は否定できない。
黒藪氏 、過去の記事から大変興味深く拝見させていただいてます。まず、5万枚中抜き事件について、新聞販売店と広告代理店と直接のつながりは無いと思います。代理店側が販売店の裏事情を巧みに利用し、折込にかなり精通した人間の犯行かと思います。実配(配達枚数)<定数<配布枚数<折込部数表掲載枚数となります。この実配枚数と折込部数表掲載枚数との大きな差をつかった犯行ですね!
各新聞社・各販売店の折込定数はガラス張りになっているので、代理店や販売店が不正をやれば最終的に犯罪は露見する。不正と無縁だった側からすればこの代理店も筆者と組んでいた詐欺販売店主も同類。信頼を守る真っ当な販売店と、その信頼を悪用して詐欺を働く業界の人間たち。こういう問題で安易に「業界全体」という言葉を使う人間の本音は詐欺を働く人を応援しいますってことだろう、犯罪者だけを問題にすべきなのに。
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