特殊指定の堅持を呼びかける、日本新聞協会の冊子
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いかなる山間地域、過疎地域であろうと、同じ新聞は同じ値段で、ポストまでお届けします--。日本新聞協会が作成した「守ろう!新聞の戸別配達網」と題した冊子には、そう書いてある(右記)。だがこれは、とんでもないダブルスタンダードだ。実際には、競争が激しい都市部では値引き販売が横行し、山間部や過疎地では定価に加えて上乗せ価格まで徴収されている。半年前、同一価格という虚偽の大前提を大義名分に政界を巻き込んだ大キャンペーンで特殊指定という規制をゴリ押しした新聞社は、利己主義の塊のごとく読者や販売店を欺き続けている。
【Digest】
◇大キャンペーンの裏で安売りは浸透
◇旧住民500円、新住民700円の上乗せ
◇東京新聞は返金、産経・日経は「関知せず」
◇指摘後に正常化も、発行本社は重い経費負担せず
◇新聞のテリトリー制も危機に
◇「値引きはできません」と断言できない新聞社
◇毎日の販売店はあっさり1,000円値引き
◇まるで利己主義の塊、狙いは卸価格維持のみ
◇大キャンペーンの裏で安売りは浸透
今年の6月、公正取引委員会が独禁法の新聞特殊指定の堅持を決定し、新聞業界の規制緩和は、進まないことになってしまった。この決定が下されるまでの半年、新聞業界が政界を巻き込んた特殊指定堅持の大キャンペーンを、紙面まで使って展開したことは記憶に新しいが、その時の主張は、特殊指定がなくなると「同一紙・同一価格」の原則が崩壊する、というものだった。
ところが、維持されているはずの新聞の定価販売について、意外な話が耳に入るようになって久しい。2004年11月には、マイニュースジャパンが「あなた、新聞にいくら払っていますか?
」と題するレポートを掲載し、販売店サイドから安売りの実態を紹介した。だが、安売りだけでなく、逆に、上乗せもされているというのだ。
◇旧住民500円、新住民700円の上乗せ
通常の購読料よりも高い額が徴収されるケースとして、栃木県那須町の例を紹介しよう。
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那須町付近の地図
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那須町には、二枚橋という山間部の地域がある。町の中心部からは10キロも離れている辺鄙な地である。戸数は20軒ほど。つい半年ほど前まで、新聞は那須町の中心部にある中田新聞舗(仮名)が郵便局に委託して、第3種郵便という形で配達されていた。郵便物扱いであるから、早朝には届かない。休日の配達はない。さらに折込チラシは折り込まれていない。
ちなみに中田新聞舗は、新聞社の専属店ではなく、独立して全紙を扱う合売店である。だからこの地域の人々は、セールス・トークや景品に左右されることなく、自分で読みたい新聞を選んでいる。
上乗せされた新聞の価格を問題にしたのは、二枚橋に住む佐藤薫さんという女性である。佐藤さんによると、2006年の6月まで、新聞の配達料として通常価格に700円を上乗せした額を徴収されていたという。しかも、上乗せ料金の額は、二枚橋に昔から住んでいる住人と佐藤さんのように新しい住民との間にも差があったという。昔からの住人は、500円だったそうだ。
◇東京新聞は返金、産経・日経は「関知せず」
新聞の値引き販売が違法行為であると知ったのは、皮肉なことに、新聞業界が大々的に繰り広げた特殊指定堅持のキャンペーンを通じてだった。
当時、佐藤さんは東京新聞を購読していたのであるが、再販価格が守られていない問題を指摘したところ、東京新聞の販売部長と中田新聞舗の店主がやってきて、過去にさかのぼって、上乗せ料金を返済したという。この経緯については、佐藤薫さんが「新聞料金、17年も上乗せ徴収の事実 特殊指定「同一価格」の嘘
」と題するレポートをマイニュースジャパンで公にしている。
佐藤さんは、東京新聞を購読する前は、産経、日経、朝日などを購読していたという。このうち朝日は、中田新聞舗とは取引がない、と説明した。産経は、口頭で次のようなコメントを寄せた。
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佐藤さんが日本経済新聞社に提出した申入書。書面による回答はなかった。 |
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「社としては割り引きの問題は関知していません。佐藤さんのご了解を戴いて追加料金を支払ってもらっていたと聞いている。基本的には、販売店と購読者の問題ではないかと認識しております」
佐藤さんは日本経済新聞社の読者応答センター(広報グループ長・高橋)に対し、ファクスで上乗せ料金の返還などを求めたが、無視され続けた。
私の質問に対しては、日経は書面で次のように述べている。
「個別読者との取引は当該地区の販売店に一任しています。販売店の事情で例外的に郵送になる場合もあるかもしれませんが、その場合、事前に販売店と読者の方との話し合いで購読するかどうか決めていただいていると考えております」
◇指摘後に正常化も、発行本社は重い経費負担せず
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日本経済新聞社から筆者に対する回答 |
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産経と日経のコメントでも明らかなように、特殊指定の原則である「同一紙・同一価格」が守られていなくても、それについて新聞社は関知しないというのである。新聞の定価販売の原則が崩れた一因が、新聞社による「押し紙」(販売店は、押し紙をさばくために割り引いて売らざるを得ない)にあるにもかかわらず、自分たちは関係がないと言っているのだ。
ちなみに佐藤さんが特殊指定違反を指摘したのを機に、二枚橋では郵便局による新聞配達が中止されて、中田新聞舗が新聞を配るようになった。
中田新聞舗の店主によると、二枚橋の読者は、たったの7名。つまり7部の新聞を配達するために、片道10キロの道を、毎朝、往復することになったのである。雪が降れば、バイクに乗るのも危険だ。採算性は最悪だ。それにもかかわらず販売店は新聞を配達しなければならない。配達を拒否すれば、新聞の供給を止められる恐れがあるからだ。
これを特殊指定にまつわる美談、あるいは英雄談として持ち上げるのは、誤りだろう。配達を命ずるのであれば、発行本社が、その追加的に生じる経費を負担すべきなのだ。
◇新聞のテリトリー制も危機に
さらに、二枚橋では、次のような興味深い現象も見られるという。佐藤さんからの問題提起を受けて、新聞が宅配されるようになると、県境を越えた福島県の白河市の販売店が「越境」してきたという。佐藤さんが言う。
「わたしは現在、福島県の白河市にある販売店から、朝日新聞を(上乗せなしで)購読するようになりました」
ところが朝日新聞に那須地域を管轄している販売店について問い合わせてみると、那須町に朝日新聞を扱う別の販売店があることが分かった。つまり「同一紙・同一価格」のルールを設定することで、同じ地域で同一紙が競争しないという、これまで守られてきたテリトリー制の原則も崩壊しているのだ。
--なぜ、那須町ではなくて、白河市の販売店を選んだのですか?
「わたしは白河市で買い物をしますから、白河市にあるスーパーなどの折込チラシが必要だからです。那須町の折込チラシでは、意味がありません」
◇「値引きはできません」と断言できない新聞社
逆に、値引き販売の実態はどうか。最近は、発行本社も値引き販売を認めているという話を聞く。値引きの実態を調べるため、わたしは新聞各社の購読受付係に電話で直接問い合わせてみた。最初に取材したのは、中央紙の中では最も「押し紙」が多いと思われる産経新聞社だった。電話に応対した女性社員にわたしは、
--景品はいりませんから、そのかわりに購読料を割り引きしていただくわけにはいきませんか?
と、尋ねた。すると驚くべき答えが返ってきた。
「割り引きに関しましては、販売店の電話番号を案内させていただいておりまして.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
