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ABC部数の嘘 架空地域・架空読者で偽造、チェック機能も期待できず

情報提供
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日本ABC協会が発行する『ABCレポート』
 新聞等の発行部数を示すABC部数は、紙面広告の媒体価値を決めたり、折込チラシの必要枚数を示す指標となっている。だが近年、その信憑性を疑問視せざるをえない事実が訴訟などから明らかになっている。実際に配達されない「押し紙」のみならず、新聞本社の圧力で販売店が架空の配達地域や架空の読者を設けるなどして、領収書まで偽造されているのだ。ABC協会の役員47人には、チラシを水増しされては困るスーパーの代表者などは含まれず、チェック機能も働かない構造。ABC部数を信じてはいけない。
Digest
  • 「あれは真っ赤な嘘ですよ」
  • 折込チラシの代理店も苦慮
  • 抜き打ち調査の前に、新聞社から電話がくる
  • 架空の配達地域を設定した読売販売店
  • 暴かれた読売の強引な販売政策
  • 地方紙からも内部告発が
  • 新聞社を敵に回したくない広告主たち
  • 新聞社中心、拡材メーカー多いABC協会役員
  • 電通に牛耳られかねない新聞社

「あれは真っ赤な嘘ですよ」

日本ABC協会という機関をご存じだろうか。新聞や雑誌など定期刊行物の発行部数を調査する機関である。

調査をもとに明らかになったABC部数は、定期刊行物に掲載される広告の掲載料金を決める目安となる。また、新聞販売店ごとに公表される折込チラシの必要枚数、すなわち折込定数を決める際の基礎データとなる。

 だからABC部数が新聞の実配部数を反映していなければ、広告主の宣伝活動に大きな支障をきたしかねない。たとえば「毎日新聞140万部“水増し詐欺”の決定的資料 」でも明らかになったように、約400万部の発行部数があることを前提に、紙面広告か折込チラシを宣伝媒体に選んだのに、実際には約250万部しか読者がいなかったという事態も生じかねない。

ABC部数の信頼性について、かなり厳しい批判が新聞販売店主の間で飛び交っている。産経新聞・東浅草販売店の元店主で、現在「押し紙」裁判を戦っている近藤忠志氏が言う。

「あれは真っ赤な嘘です。メディア界の恥ですよ。昔はABC部数の嘘を知らない広告主が大半でしたが、数年前からかなり多くの広告主が不信感をいだくようになっているようです」

実際に配達している新聞の部数と、ABC部数の間に大きな隔たりがあるというのだ。言葉を変えれば、ABC部数は「押し紙」を含んだ数字なので、実配部数をまったく反映していないというのである。

ちなみに「押し紙」とは、新聞社が販売店に買い取りを強制する余分な新聞のことである。1000部しか配達していないのに、1500部を買い取らせれば、500部が「押し紙」である。

折込チラシの代理店も苦慮

最近では折込チラシの代理店までが、「押し紙」によって生じるABC部数と実配部数の差異に頭を痛めているという話もある。広告主から苦情が出るケースが出はじめているからだ。

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折込広告代理店・毎日メディアサービスの下請け代理店から、ある販売店へ送られた内容証明。広告主であるS社が苦情を述べている旨が記されている。

たとえば、福岡県の広告代理店・A社の担当者は、昨年の10月に、ある新聞販売店に対して、次ような趣旨の内容証明書を送りつけている。

 広告主であるS社から「毎日新聞西部本社内××販売店の折込部数が折り込み部数表(黒薮注:折込定数表)の半分ぐらいしかないのでは」と、クレームがついて「返事に苦慮している」ので、事情を説明してほしい。

このようにABC部数が実配部数を反映していなければ、連鎖反応のように代理店や販売店、それに広告主など多くの関係者が迷惑を被る。

抜き打ち調査の前に、新聞社から電話がくる

日本ABC協会は、複数のデータをもとにABC部数を決める。具体的には、新聞社から提出された新聞の印刷部数や注文部数を示すデータなどである。

さらに新聞販売店に対して行う抜き打ち検査で得られたデータである。具体的には、読者名簿に記された読者数や、販売店が読者に発行した購読料の領収書の枚数などである。

これら様々な資料を基にして、ABC部数は決められるのである。

しかし、抜き打ち調査の方法について販売店からは疑問の声が常にあがっている。抜き打ち検査であるから、本来であれば、予告せずに直接販売店を訪問して、データ類を入手しなければならないのに、新聞社から事前に連絡があり、ある工作を指示されるというのだ。

前出の近藤氏が証言する。

「抜き打ち検査の二、三日前に新聞社から電話がかかってくるのです。わたしの店が抜き打ち調査の対象になったことはありませんが、普段から抜き打ち検査の対策について、指示を受けていました」

架空の配達地域を設定した読売販売店

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2006年4月13日付、原告側の最終準備書面(4)。架空の26区の役割について説明されている

新聞社は販売店に対して、どのような工作命令を下すのだろうか。典型的な例として読売新聞社のケースを紹介しよう。結論を先に言えば、コンピュータ上に、架空の配達地域を設けて、そこに架空の読者を設定する方法である。

そして架空の読者にも新聞(「押し紙」)を配達しているという設定にして、それに矛盾が生じないように、偽の領収書など必要な書類を準備する。その結果、書類の上では、販売店に配達される新聞は、すべて読者へ配達され、領収書も発行され、さらには集金もなされていることになる(全て書類上のみの話)。この場合、架空読者の購読料は、実際に販売店が負担する。

このような工作がそのままABC部数に反映しているのである。

 ABC部数を嵩上げする工作が明確に暴露されたのは、福岡・販売店訴訟だ。2006年9月に、福岡地裁・久留米支部で販売店が読売に勝った裁判である。これについては、「読売新聞、暴力団まがいの人物と結託し販売店の統合推進 司法はNO 」でも紹介したが、地裁に続き、高裁でも再び架空地域と架空読者の問題が争点になっているので、やや別の側面から検証してみよう。

原告である真村氏の販売店ではもともと例外的に「押し紙」が存在しなかったが、読売が大幅な新聞拡販のノルマを課した結果、一時的に「押し紙」が生じた。そのために真村氏は、コンピューター上に26区と呼ばれる架空配達地域を設定し、そこに「住んでいる」架空の読者に新聞(「押し紙」)を配達していることにして、事務処理せざるを得なくなったのである。

なぜ、販売店は架空の配達地域を設けてまで、全ての新聞が配達されていることにしなければならないのだろうか。この点を理解するためには、読売における新聞拡販の命令系統がどのようになっているのかを検証しなければならない。命令系統は次のようになっている。

(1)最初に読売本社が全体の拡販目標を決める。

(2)次にそれを販売店の組織である読売会へ通知する。

(3)読売会はさらに、みずからの下部組織であるブロック会(地域毎の販売店で構成)を単位に拡販部数を割りふる。その際、各販売店ごとの割り当て部数も通知する。

こうした状況の下では、1店でも拡販目標が達成できなければ、ブロック会全体に迷惑がかかる。いわば連帯責任の原理に支配されているのだ。

だから販売店は「押し紙」を上乗せした虚偽の実売部数を報告してまでも、新聞拡販のノルマを達成したことにするのだ。

このような工作を販売店が行っているとすれば、「押し紙」の責任は販売店にあるかのように思われるが、実際はそうではない。新聞社は、販売店が報告する実売部数が架空読者数、あるいは「押し紙」部数を含んだものであることを把握しているからだ。把握していながら、この不正行為を黙認しているのだ。

販売店を廃業に追い込む時に、その不正行為を逆手に取って、廃業理由にできるからである。そのことが福岡・販売店訴訟の中で初めて明らかになった。

暴かれた読売の強引な販売政策

具体的に真村氏が架空地域を設けざるを得なくなるまでのプロセスを追ってみよう。

読売は毎月、販売店に業務報告書の提出を義務づけている。その中に新規読者の数と、購読中止読者の数を月ごとに6ヶ月先まで記入する箇所がある。これを見れば、近未来の部数増減のおおよそを把握できる。

新聞購読の契約がどのようなものであるのかといえば、購読契約を結ぶとき、必ず取り決めなければならないのは、購読を開始する時期である。というのも、購読契約を結んでも、実際に購読をスタートするのはその三ヶ月後であったり、四ヶ月後であったりするからだ。

さらに購読期間も取り決めなければならない。とすれば、販売店は購読契約を結んだ時点で、新規読者は何月に購読をスタートして、何月に購読を終了するかを把握できる。

同時に新規の購読契約の内容もデータ化して集計すれば、数ヶ月先まで、各月ごとの新規読者と購読中止者の総宇数を把握できる。もちろん契約の翌日から購読を開始することもありうるので、数字は多少変動するが、おおよその数字は把握できる。

読売の業務報告書には、新聞の部数増減を月ごとに半年先まで書き込むことになっていた。2000年12月度の業務報告書によると、真村氏の販売店の場合、部数増減の近未来予想は次のようになっている。

2001年1月 新規読者  81

        購読終了者 84 (-3)

     2月 新規読者  18

        購読終了者 28 (-10)

     3月 新規読者  17

        購読終了者 30 (-13)

     4月 新規読者  27

        購読終了者 47 (-20)

     5月 新規読者  21

        購読終了者 35 (-14)

     6月 新規読者  19
         購読終了者 43 (-24)

               【合計(-84)】

真村氏は2001年6月の時点では、実配部数が84部も減ることを2000年12月の業務報告書で報告していた。なぜ、84部も減るのかといえば、購読契約が十分に取れなかったからである。厳密に言えば、暴力団との関係がある大物店主と敵対関係になり、新聞セールスチーム(拡張団)の派遣が得られなくなった結果とも推測できる。

ところが不思議なことに、2001年6月の時点で業務報告書を確認してみると、結果としては、84部減るどころか、逆に62部も増えたのだ。なぜ、こんなことになったのだろうか。

減部数が認められないので、真村氏は購読契約が終了した読者の多くを、26区の読者として再登録したのだった。その結果、本来であれば減部数になるところが、逆に増えたのである。

これら一連の事実を検証する時に、特に重要なのは、2000年12月の業務報告書で、半年後の時点で84部が減ることを読売が把握している点である。それにもかかわらず実際には62部も増えた。しかし、だれが見ても不自然なこの数字について、読売は真村氏に疑問を呈することはなかった。

これは、架空配達地区を使った工作が暗黙の了解として読売と販売店の間に存在していたからではないだろうか。(注:読売は、真村氏の販売店をつぶす時点で、初めて実配部数の虚偽報告を理由にした)

このような架空配達地区の設定こそが、ABC部数を嵩上げしていく読売販売局の営業戦略なのだ。

真村氏は26区を設定しても、収支がマイナスになるだけで、何のメリットにもならない。折込チラシの収入で、架空部数(「押し紙」)の卸代金を相殺するだけの折込収入がなかったからだ。自らすすんで架空地域を設定する必要はなかった。

地方紙からも内部告発が

 ABC部数のトリックについては、地方紙の販売店主からも、わたしのもとへ情報が寄せられている。情報提供者が特定できないように、多少のアレンジをおこなった上で、ほぼ全文を紹介しよう。

「配達区域が10区域あるとしますと、1区域に10人ぐらい架空の読者をつくります。これで100部嵩上げします。しかし、架空の読者については領収証が発行されないのでサービス読者として登録し、将来、正規の購読者になるかのようにカムフラージュします。

また、コンビニや駅の立ち売り部数を水増しする。架空のキオスクを設けて、そこへ新聞を卸していることにする。 近所のクリーニング店や酒屋、たばこ屋などへも新聞を卸していることにして書類を作る。

さらに折込チラシ組込機のカウントも増やして帳尻を合わせる。

 ABC協会にこのような実態を説明したところ『提出された書類によってのみ判断しますので

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日本ABC協会の役員一覧表。新聞関係者が圧倒的に多い。逆に、イオンやイトーヨーカドーといった、広告主として折込詐欺をされたら困るスーパーなどの代表者は、いっさい入っていない。

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円周人2008/02/01 02:50
真実2008/02/01 02:50
某新聞販売店2008/02/01 02:50
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数値の嘘2008/02/01 02:50
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